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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第11話:無明の扉

「次の段階へ進む時だ」


羅刹丸は漆黒の箱をひとつ取り出した。

古ぼけた封印符が何重にも巻かれたそれは、開けるだけで剣気が空気を震わせる。


「これは、無明の扉。俺が生涯で戦った、最も強き者たちの幻影を封じた魔道具だ」


箱を地面に置き、羅刹丸が箱を開けると空間が裂けるようにして黒い扉が現れる。風が逆流し、空間がねじれる。


「この中では、俺がかつて命を懸けて刃を交えた者たちと、同じ強さで対峙できる」


「……そんなことができるのか」


「そして覚えておけ。幻影のため、この空間では死ぬことはない。

 だが痛みは、すべて現実のままだ。」


静寂が流れる。


「何度も斬られ、何度も死ぬような苦しみを味わうことになる。

 その度に、精神を削られる。

 実際、過去にはこの箱に挑んで戻ってこなかった者もいる」


蒼真の喉が小さく鳴った。


「……発狂、するってことか」


羅刹丸はうなずいた。


「……もうひとつ、言っておくべき制約がある」


蒼真が顔を上げると、羅刹丸は無明の扉の表面をそっと撫でながら言葉を続けた。


「この修練を一度始めたら、一定の期間は外には出られぬ。

 最低でも一年。」


蒼真の目が見開かれる。


「一年も……?」


「だが、こちらの世界ではわずか一日しか経たぬ。

 つまり、外の者にとってはお前が一晩姿を消すだけの話だ。

 だが、中にいるお前にとっては、文字通り生き地獄の一年になる」


羅刹丸は、わずかに口元を歪めて笑った。


「肉体は現実と変わらず、痛みも疲労もそのまま。

 何度斬られ、何度倒れようと、目を背けずに立ち上がり続ける覚悟がなければ

 精神が先に崩れる。」


蒼真は拳を握りしめた。

目に宿るのは、恐怖ではなく――意志。


「一日で、一年分の修練……魔族はこんなものまで持ってるのか。

 時間が圧縮されてて、過去の強者とも戦えるなんて」


羅刹丸は、静かにを見つめた。


「……これは、魔族の至宝だ。

 同じものは――世界に二つと存在しない。」


蒼真は息を呑んだ。


「至宝……?」


羅刹丸は目を閉じ、一瞬だけ昔を懐かしむような表情を浮かべた。


「本来は、精神を壊すための拷問具として作られたものだ。

 絶え間なく現れる強敵、過去の悪夢、永遠の戦い。

 倒れても倒れても終わらず、痛みは本物。

 死ねないのに、死に続ける……それがこの箱の本質だ」


蒼真は、思わず箱を見つめた。

その黒光りする表面が、ただの魔道具ではないと、直感が告げていた。


「じゃあ……なんであなたは、こんなものを……修行なんかに使ってるんだ」


羅刹丸の赤い瞳が、微かに笑みを浮かべる。


「剣を極めるというのは、魂を極めるということだ。

 そのためには、拷問だろうが地獄だろうが歓迎すべき鍛錬場になる」


「……狂ってるね、あなたは」


「その狂気こそが、強さの門を開く鍵だ」


羅刹丸は、箱の上にそっと手を置いた。


「――お前が本気なら、この地獄を踏み抜いてみせろ」


沈黙の中、蒼真は一度だけ大きく息を吐いた。


「上等だよ……羅刹丸。

 その拷問、修行に変えてやる。僕は絶対に負けない」


羅刹丸の赤い瞳が、微かに笑みを浮かべる。


蒼真は扉を両手で開く、すると淡い紅の光が浮かび上がり気配が変わった。

気がつけば、彼の周囲の山は消え、荒れ果てた古戦場へと変貌していた。

風が吹く。草が鳴る。地は乾いていた。


「……ここは」


「最初に相対する相手は、俺が若き日に唯一心臓を貫かれかけた剣士。心して挑め」


その声だけを残し、羅刹丸の気配は消える。


目の前に、一人の男が現れる。

黒衣に身を包み、白銀の長髪をなびかせた剣士。


蒼真は、構えた。

相手の氣を感じた瞬間、肌が粟立つ。

次の瞬間、銀の軌跡が稲妻のように走った。


――斬撃が、空を裂いた。


蒼真はそれを、かろうじて受け止めた。

だが腕が痺れ、膝が沈む。


「……これが、羅刹丸を追い詰めた剣……!」


銀の軌跡がまたも、蒼真に迫る。

それはもはや斬撃という概念を超え、空間そのものを断ち切るような絶技だった。


「くっ……!」


蒼真は紙一重で身を翻し、背中を裂くような熱に耐えるが、構えは崩さない。


(見えない……いや、感じるんだ)


目ではなく、氣で読む。

相手の呼吸、氣の流れ、わずかな殺意のうねり。

全神経を集中し、蒼真は地を蹴った。


「――ッ!」


真正面から突き進む蒼真の姿。


「斬られても、止まらない!」


蒼真の剣が、渾身の咆哮と共に振り下ろされた。


だが――


ガキィィン!!


剣士の剣が、それを受け止めていた。

次の瞬間、視界が跳ねる。蒼真の身体が吹き飛ばされたのだ。

転がり、地を這い、咳き込みながら起き上がる蒼真。


(重い……! 一撃ごとに、全身が軋む……)


立ち上がるたび、全身が軋み、骨が悲鳴を上げる。

だが――彼の目からは、光が消えなかった。


「一撃で勝てるとは思ってない……俺の剣は、そういう剣じゃない」


蒼真は、再び立ち上がる。


「何度斬られようと構わない! そのたびに、あなたの技を、この身に刻み込む!」


その叫びに、銀髪の剣士が初めて眉をひそめた。

彼の修行は、まだ地獄の序章にすぎなかった――。


あるのはただ――


この場で斬り、生きて、超えるだけだ。


蒼真は全身の感覚を研ぎ澄まし、再び剣を構えた。

彼の修行は、ついに幻想すらも超える戦場へと突入する。

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