表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/56

第45話:セリスと合流(朱音side)

城壁に囲まれた王都リグゼリア

その中心に広がる迎賓の広間に、静かな足音が響いた。


扉が開き、ローブをまとった聖女セリスが静かに足を踏み入れる。

その気配に、先に到着していた一行が振り返った。


「……やっと来たか」


先に声を上げたのは、王国に召喚された勇者――瀬名隼人せな はやと

どこか飄々とした雰囲気をまといながらも、その目は真っすぐセリスを見据えていた。


「お待たせしました。聖女セリス。リグゼリア王国に到着しました」


セリスは静かに頭を下げる。

その背後から、もうひとつの明るい声が響いた。


「あなたが聖女かぁ。やっと会えたね」


屈託のない笑みで近づいてきたのは、ポニーテールが揺れる少女。早乙女朱音だった。


「私は早乙女朱音。よろしく」


「私は綾小路紫苑です。よろしくお願いしますね」


一緒に静かに一礼したのは、整った顔立ちに冷たい気品を漂わせる少女、綾小路紫苑。


「東雲美咲でーす!聖女さんとは縁がないかと思ってたけど、こうして会えるとちょっと感動〜」


無邪気な笑顔で手を振ったのは、軽やかな動きの元盗賊剣士、東雲美咲。

セリスは一人ひとりに丁寧に会釈を返す。


「初めまして。こうして面と向かってお話できるのを、私も嬉しく思います」


その端正な物腰に、朱音は小さく口を感心した。


「思ったより感じ悪くない人で良かった。もっとツンとした人かと思ってた」


「……期待を裏切ってしまったのなら、申し訳ありません」


セリスはわずかに微笑みながら、柔らかく返す。

その絶妙な切り返しに、朱音が思わず「うぐっ」と言葉に詰まる。


隼人はそんなふたりを眺めながら、楽しげに肩をすくめる。


「ま、これでやっと全員集合ってわけだ。ここからが本番だな」


セリスは小さく頷き、表情を引き締めた。


「……ええ。これから開かれる《連合会議》にて、私たちはただの来訪者ではなく、この世界の未来を問われる者となるでしょう。どうか、共に力を合わせて――」


「お、おいおい、急に堅いな? 今のセリフ、ちょっと中ボス感あったぞ?」


隼人の軽口に、場の空気がわずかに和む。

そして、勇者たちと聖女、五人の顔ぶれがそろったその瞬間から

運命の歯車は、大きく回り始めようとしていた。


歓迎の挨拶もひと段落し、各自が少しずつ場の空気に馴染み始めた頃、

聖女セリスは、ひとり窓際で外を眺めていた早乙女朱音に静かに近づいた。


「……朱音さん」


声をかけられ、朱音は振り返る。


「朱音でいいよ、どうしたの?」


「ええ。少し、お話してもいいでしょうか」


「別に構わないけど」


朱音は少し特に警戒することもなく了承した。

セリスは静かに一歩近づき、優しく微笑む。


「実は、あなたのことは少し聞いていました。――蒼真から」


その名前が出た瞬間、朱音の目がわずかに鋭くなる。


「……蒼真を知ってるの?」


「はい。……彼とは、しばらく一緒に暮らしていました。あなたの道場で」


朱音の眉がぴくりと動いた。


「……道場で暮らしてた?あいつとどういう関係なの?」


「関係、と言われると難しいのですが……彼に救われたことがありました。以来、助け合いながら過ごしていたのです」


「……そうなんだ」


「蒼真さんから、あなたの名前だけは何度か口にしていました。とても、大切にしているのだと感じました」


朱音はしばらく黙ったまま、窓の外に目をやった。


「……そう。あいつがそんな事を言うなんて、ちょっと意外だな」


セリスは朱音の心の揺れを感じ取りながら、静かに言葉を添える。


「あなたに彼の事を離したらどんな顔をするだろうと……少しだけ、楽しみにしていたんです」


朱音はふっと小さく笑った。


「……ふーん。まぁ私の方が関係はずっと長いけどね」


その笑みの裏には、焦りとも嫉妬ともつかない感情が、かすかに滲んでいた。


(彼とは、しばらく一緒に暮らしていました)


セリスが穏やかにそう言ったとき、朱音の中に何かが小さく弾けた。


その場では笑顔を崩さず、「へえ」と流した。

けれど、胸の奥では。

言葉にできない“ざらり”とした感情が、静かに波紋を広げていた。


(……一緒に暮らしてた?)


蒼真のことを考えるとき、朱音の中にあるのはいつも道場の光景だった。

無骨で、熱くて、時にバカみたいで真っ直ぐで。

そんな蒼真らしさを、誰よりも近くで感じてきたという自負があった。


だからこそ、セリスのその一言が、予想以上に引っかかっていた。


(なに? 一緒にご飯食べて、一緒に寝て、隣で過ごしてたってこと?)


理屈じゃない。

ただ、むかむかする。

朱音は言葉にできないその感情の正体を探ろうとして、眉をひそめる。


(べつに、そんなのどうでもいい……はずなのに)


苦しいわけじゃない。

悔しいわけでもない。

なのに、胸がぎゅっと詰まるような違和感がずっと消えない。


(……そうか。私が知らない蒼真がいる)


そのことが、何よりも腹立たしかった。


(誰よりも近くにいたと思ってたのに……知らない顔があるなんて)


しかも、それを口にする相手が――あんなに整った顔で、上品な口調で、蒼真のことを語るセリスという存在だったことも、余計に朱音の神経を逆なでしていた。


自分の知らないところで、

蒼真が誰かと一緒にいたこと。

その誰かが、こんなにも静かで、綺麗で、気品まで備えていて――


(……だから、むかつくんだ)


ようやく、自分の中にある感情に輪郭ができた気がした。


――それは、嫉妬だった。


誰にも認めたくないし、何より自分自身がそれを否定したかった。

けれど、心は嘘をつけなかった。

朱音は小さく息を吐き、心の奥で強く決意する。


(次に会ったら……あいつ、ぜっっっったい折檻だからね!)


道場仕込みの拳と蹴り。

理由も理屈も関係ない。

全力で叩き込んでやるつもりだった。


どうしてそんなに胸がざわついたのか、その答えは、まだ朱音にははっきりと分かっていなかった。けれど、蒼真と再会したときにはきっと――否応なく、その気持ちと向き合うことになる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ