#7 世界の答え合わせ①
──『5月15日』 魔王城 玉座の間
「ギィィィン……バシュウッ!!」
互いの放った黒い閃光がぶつかり合い、空間を切り裂く。
「ここまで、か…」
魔力が底をついた魔王ヴェルトは呟いた。
─いや、おそらく、奴が我の正体を知った時点で負けていたのだろう。
リゼルの放った黒い閃光が魔王に直撃した。
魔王はその場に倒れ込み、動かなくなった。
「さぁ、答え合わせをしようか」
リゼルは玉座に座り瀕死の魔王を見下ろしながら言った。
「──お前が僕に負けた理由、それは二つ。
お前と同じ存在になったこととお前より信仰を集めたことだ。」
「まずは、お前に500連敗している間に”真神教”を広めてもらった。
400戦目くらいで大体100人程度集まった。これで第一フェーズは完了だ」
「信仰はすごいな。たった100人ぽっちでもこれまでより強さが10倍以上跳ね上がった──」
リゼルは玉座に座りながら、かつてローベルと交わした言葉を思い出した。
──1ヶ月前 『4月16日』 レクシア王国 アズラン村
リゼルとローベルは村はずれの人目のつかない所で話し始めた。
「…リンが魔法が使える様になってわかったことがいくつかある」
「まず一つ目はリンが魔法を使った瞬間、俺の魔力が僅かだが減ったこと」
「二つ目に勇者の力である”学習能力”で上限に達したはずだったすべての能力が上がった」
「やはり我々の”仮説”は間違っていませんでしたね」
「あぁ、それとこれは”真神教の教皇”ではなく”リンの父親”として聞いてほしんです」
「…なんでしょうか?」
リゼルの突然の申し出と口調に驚きつつ、ローベルは聞き返した。
「リンを”真神教”の──」
リゼルが言い終える前に、風が強く吹いた。
ローベルは目を見開き、しばし言葉を失った。
──リゼルは口元に笑みを浮かべて、静かに続けた。
「気付かなかったか?お前に傷をつけたあの一瞬だけ、上限を超えた力を使ったんだ」
「やはり気のせいではなかったか…」
「あぁ、そうさ」
「ただ、予想外だったのは信者がわがままってことだ。
強さはくれるけど命令は聞かない。それぞれイメージする”勇者像”があるからそれにない、つまりイメージの中の”勇者様”が言いそうなことじゃないと従わないらしい」
「だから、強制命令を使える方も残しておかなきゃいけなかった」
「次に第二フェーズ。”真神教”の信者を増やし、”魔神教”の信者を減らすために俺は各地の魔族の拠点を潰して周った。
これは正直賭けだったよ。お前が出てきたらこの作戦は詰みだったからな。
でもお前は出てこなかった。いや、正しくは出てこられなかった、だろ?」
「順調に、計画は進み1ヶ月足らずでそれぞれ3宗教の信者が同じくらいまでになった」
「そこからは簡単だ、単純に勢力図は2対1、信仰そのものの母数は一緒だけどこっちは常に魔力満タンだ。負けるわけないがない」
「ただ、念には念を、だ。」
「安心したよ、やっぱりお前も信者が”暗黒魔法”を使うとちゃんと魔力が減るんだな」
「お前の”暗黒魔法”の魔力消費+俺の”暗黒魔法”の魔力消費、思ったより底は浅かったな」
─リゼルは左手を魔王にかざし唱えた。
「最大回復魔法」
魔王の体が光に包まれ、魔王の傷が全快した。
「…なぜ、回復させた?」
魔王ヴェルトは睨みながら尋ねた。
「お前にはまだやってもらわなきゃいけないことがある」
リゼルの顔は不敵に笑っていた。