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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第29話:まさかの展開

戦いが終わった後の控えの間。

蒼真はひとり、静かに汗を拭っていた。

その木刀はすでに鞘に収められている。


そこへ、白装束の少女が現れる。


「天城蒼真――」


蒼真が振り返ると、神代静流が一歩、また一歩と歩み寄ってきた。

その瞳は、戦場で見せた鋭さとは打って変わって、穏やかな光を湛えていた。


「礼を言いに来たの。あなたと剣を交えられたこと、私の剣人生の誇りよ」


「……こっちこそ。あんたと戦えて、剣士として報われた気がする」


ふたりは静かに、向かい合う。

やがて静流が、ぽつりと呟くように言った。


「私、リグゼリアの勇者に誘われたの。あなたも知っているでしょう? 瀬名隼人という男」


「……ああ。あいつが、ここに来てたって話は聞いた」


静流は頷き、少しだけ瞳を伏せる。


「剣の才は本物だった。驚くほどに。でも、心が……響かなかったの。剣を振る理由に共感できなかった」


「……」


「でも、あなたは違う」


静流の声に力がこもる。


「あなたの剣には、重みがあった。迷いがあった。血を吐くような修行の痕があった。そして……誰かの背中を追い続ける、ひたむきな意志があった」


「そんなふうに見えたのか?」


「見えたのではなく、伝わったのよ」


静流は、真っ直ぐに蒼真を見つめる。


「あなたの剣には、迷いも苦悩も、誰かを守ろうとする決意もあった。私は、そういう剣士に惹かれる」


蒼真は少し戸惑いながらも黙って聞いていた。


そして――


「だから、お願い。私をあなたの嫁にしてほしい」


「――――はぁっ!?」


蒼真の目が、まるで木刀で殴られたように見開かれた。


「な、なに言ってんだ、あんたっ!? 嫁って、今言ったのは嫁で合ってるか!?」


「ええ。間違ってないわ」


「ま、間違ってないって……おい!? しかも戦ったばかりで、まだ本名すらちゃんと名乗り合ってないのに!?」


「でも、心は知ったわ。あなたがどんな人間か、どんな剣士か……私にはそれで十分」


「十分じゃないよ!?」


完全に動揺した蒼真が、後ずさる。

だが静流は一歩も引かず、まっすぐに彼を見据えた。


「私の生き方はいつも真っ直ぐ。剣も、想いも、貫くものなの」


「そ、そういう問題じゃなくてな……」


「なら、あなたの答えを聞くのは、今じゃなくていい。けれど、この想いは本気よ」


静流は軽く一礼し、背を向けて歩き出す。


「剣で負けた。なら、女としてあなたを振り向かせてみせる。それだけのこと」


「いや、いやいやいや……! 気持ちはありがたいけどさ……さすがに急すぎないか!?」


「なら、考える時間をあげるわ。でも答えは“はい”しか認めないけど」


静流はさらりと告げて、ふわりと一礼する。

その後ろ姿を、蒼真はしばらく呆然と見送っていた。


「……なにがどうして、そうなったんだ……」


ようやく絞り出した。


蒼真が控えの間で呆然としていると――

背後から、妙に冷えた声が響いた。


「……随分と人気なのね、蒼真」


振り返れば、腕を組んだセリスがそこに立っていた。その横には、頬を引きつらせた柚葉の姿もある。


「な、なんで二人がここに!?」


「応援に来たの。決勝戦、見事だったわ。……その後のプロポーズごっこまで、バッチリ聞かせてもらったけど?」


セリスの笑顔に、なぜか背筋に寒気を走らせる。


「し、静流さんが急に言い出して……! 僕はただの被害者というか……!」


「ふーん……なるほどなるほど。で? 嫁にしたいんだって?」


「ち、違――! その、まだ早――!」


「早いとか遅いとかの問題じゃないっつーの! 何よあの静流とかいう完璧美人!」


柚葉がプルプルと肩を震わせながら、鼻息荒く詰め寄ってきた。


「ずるくない!? ……って、べ、べつにあんたのこと好きとか、そういうんじゃないんだけどさっ!」


セリスも両手を腰に当てながら、軽く溜息をつく。


「これでますます蒼真はモテ剣士の称号決定ね。ふふ、旅に出るのがますます心配になるじゃない」


「はあぁ……どうしてこうなるんだ……」


蒼真は頭を抱えながら、剣より重たい人間関係に目眩を覚えた。


――数日後。


道場の門前に、静かな足音が響いた。

訪れたのは、正装に身を包んだ神代静流だった。


「ここが……蒼真の道場、か」


門をくぐると、道場の子弟たちが驚いたように振り返る。


「わっ……な、なんかすごい美女が来た……!」


「え、あれって……!?」


中にいた柚葉は思わず眉をしかめた。


「……なんで来たのよ、あの剣聖の跡取り」


蒼真が慌てて駆け寄る。


「し、静流さん!? まさか本当に来るなんて……!」


「ええ。だって嫁にしてって言ったでしょ?」


静流はさらりと言い、そっと蒼真の隣に立つ。


「蒼真のすべてを知るためには、彼の過去も知っておきたいと思って」


静流は顔を真っ赤にしながらうつむいた。

周囲の門下生たちは盛大にどよめいた。


「マジかよ……本気で嫁に来たぞ!?」


「えっ、なにそれ、うらやましすぎんだが!?」


「ていうか朱音さんは?浮気!?」


セリスと柚葉も蒼真の背後で仁王立ち。


「羅刹丸との修行でも、こんな混沌はなかったぞ……! どうしたらいいんだよ……!」


道場は、しばらく騒がしい日々が続くこととなった。

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