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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第13話:旅の目的

眩しい閃光とともに、空間が軋むようにしてひび割れた。

蒼真の身体が重力を取り戻し地に膝をつく。そこは、羅刹丸の待つ現実の山中だった。


「……戻ったか」


羅刹丸の低い声が霧の中から響く。

蒼真は肩で荒く息をしながら、木の根元に寄りかかる。

だがその眼光は、燃え尽きるどころか、今まで以上に研ぎ澄まされていた。


「……三百六十五日、地獄でした」


その言葉に、羅刹丸は小さく笑う。


「そうか。だが、ここではまだ一日だ」


蒼真の口元にも、わずかながら笑みが浮かぶ。


「……時間よりも、痛みの数が全てを物語ってますよ。何度も死んだかと思った」


「だが、死んでいない。よく、この試練を乗り越えた」


羅刹丸はゆっくりと歩み寄り、蒼真の前で立ち止まる。

その眼は、確かな敬意を帯びていた。


「かつての俺も、無明の扉で己を砕き続けた。だが、お前はそれを超えた。凡人では届かぬ領域に足を踏み入れた」


蒼真は静かに立ち上がった。

重い身体に、なお一本の芯が通っている。


「……俺はまだ、勇者には届いていないと思う。けれど、もう凡人ではないと……ようやく思えるようになりました」


羅刹丸はふと蒼真の姿をじっと見つめた。


「……ほう」


低く漏れた声に、蒼真が首を傾げる。


「どうかしましたか?」


「いや……お前、随分と背が伸びたな」


羅刹丸は腕を組み、かすかに口角を上げた。

目の前の少年は、かつて初めて会ったときよりも、明らかに大きく逞しくなっていた。


「人間というのは……実に面白い。たった一年で、ここまで変わるか」


「成長期だったから伸びしろがあったんでしょ」


蒼真が冗談めかして笑うと、羅刹丸はふっと鼻で笑った。


「成長は、肉体だけにあらずだ。剣も氣も……そして心も、だ」


その眼差しには、かつてないほどの深い感慨が宿っていた。

夜の風が、岩壁に当たって微かに鳴いた。

焚き火の火花がぱちりと弾けたその時、羅刹丸が口を開いた。


「……さて、蒼真。ひとつ、聞いておこう」


「……はい?」


「お前はここを出たら、どうする?

幼馴染の女だったか。お前は、その娘の後を追うつもりなのか?」


直球の問いに、蒼真の目がわずかに揺れる。

そしてゆっくりと、その揺れを抑え込むように目を閉じた。


「……わかりません」


「ほう?」


「昔の僕なら、きっと迷わず追いかけていたと思います。でも、今は……違う気がするんです」


羅刹丸は黙って蒼真を見つめる。


「彼女は、彼女の道を進んでいる。勇者の仲間として、王国のために」


「僕は……それをただ追いかけるだけじゃ、何にもなれないと思いました」


火が小さく跳ね、蒼真の表情を照らす。


「だから、まずは自分の道を探します。自分がどんな剣士になりたいのか。何を守り、何のために立ち続けるのかを」


「彼女を追う前に、僕は……自分を見つめ直したい」


羅刹丸はしばらくの間、何も言わなかった。

そして、ようやく静かに頷いた。


「……それでいい。いや、それがいい」


「惚れた女を追うだけの剣士など、いつか刃を鈍らせる。何のために剣を振るうのかを見失わなければ……その道の先で、再び交わることもあるだろう」


蒼真の目が、炎の奥に何かを見つめるように細められる。


「はい。今度会うときは……彼女に胸を張れる自分でありたいです」


「よく言った」


羅刹丸は空を仰ぎながらぽつりと呟いた。


「……蒼真。お前に、勧めたい場所がある」


「どこですか?」


「魔族領だ。俺の故郷でもある」


蒼真は驚いたように目を見開いたが、すぐに口を閉じて耳を傾けた。

羅刹丸は、いつになく柔らかな声で続ける。


「この世は歪んだ。人と魔族は互いに憎しみ合い、隔てられたまま今に至る。だが、昔は違った」


「……?」


「遥か昔、俺がまだ若かった頃、人間と魔族は手を取り合って生きていた。ともに狩りをし、ともに酒を酌み交わし、ともに剣を学んだ」


焚き火がはぜる音の中で、羅刹丸の声音に懐かしさがにじむ。


「だがある時から、世界は変わった。勇者という存在が現れ、人間は外の力を手に入れた。そして、魔族を異端と断じた」


蒼真は言葉を飲み込む。


「だからこそ、お前に行ってほしい。魔族の地を見て、触れて、知ってほしい」


「そして、もしできるなら何かを変えてくれ」


蒼真は羅刹丸を見つめながら、静かに答えた。


「……僕に、できるでしょうか」


「できるかどうかじゃない。やるかどうかだ。お前は、そういう男だろう?」


蒼真は黙って頷いた。

そしてこの夜、蒼真の中に新たな目的が芽生えた。


ただ剣を極めるだけでなく、

争いの狭間にある“何か”を見つける旅へ

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