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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第25話:天城蒼真 対 神代静流

白銀の陽が、天空の中央に昇っていた。


剣の祭典《神刀祭》。

数多の剣士が競い合ったその頂き――いま、その頂上決戦の時が訪れた。


「決勝戦、天城蒼真 対 神代静流!」


場内に告げられたその名に、数千の観客がどよめいた。


ひとりは、無名の剣士。

かつては田舎道場に過ぎなかった地の出身。

だがこの数日で、誰よりも鮮烈に名を轟かせた男――天城蒼真。


もうひとりは、剣聖の末裔。

生まれながらにして剣と共に在り、そのすべてが完璧だった。

無敗の剣姫――神代静流。


静まり返った決戦の舞台に、ふたりの影が立つ。


静流は、白装束に身を包み、真っ直ぐに蒼真を見据えていた。

その瞳に、侮りも、慈悲も、そして慢心もない。

ただ純粋な、「剣士」としての敬意があった。


蒼真もまた、その眼差しに応えるように頷いた。

左眼を覆っていた手ぬぐいは外されていない。

彼は、己の中に宿った異質の力すら、今はただの一要素として沈めている。


ここに立っているのは、ただの剣士――天城蒼真だ。


「始め!」


号令と共に、空気が爆ぜた。


静流が、動く。

その剣はまるで風そのもの。

軽やかで、静謐で、致命的。


蒼真は、それを受け止めない。

受け流さず避ける。


――斬らせない。


彼は視た。

修練の果て、剣を視るという境地に己の眼を鍛え上げていた。


静流の剣が空を裂くたび、蒼真の体が揺れる。

踏み込み、捻り、腰を斜めにずらす。


紙一重の攻防が続く。

観客は息を呑み、息を忘れ、ただその場に立ち尽くすしかない。


「……やるわね」


初めて、静流の唇がわずかに動いた。

その声は小さかったが、確かに満足げな響きを帯びていた。

蒼真は応えない。ただ剣を握り直し、視線を逸らさずに静流を見据える。


(まだ、届かない。でも……見えてきた)


静流がわずかに重心を沈めた。

空気が張りつめる。観客席の誰もが、刃が交わる前の間に凍りつく。


次の瞬間――

風が裂けた。


静流の足が弾ける。

舞うように踏み込み、柔らかく地面を蹴り、蒼真の懐へ一瞬で入り込む。

その動きは、もはや剣ではない。斬撃そのものだった。


だが――蒼真は、それを視ていた。


「っ!」


刹那、彼の右足が地を鳴らし、半歩だけ後ろに引く。

だが逃げるのではない。

氣を溜め、一閃を受け切るための布石。


刀と刀が交錯する。


火花。空気の歪み。

斬撃と反応速度の限界がぶつかり合い、瞬間にして数十の技が交わされた。


蒼真は追い詰められていた。

静流の剣は迷いがなく、どこまでも速い。

一手、二手先を読み、さらにその上を行く刃が突きつけられる。


しかし、蒼真の瞳は曇らない。

読み合いの中で、彼は静流の思考を感じ始めていた。


(これが……静流さんの間合い……気配……)


一太刀ごとに氣の揺れを察知し、刃筋の方向を読む。

斬り合いの中でしか掴めない、剣士同士の会話がそこにあった。


「どうしたの?これで終わり?」


静流が問う。

言葉の奥に、確かに喜びの気配があった。

この一瞬を、心の底から楽しんでいる者の声だった。


蒼真は息を吐き、答えた。


「まだ終わりじゃない」


刹那。

静流が踏み込む。

蒼真もまた、同時に踏み込む。


同時の打ち合い。

互いの氣がぶつかり合い、空気が爆ぜる。

刃が互いの首元に届く寸前で、ピタリと止まった。


観客の誰もが声を失った。

そして、風に吹かれて二人の髪が揺れる。


「……っふ」


先に剣を下ろしたのは、静流だった。

その表情には、今まで誰も見たことのない微笑みがあった。


「いいわ。もっと、続きをやりたくなった」


蒼真もまた、肩で息をしながら、微かに笑った。


「僕もです。ようやく……本当の勝負の入口に立てた気がする」


この戦いは、まだ終わらない。

いや、ようやく始まったばかりだった。

剣士としての魂が交差する、その真の瞬間がここにあった。


次の瞬間。

観客席に、ざわめきが走った。

静寂を切り裂くように、誰かが立ち上がって叫ぶ。


「うぉぉぉぉぉ!!」


その声が火種となった。

次々に立ち上がる観客たちが、歓声を上げはじめる。


「すげぇ……今の見えたか!?」

「いや、もう何がどうなってんのか……でも目が離せねえ!!」

「どっちも、まるで舞ってるみたいだ……!」


熱気が、波のように会場を飲み込んでいく。

目の前で繰り広げられる超高速の攻防――

それは剣術の域を超えた、芸術のようでもあった。


「静流さま! がんばってー!!」


「負けるな蒼真ーっ!!」


観客たちは、ただ見守る者ではなくなっていた。

その一太刀ごとに息を呑み、剣気の爆ぜるたびに身体を震わせる。

誰もが、彼らとともに戦っているような心地になっていた。


「こいつら……次元が違う……!」


どこかの剣士が、呆然と呟く。


「……もう試合じゃない。これは伝説になるぞ」


誰かが言ったその言葉に、誰も異論を挟めなかった。


まるで英雄譚の一幕のような戦いが、今まさに目の前で繰り広げられている。

それも、今を生きる少年少女たちによって。


そして、その中心に立つ蒼真と静流。

剣を交えながら、互いを確かめ合い、限界を押し広げていく。

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