表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/152

第63話:魔族の尖兵との出会い

重く、鈍く、黒い瘴氣を引きずるような気配が、倉庫の奥からにじみ出してくる。

それは獣のような荒々しさではない。

だが、人と呼ぶにはあまりにも異質だった。


まるで、瘴氣そのものが意志を持ち、自ら形を成して歩み出したかのような――そんな禍々しい存在感。


「……ようやく気づいたか。人間ども」


低く、冷ややかな声が倉庫全体に響いた。

音ではなく、圧として胸に突き刺さるような声だった。


そこに立っていたのは、一見すれば青年にも見える姿。

だが、目を見ればすぐに分かる。燃えるような深紅の瞳。

肌のあちこちから滲み出る黒い瘴氣が、まるで呼吸のたびに空間を汚染していくように揺れている。


「お前は……魔族か?」


蒼真が警戒の色を浮かべて問うと、男は口元を吊り上げて嗤った。


「ああ。覚える必要もないだろうが――《ベルク》だ。

 名乗ったところで、お前たちはここで死ぬ運命だがな」


その言葉と同時に、空間が一変した。

まるで倉庫全体が深い水の底に沈んだような、圧倒的な重圧。

壁という壁が黒く濁り、瘴氣の奔流が空気そのものを蝕んでいく。


「リリーナはそれの解体に専念してくれ……あいつは俺が止める」


「ええ。任せて。だから、あなたは……負けないで」


短く交わした言葉に、揺るぎない信頼がこもっていた。

リリーナは魔道具の解体へと向かい、蒼真はまっすぐベルクを睨む。


「これ以上、好きにはさせない。覚悟しろ、魔族ベルク!」


蒼真の氣が静かに高まり、足元の床板がわずかに軋む。

対するベルクも、ただ立っているだけで瘴氣を波のように揺らめかせる。

二つの氣がぶつかり合い、倉庫の空間が悲鳴を上げるように軋んだ。


その瞬間、ベルクの表情がふと変わった。

眉がわずかに動き、興味を示すような目で蒼真を見据える。


「……ほう?」


低く漏れた声に、わずかな違和感が滲んでいた。

ベルクは一歩踏み出し、鼻を鳴らす。


「妙だな。お前……ただの人間じゃない」


蒼真は構えを崩さない。

だが、ベルクの視線が左眼に注がれたのを感じた。


「なるほど。微かだが、瘴氣に似た匂いが混じっている。

 人間の氣ではない。だが魔族とも違う……境界に立つような気配だ」


彼の目が、蒼真の顔――いや、眼帯に隠された左眼へと注がれる。


「……左眼か」


興味を含んだ声が、やがて嘲りへと変わる。


「隠すように覆ってるのがまた怪しいな。そこにあるんだろう?

 人の身に似つかわしくない、異質な力が」


蒼真は、ベルクの赤い瞳がじっと自分を見据えているのを感じながら、内心で静かに息を詰めていた。肌にまとわりつくような瘴氣の圧力――それ以上に恐ろしいのは、魔族の本能的な勘だった。


(……こいつ、気づきかけてる)


ベルクの視線は的確に左眼を見ている。

深くは悟られていない。だが、確実に疑念を抱かれている。


――魔族のスキル。

自分の内に眠るその力は、本来、人の身に宿ってはならない異物だ。

誰にでも打ち明けられるようなものではないし、口にした瞬間、すべてが崩れる。


もし知られれば――魔族は必ず、それを取り戻しに動くだろう。

いや、それどころか、スキルが奪えるという事実が人間側に知れ渡れば……

その力を狙う者が、今度は人の中から現れるかもしれない。

どちらにしても、自分は標的になる。


(異物として扱われるのはわかってる。……だけど)


それでも蒼真は、その力を手放す気はなかった。

それは奪ったものではない。

血の中に焼きついた、師との戦いと、命の意味を背負った証だった。


(この力がある限り……僕は誰よりも深く戦いに踏み込める。これ以上……語る必要はない)


蒼真は静かに、左眼にかかる布へと手を伸ばした。

ベルクの嗤いが止まる。

その目が、わずかに鋭さを増す。


「やはり……相当な秘密らしいな」


「答える義理はない」


淡々と告げたその声に、ベルクの口元が歪む。

嗤いが、獣のような冷笑へと変わっていく。


「フン……いいさ。わざわざ語る必要などない」


そう言いながら、ベルクはゆっくりと足を踏み出した。

その歩みはまるで獲物を嬲るように悠然としている。

瘴氣が彼の周囲に濃く渦を巻き、床が軋むほどの重圧を帯びていく。


「だがな――」


赤い瞳が蒼真を射抜く。

そこに浮かぶのは、紛れもない興味と執着。


「お前の中には、明らかに人ではない何かがある。

それが何か、俺の手で暴いてやる。首を落としたあとでな」


空気が震える。

ベルクの背後から吹き出した瘴氣が、触れた空間を染め上げるように広がっていく。

それはただの氣の流れではない。破壊と支配の意思を宿した、魔そのものの気配だった。


「お前の心も、血も、骨も――全て引き裂いて、ゆっくりと調べてやる。

 死体となってからでも、秘密は引き出せるんでな」


それでも蒼真は一歩も引かない。

むしろその目は、ベルクの中にある本質を静かに見据えていた。


「そうか……なら、まずはその口を黙らせてやる」


静かな言葉が、気配とともに鋭く放たれる。

剣を抜く音すらない。

氣が収束し、闇が震える。


ベルクの頬がぴくりと引きつる。

殺意が交差したその瞬間――


戦いが、始まった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ