#5 信仰の『書き換え』
──『4月4日』 レクシア王国 フローデ村
「ローベルさんには”教皇”になって欲しいんです」
「”教皇”…?まさかリゼルさん…」
「そう、そのまさかです。新しい”宗派”を作ります」
「神教の象徴とも言うべきあなたが?」
「はい、信仰対象である魔王に対抗するには、同じ存在になる他に道はない」
「そんなことをしたら、”勇者の力”が─」
「正直、魔法と違い”勇者の力”が信仰を捨てても使えるかどうかはわかりません。
ですので、俺は神教を信仰したまま、信仰の対象となります」
「協力していただけますね?」
「…具体的に何をすれば?」
「まずは経典を書き換えます。
便宜上、これまでの方を”旧神教”とし、”真神教”と呼びますね。」
そして、経典のこの一文だけ書き換えます。
”旧神教”
─神に選ばれし勇者はその力で民衆を導く─
”真神教”
─勇者とは神が現世に降り立った姿であり、その神の如き力で民衆を導く─
「次に、”新神教”が正統であると、周辺の村へ広めてください」
「でも、それを異端者の処罰を躱しながら…」
「その方法はローベルさんが一番知っているはずでは?」
「…わかりました、協力しましょう」
「はい、よろしくお願いします。”新神教のローベル教皇”」
──『4月15日』 レクシア王国 リゼルの自宅
これで、準備は整った。あとは機を待つだけだ。
”魔神教の力、勇者の力、そして神の力”
リゼルは小瓶に入った魔王の血を一気に飲み干し、呟いた。
「常に俺に回復魔法をかけ続けろ」
─俺はこの世界をよしとする全てを許さない。
リゼルはこれまで幾度となく戦った魔王をイメージし、鍛錬へ向かった。
──『4月15日』 魔王城 玉座の間
魔王ヴェルトは玉座に座り、考え込んでいた。
まず、毎日の様にきていた勇者が今日は来ていない。
ついに諦めたか?
それにしてもおかしい。
結局、始めて来た時から勇者の強さは変わらなかった。
しかし、最後の戦闘。
不覚にもかすり傷を入れられてしまった。
傷を入れられた一瞬だけ、勇者が別の何かに変わった様な気がした。
まぁ、これは気のせいだろう。
この500回の間にやつの心を折るために様々なことをやった。
まず厄介なのはあの”毒”状態だ。
あれを解毒するために周辺の村から神父を集め、拷問し解毒させようとしたが
上手くいかなかった。完全に堕ちた状態で連れて行っても直前で詠唱をやめてしまう。
まるで何かに操られたかの様に。
勇者自身にも、もちろん拷問した。
しかし”毒”状態は精神状態を狂化する作用があるらしく、あまり効果はなかった。
周辺の村から人間を集めて、解毒しなければこいつらを消すと脅した。勇者の攻撃をこの人間たちを盾にして受けたこともある。
しかし、勇者は折れなかった。
それどころか、憎しみはより一層増していった。
まるでこの世の全てを恨むかの様に。
「勇者如き、苦戦している場合でない…」
魔王ヴェルトは深く腰かけ直し、勇者を倒す方法を思案し直した。