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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第19話:セリスとの出会い

蒼真は、神刀祭の受付会場へと足を進めていた。

城下の広場に設置された特設受付所。すでに剣士志望の男たちが列を作っており、彼もそこに並ぼうとした、その時だった。


「そこのあなた。そこの黒き眼の方」


澄んだ声が、突如通りの向こうから飛んできた。

振り返ると、白と金の神官服をまとった、一風変わった雰囲気の少女がこちらを指さしていた歳は十六、七だろうか。どこか浮世離れした瞳と、不自然なまでにふわふわした口調。


「あなたに神の声が届いております。無視すると、ちょっとした神罰が降るかも……です」


蒼真は眉をひそめる。

「……勧誘なら他をあたってくれ」


「違います。これは神の導きなんです。あ、拒否しても構いませんけど……その場合、あなたの旅路には一生、突然のにわか雨がつきまといますよ」


「……それ、神罰っていうか、ただの嫌がらせだろ」


少女は咳払いした後、真顔で言った。


「今のは冗談です。この時代に人でありながら魔の加護持ちである人……実際に存在したことに驚きました」


蒼真の表情がわずかに強張った。


「……なぜそれを」


少女はにこりと微笑んだ。


「言ったでしょう。神の声が、私には届くのです」


蒼真は一瞬、警戒する。

しかしその少女の氣には敵意も力の圧も感じられなかった


「わかった。少しだけ話を聞こう。……雨に濡れるのも嫌だしな」


「ふふっ、賢明な判断です。魔に選ばれし者さん」


その言葉に、蒼真の背筋がかすかに粟立った。


蒼真が神刀祭の受付に向かう途中で出会った変な聖女――名を「セリス」と名乗ったその少女は、静かな場所に腰を下ろすと少し恥ずかしそうに語りはじめた。


「……実は、私、本当はリグザリア王国に向かう予定だったんです。勇者・隼人様のパーティーに正式に加わるために」


「勇者の……?」


蒼真の眉がぴくりと動いた。


「はい。でも……あの、船を……間違えちゃって」


「……は?」


「医療支援を募集してる船に急いで飛び乗ったら……ここに着いちゃいました。港に降りた瞬間、見たことない景色で愕然としました」


「……」


「さらにお財布を落としてしまって、今、所持金ゼロです」


「お前……それで神の導きとか言ってたのか……」


蒼真は額を押さえる。セリナは恥ずかしそうにうつむきながらも懸命に笑った。


「でも、これはきっと意味のある間違いだと思うんです。だって、あなたに出会えましたから」


「……そっちが勝手に導きに変えるな」


「それでも、導きは導きです」


セリナはそう言って、にこっと笑った。

その笑顔にはどこか、世界の理屈を超えた鈍感な強さと信仰者ならではの芯があった。


「……それで、どうするつもりだ」


「それがですね……金銭的な理由で、この国から出られなくなっちゃって。宿代も払えないし……」


「つまり、完全に詰んでるってわけか」


「はい。……あ、でも! 一応、神術は扱えますよ! 回復と祝福くらいなら!」


「……なるほどな」


「なあ、ひとつ聞かせてくれ。なんで、俺の左眼のことがわかった?」


「ふふ……やっぱり気になっていましたか?」


「隠してたはずだ。初対面のあんたが、これを見抜く理由がわからない」


聖女は少しだけ目を伏せ、胸元の小さなペンダントに手を当てた。


「あなたの左の眼。隠しても無駄ですよ。私には視えるんです。人の運命に差す影……あるいは、導きの光……その片鱗が」


「……俺の左眼が導きってのか?」


「ええ。あなたの中には選ばれし者ではない者が、選ばれた者を凌ぐ可能性が宿っています」


「可能性、ね……都合のいい言葉だ」


「そう思っていても構いません。けれど、あなたの旅路はただの剣士のものではない。その証が、すでにあなたの中に刻まれている」


少女は懐から小さな布の包みを取り出した。中から現れたのは、精緻な刺繍が施された白い布だった。


「……これは?」


「これは加護を静かに封じるためのものです。特別な祝福を編み込んであります」


蒼真はしばらく黙って布を見つめていたが、やがて小さく頷いた。


「……ありがたくもらう。悪いな」


「神の導きが、あなたの旅路に影を落としませんように」


少女の声はどこまでも穏やかだった。

蒼真は、神刀祭の受付に視線を向ける。


「借りっぱなしってのも性に合わない。俺が神刀祭で優勝したら、その賞金であんたの旅費ちゃんと払わせてくれ」


聖女は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに慈愛に似た笑みを浮かべた。


「まあ……頼もしい。ですが優勝など簡単ではないのでは?」


「やるよ。やるって決めた」


遮るように言う蒼真の声音には、どこまでもまっすぐな意思が宿っていた。

それに、聖女も何かを感じ取ったのか、軽く頷いた。


「ええ。では……信じて待っています」


「それと、もうひとつ。道場に俺の知り合いがいるんだ。しばらく、そこに寝泊まりできるよう頼んでみる。さすがに野宿はきついだろ」


「本当に……いいのですか?」


「事情を話せばきっと理解してくれるはずさ」


セリナの顔がぱあっと明るくなる。


「ほんとに!? 神は……神は私を見捨てていなかった!」


「いや、間違いなくお前を試してるだけだろ」


「試練こそ、信仰の証です!」


聖女は少し黙ってから、深く礼をした。


「感謝します。神の加護が、あなたの剣に導きを与えますように」


「神は信じてないが……ま、悪い気はしないな」


冗談めかした蒼真の言葉に、聖女はくすりと笑った。



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