#8 世界の答え合わせ②
#8 世界の答え合わせ②
──10年前 レクシア王国 中央広場
「なぁ、カイル?神様ってどんな見た目してると思う?」
「そりゃもちろん、キレーなお姉さんでしょ!」
カイルが興奮気味に答えると
「えー、髭モジャモジャのおじさんだよきっと!」
「会ってみたいな、いつか」
「リゼルなら会えるんじゃないか?だってほら、その左手のやつあるし」
「そうだね、きっといつか」
リゼルは左手を天に掲げて満面の笑みで語った。
──10年後 『10月15日』 旧魔王城 玉座の間
「リゼル!」
「…よくここまで辿りついたなカイル」
玉座に座り、深く黒いフードを被ったリゼルは低い声で答えた。
その横には魔王ヴェルトがまるで置物の様に静かに佇んでいた。
「お前、こんな所で何やってるんだよ!」
カイルは抑えきれない怒りをリゼルにぶつけた。
「なぁ、カイル。”神”はお前が言う通り女だったぜ」
「はぁ?何の話してんだよ!今、世界は大変なことに…」
──魔王の脅威の消えた世界はかつてないほどの混乱に陥っていた。
まるで、脅威があった頃が嵐の前の静けさだったかの様に。
まず、”真神教”はリゼルは”神の現世の姿”ではなく、”リゼルその人が神である”とし”リゼル教”と名を改めた。まるで最初から仕組まれていたかの様に。
そして、”リゼル教”に”勇者リン”が誕生した。
程なくして、”リゼル教”はアズラン村を中心に新王国を建国したことを宣言した。その国の名は”リゼル王国”初代国王にはローベルが即位した。
リゼルの”強制命令”が解除された”旧神教”の信者──レクシア王国は”リゼル教”を異教徒として両陣営の戦争が始まった。
”神託”によって強化された”旧神教”の信者と”勇者リン”を中心とした”リゼル教”の争いは熾烈を極めていた──
「知ってるよ、何もかもな」
「だったらなんで──」
「すべては俺が仕組んだことだからな」
「なんで俺が”旧神教”の勇者のままかわかるか?」
「”あいつ”は恐れているんだ。俺が死ぬことを」
「今の俺はすごいぞ、そこにいるヴェルトの”本体”を瞬殺できるほどにな」
隣にいたヴェルトの顔がこわばった。
「お前は信じるか?」
「この世界の上にももう一つ世界があるって」
「俺たちは所詮”神VS魔王”のためだけの存在にすぎないんだ」
──『5月16日』魔王討伐後 魔王城 玉座の間
「…何が聞きたい?」
魔王ヴェルトは唇を震わせながら、かつて自分が座っていた玉座に座る
リゼルに静かに尋ねた。
「玉座の下、これが”別の世界”に繋がるゲートか?」
「…お前はどこまでわかっている?」
「俺は”真神教”の信仰対象になって”神がこの世界に降り立った存在”である勇者になった」
「この信仰の力は勇者である俺にきた」
「おかしいと思わないか?
もし”神”がこの世界にいるとすれば、その”神”が”勇者”となり俺に信仰の力はこない」
「──つまり、”神”は別の世界にいると考えたわけか」
「あぁ、それはお前もだろ?」
「なぜ、そう思った」
「お前は魔力切れしていたはずなのに止めを刺すときに”暗黒魔法”が使えた」
「……そうか、もうすべて見抜かれていたか」
魔王ヴェルトは、もはや隠す意味もないと理解し、は静かに語り始めた。
「…お前らが”神”と崇めているのは我と”上の世界”で覇権を争っている宿敵だ」
「我ら力の源はそれぞれが持っている”人間界”と”魔族界”からの信仰だ」
「だから互いの世界にそれぞれの魔力の一部を送り込み、少しでも力を削ごうとしている」
「…リゼル。我はもう長き戦いに疲れた。お前が”神”との戦いを終わらせてくれるなら─」
「ふざけるな!」
これまで抑えていた怒りが爆発し、リゼルは激昂した。
「俺たちは覇権争いに利用されていたってか?」
「お前との戦闘で散っていった人たちは?あの人たちのに何か救いがあったてのか?」
「…我は、すべて全て受け入れよう」
「こんな世界を作ったお前たちを決して許さない」
──『10月15日』 魔王城 玉座の間
「…お前は…何がしたいんだ…?」
カイルは震える声を無理やりつなぎ合わせるように、言葉を絞り出していった。
「復讐さ、この世界の全てに」
その口元には理性の皮を被った狂気が滲んでいた。リゼルは不気味な笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。