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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第106話:敵は魔族のみにあらず

部屋に戻った蒼真を待っていたのは、朱音とセリスの鋭い視線だった。


「蒼真」


朱音が腕を組みながら立ちはだかる。その表情は普段の穏やかさを失い、厳しいものになっていた。


「本当に何もなかったの?」


セリスも静かに、しかし威圧的な雰囲気を漂わせながら蒼真の前に立った。


「私たちには嘘をつかないでください。あなたの表情を見れば分かります」


蒼真は内心で冷や汗をかいていた。確かに魔族ベルクとの戦闘現場を調査していたが、イリスとの時間も過ごしていたのは事実だった。


「いや、本当に何も……」

「嘘」朱音がきっぱりと言い切った。


「あなたがそんな顔をするときは、必ず何か隠し事をしているときよ」


セリスも頷く。

「すぐに分かります。正直におっしゃってください」


その時、部屋の扉が軽やかにノックされた。


「失礼します」

現れたのは――リリーナだった。彼女は優雅な仕草で部屋に入ると、にこやかに微笑んだ。


朱音が驚いて振り返る。


「あなたは?どうしてここに?」


リリーナは微笑むと、懐から一枚の書状を取り出した。


「実は、セリス様からのご命令で参りました」

「セリスからの?」

「はい。蒼真様の監視任務を拝命いたしました」


リリーナは悪戯っぽく笑いながら書状を広げた。


「セリス様の直筆で、『蒼真の行動を密かに監視し、怪しい動きがあれば報告せよ』と」


朱音が驚愕の表情を浮かべる。

「セリス、あなた蒼真を監視させてたの?!」


「い、いえ、それは……」セリスが慌てて手を振る。


「重臣たちが監視を付けようとしていたので、信頼できる者にお願いしました」


朱音の表情が複雑に変わった。

「それって……」

セリスが小さく頷く。

「どうせ監視されるなら、蒼真に敵意を持つ者より、リリーナのような信頼できる人の方が良いと思ったのです」


リリーナが上品に咳払いをする。


「それで、ご報告があります」


彼女は蒼真を見つめて、にっこりと微笑んだ。

「本日午後、蒼真様はカフェにて、女性と数時間ほどお過ごしになられました」


部屋の空気が一瞬で凍りついた。

蒼真の顔から血の気が引いた。冷や汗が背中を流れ落ちる。


「そ、それは……」


朱音の瞳が険しく光る。

「女性って……誰?」


セリスも静かな怒りを込めた声で尋ねる。

「調査中に、見知らぬ女性とお過ごしになったということですか?」

「ち、違う!あれはただ……」


蒼真が弁解しようとするが、リリーナが続ける。

「お二人はとても親密そうで、その女性は終始笑顔でいらっしゃいました」


「……へぇ~」朱音の声が氷のように冷たくなった。

「つまり……」セリスが立ち上がる。

「調査をしていたのではなく、正体不明の女性とデートをしていたということですね」


蒼真は完全に追い詰められた。額には大粒の汗が浮かび、声も震えていた。

「あの、えーっと……どう説明すれば……」


朱音が一歩前に出た。その瞳には怒りの炎が宿っている。

「調査中をサボってナンパとは、いい度胸ね」

「ナンパじゃない!」蒼真が慌てて否定するが、朱音の怒りは収まらない。

「じゃあ何よ?」朱音の声が低く、危険な響きを帯びた。


「魔族の脅威について話し合っている最中に、あなたは見知らぬ女性と楽しくお茶していたのね?」


セリスも冷ややかな視線を向ける。

「私たちが必死に手がかりを探している間に」

「違うんだ、あれは偶然で……」


リリーナが興味深そうに観察している。

「あらあら、修羅場ですわね」


朱音が振り返ってきっと睨んだ。

「リリーナ、その女性の特徴をもっと詳しく教えて」

「はい」リリーナが上品に微笑む。


「銀髪でとても美しい方でした。蒼真様より少し年上に見えましたが、とても上品な立ち振る舞いで」

「銀髪……」朱音が呟く。「どこの貴族の令嬢かしら」

蒼真の冷や汗がさらに増した。


蒼真は深く頭を垂れた。自分のうかつさが情けなかった。

(監視が付くことなど、十分に予想できたはずだ……)


レンが自分を疑っている状況で、重臣たちが何の対策も取らないはずがない。それなのに、すべての警戒心を忘れてしまった。

(俺は探査が苦手すぎるのか……?)


戦闘では冷静さを保てるのに、こうした政治的な駆け引きや人間関係の機微については、まるで子供のように無防備だった。


リリーナの存在にも全く気付かなかった。カフェでイリスと過ごしている間、完全に油断していたのだ。

蒼真は天を仰いだ。


(もっと探査の修行をしよう……真面目に)


魔族の気配を察知する能力も大事だが、身内の監視も同じくらい重要だった。いや、ある意味では身内の方が怖い。魔族は正面から襲ってくるが、身内は笑顔で背中を刺してくる。


(敵は魔族だけじゃなかった……)


この王城には、自分を疑う者、陥れようとする者、そして何より――怒った女性たちがいる。蒼真は項垂れた。


(朱音の怒った顔、セリスの冷たい視線……魔族より怖いかもしれない)


戦場では冷静に敵の動きを読めるのに、どうして日常生活ではこんなにも無防備になってしまうのだろう。


(今度から街に出るときは、後ろも上も左右も全方位警戒しよう……)


そして何より、美女に声をかけられても動揺しないメンタルを鍛える必要があった。

蒼真は深いため息をついた。

(失ったものを取り戻すのは、魔族と戦うより困難かもしれない……)

特に女性の信頼を取り戻すのは、魔王を倒すより難しい気がしてきた。

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