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#2 神教と魔神教

──『4月2日』リクシア王国 フローデ村 入口


「じゃあ、行ってくるから」


「気をつけるだぞ、リン!」


「うん、任せて!」

リンは意気揚々と村を飛び出し魔族の拠点へ向かった。


──魔族の拠点


「あいつらか…」

リンは近くの草むらで様子を伺っていると


ゴゴゴゴゴ──ッ!

空を引き裂くような雷鳴が大地を揺らした。

瞬間、白く光った世界の中心に、一人の剣士が立っていた。

魔族は跡形もなく散っていった。


「あなたはまさか…」


それは勇者リゼルだった。


「…こんなものか」

─やはり、魔王軍側も魔王と魔族の間には圧倒的な差があるんだな─


リゼルは魔族の残党がいないか周りを警戒していると、

突然、後ろの草むらから声をかけられた。


「ありがとう!魔族たちに怯えて村は困ってたんだ

お礼するから私たちの村に来てよ!」


「いや、別に平気だから」


「そんな事言わずにさ!」


「いや、本当にいいから!」

と、リゼルを引く手を振り解くがリンは引き下がる。


「…頼むよ、見てもらいたいものもあるから」


「!?…わかった」

リゼルは急に神妙になったリンに驚きつつも

強烈な違和感と謎の懐かしさを感じて、ついていく事にした。


── フローデ村 

「みんな〜魔族退治してきたよ〜」


「リン!本当か?して、その方は…もしや?」


「そう!この人はあの勇者様だよ!」


「おぉ!勇者様!この度は誠にありがとうございました」

村長と村人は深々と頭を下げた。


「いや、頭をあげてよ」


「そうだよ、みんな」


「お前がいうな!まったく…。

リン、無事に戻ったなら、お前の父に顔をみせてあげなさい」


「うん、勇者様も一緒に来てくれるか?」


「あぁ、いくよ」


──リンの家


「…帰ったのか?リン」


「うん、ここにいる勇者様のおかげでね」


「あなたが勇者様でしたか、この様な姿ですいません。

私はローベルと申します。この度はリンがお世話になりまして…」

ローベルはベットから体を起こして話し始めた。


「いえ…その状態は”毒”ですか?」


「えぇ、リン。悪いが水を汲んできてくれないか?」


「わかった。リゼル、ゆっくりしていってね」

リンは軽く手を振りながら水汲みに向かった。


「…治さないんですか?」


「えぇ、それに気づいておられるんでしょう?」


「…神教の信仰を捨てていることに、でしょうか」


「そうです、やはり神教の象徴の様なあなたにはわかりますか」


「本来ならば異教徒として処罰する所ですが…」


「それもわかっていますが、ただ、勇者様にどうしてもこれを見ていただきたくて」

そういうとローベルは自分の胸に手を当てて呟いた。

「『解毒魔法』」

ローベルの体から毒が消えていった。


「これは一体…?」


「そうです、”魔法”は神教の信仰がなくても使えるんです」


「詳しく教えてもらえますか?」


ローベルはゆっくりと話し始めた。


「私は元々、神教の神父でした。この村で一番信仰が深かったと自負しております

もちろん、毎日のお祈りも欠かしたことはございません」


「そして…15年前のある日、魔族の襲撃でエレナを失いました」

あの子─リンはまだ赤ん坊でした」

ローベルは唇を震わせながら続けた。


「…勇者様でしたらご存知ですよね?経典の一行目は」


「…”信じよ、さすれば神の手が差し伸べられる”」

リゼルは、ポツリとつぶやいた。


「しかし…差し伸べられなかった。神は我々を見捨てたのです」

「私にはもはや、神を信じることなどできなかった」

「しかし、リンのためにも処罰されるわけにはいかなかったので

私は表向きには熱心な信者として過ごしていました」






「そんな折に、魔族との戦闘で”毒”状態になった村の若者が解毒して欲しいと

訪ねてきました」

「当然、信仰を捨てた私に解毒魔法など使えるはずもありません

魔法とは”信仰する者に与えられる恩恵”と思っていたからです」


「ここが潮時か、と思いながら若者の胸に向かって解毒魔法をかけました。

すると、若者の顔色がみるみるうちに良くなり、解毒していたのです」


「信仰を捨てたのに魔法が使えたということですか?」

リゼルは驚きながら訊ねた。


「はい、その日から私は研究を始めました。

リンにも協力してもらって」


「そしてわかったことは二つ」

「まず一つ目は魔法について。

一度、神教を信仰していればその後剥奪されることもなく弱体化されることもない

しかしながら、一度も信仰していない者はどんなに修行しても魔術を得ることができない。そう、リンの様に」


「それと、魔王や魔族にも魔法が使えることを不思議に思いませんでしたか?」


「それは…確かにそうですね」


「えぇ、そこで私は一つの仮説を立てました

”魔法”とは自分たちよりも上位の存在への信仰に対して与えられるものなのではないかと」


「…魔族側にも”宗教”があると?」


ローベルはリゼルに禍々しい本を手渡した。

「魔王と魔族が信仰する”宗教”の正体です。」


「中を見てみてください」

リゼルは本を開いたが、中には何も書かれていなかった。


「何も書いていないですが?」


「えぇ、ただ、その前に二つ目についてお話ししてもよろしいですか?」


リゼルは無言で頷いた。

「二つ目は”毒”について。

”毒”の原理はご存知ですか?


「まあ、なんとなくは」


「体内の”毒”つまり魔族の”血液”を取り込むと”毒”状態になる」


「これのどこが重要なんですか?」


ローベルは魔族の血液が入った小瓶をリゼルに差し出した。


リゼルはローベルの目を見て、その瓶を一気に飲み干した。



「先ほどの経典を開いてみてください」


先ほど何も書いてなかったはずのページに文字が書かれていた。

「…この本は魔族にしか読めないってことか」


「はい、ただ、私の体力では”毒”状態を信仰を得られるほど長期間は持たせられません」


「勇者様であれば、何かわかるかもしれません」


「なぜこんな危険な話を俺に?」


「自分でもわかりません、ただ勇者様なら変えてくれる気がしたんです

どうしようもないこの世の中を」


「わかりました…話してくれてありがとうございました」


「それと、最後にいいですか?」


「なんでしょう」


「タンスの中身を貰ってよろしいですか?」


「はぁ?それは困りますよ」


「そうですよね、ありがとうございました」

勇者はニコッと笑いながら家を後にした。


家の外に出るとリンが待っていた

「…父の話は聞いた?」


「あぁ、でも安心してくれ。処罰したりしない

むしろ、感謝の気持ちで一杯だ」


「どういうこと?」


「魔王を倒す希望が見つかったってことさ」

そう言い残し、勇者は転移魔法で王都の方向へ消えていった。


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