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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第103話:場違いな甘味処

石畳を抜けると、そこにあったのは洒落た暖簾のかかった甘味処だった。

木の看板には色鮮やかな筆文字で店名が描かれ、窓越しには盛り付けの美しい菓子や冷たい飲み物を楽しむ人々の姿が見える。


イリスは嬉しそうに扉を押し開けた。

「ここです。前から一度来てみたかったんです」


店内に一歩踏み入れた瞬間、蒼真は周囲の視線を感じた。

賑やかに談笑する客はほとんどが若い女性や恋人同士。

花柄の飾りや甘い香りに包まれた空間は、剣を握る戦士にはあまりに場違いだった。


(……ここは僕の来る場所じゃないよな)

蒼真は居心地悪そうに視線を落とす。


だが、イリスは全く気にした様子もなく席へ案内し、楽しげに言った。

「見てください、このメニュー。どれも美味しそうでしょう?」


彼女が差し出した木製のメニュー表には、色鮮やかな菓子や飲み物の絵が並んでいる。蒼真はため息を飲み込みつつ、それを受け取った。


「……正直、こういう場所は初めてだ」

思わず漏らした言葉に、イリスはくすりと微笑む。

「なら、今日が記念日ですね」


その無邪気な笑みに、蒼真は一瞬だけ返す言葉を失った。

(……どうして僕は、こんな場違いな場所で初対面の女性と向かい合っているんだ?)


蒼真は手にしたメニューをしばらく眺めた。

鮮やかな色彩の絵と、華やかな名前が並んでいる。

「限定苺パフェ」「プリンアラモード」「蜂蜜氷」――どれも彼にとっては未知の世界だった。


(……どれもよく分からない。剣の型や戦術なら即座に選べるのに、甘味一つでここまで迷うとは……)


眉間に皺を寄せて黙り込む蒼真を見て、イリスがくすりと笑う。

「蒼真さん、無理に悩まなくてもいいですよ。……おすすめしてもいいですか?」


「……ああ、頼む」

少し気恥ずかしそうに答えると、イリスは迷いなく指をさした。

「これ、季節限定の苺パフェ。すごく人気らしいんです」


蒼真はメニューに描かれた、鮮やかな赤い果実と白いクリームの層を見やり、わずかに苦笑した。

「……ずいぶん華やかだな。僕には似合わない気がするが」


「そんなことありません」

イリスは柔らかく微笑み、瞳を輝かせる。

「せっかくですし、普段選ばないものに挑戦してみるのも楽しいですよ」


蒼真は一拍の間を置き、観念したように頷いた。

「分かった。それにしよう」


イリスは嬉しそうに頷き、店員を呼んで注文を告げた。


やがて、ガラスの器に盛られた豪華なパフェが運ばれてきた。

鮮やかな木苺が宝石のように輝き、白いクリームがふんわりと山を作り、その上から甘酸っぱいソースが流れ落ちている。


「お待たせしました、苺パフェです」

店員が丁寧に置いた瞬間、周囲の視線がちらりと蒼真へ集まる。

剣士と華やかな甘味の組み合わせは、あまりに不釣り合いに見えたのだ。


蒼真は無言でスプーンを手に取り、少しだけ躊躇した。

(……どうやって食べるんだ、これは)


結局、上に乗った木苺をひとつ掬って口に運ぶ。

甘酸っぱさと冷たい甘みが舌に広がり、思わず瞳を瞬かせた。

「……これは……」


イリスが楽しげに身を乗り出す。

「どうですか? 美味しいでしょう?」


蒼真はわずかに頬を赤くし、気恥ずかしそうに頷いた。

「……ああ、思ったより悪くない。美味しいな」


イリスはその反応が可笑しかったのか、くすくすと笑い声をもらす。

「蒼真さん、とても真剣な顔で食べるんですね」


「……不慣れなんだ。こういうの食べるの初めてで」

蒼真は肩をすくめ、再びスプーンを口に運ぶ。

そのぎこちない仕草に、イリスの微笑みはさらに深まっていった。


「恋人が出来た時のために、こういう店はおさえておくことが重要ですよ」

イリスは軽やかに笑いながら、パフェの上の果実をつついた。


「……僕にそんな日が来ると思うか?」

冗談めかした問いに聞こえたが、蒼真の声音にはほんのわずかに照れが混じっている。


「来ますよ、きっと」

イリスは即答する。カチリとスプーンの音を立てて彼女は真っ直ぐに蒼真を見つめた。

「だって不器用な人ほど、いざという時に大切にしてくれそうですもの」


蒼真は一瞬言葉を失い、視線を皿に落とした。

イリスはそんな彼を見て、楽しげに肩をすくめる。

「ほら練習だと思って。甘味も、会話も」


彼女のからかうような一言に、蒼真は小さく苦笑を返し、また一口、パフェをすくった。イリスはパフェの層を嬉しそうに崩しながら、ふと小さな笑みを浮かべた。


「本当は、持ち帰りよりもお店で食べたかったんです。だから蒼真さんと出会えたのは、もしかしたらラッキーだったかもしれません」


スプーンを止めた蒼真が眉をひそめる。

「そうなのか?」


「ええ」

イリスは頬を少し膨らませて、肩をすくめるように続けた。

「本当は一人連れがいたんです。でも、甘味処を五軒ほど巡り歩いたら青ざめた顔になって……そのまま逃げ出すみたいに去っていったのよ」


苦笑まじりに言うイリスの姿に、蒼真は思わず目を瞬かせた。

「……五件も……」


「ふふ、私、甘いものが好きなんです」

そう言って苺を口に運ぶイリスの横顔は、無邪気そのものに見える。


だが蒼真は、スプーンを握ったまま内心で思う。

(……どこか掴みどころのない人だな。氣配が希薄すぎて不自然だ。氣配を感じ取れなかったことも含め、どうにも気にかかる……)


口に広がる甘酸っぱさと同時に、蒼真の胸奥には別の苦みが残り続けていた。

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