9ちくわ すでにわからせ済みのメスガキです。ごきげんよう
「スリミィナはこの町を出ろ。新人冒険者の手には負えない」
マチルダは正しい。
ミントはまだまだ存在する。しないはずがないわ。だってミントだよ。ミントマンティコア以上の変異種だって出そう。間違いなくヒーギャックとエアッゾ頼みの展開になる。
確かに私のLVは大きく上がった。でも……このくらいのH級冒険者は結構いるらしい。両親としょっちゅうケンカしたけど……ものスゴぉぉぉぉぉく手加減されていたんだと思う。
「お前には、肩こりのリスクがあるだろう」
この町には他にも【マゾヒスト】はいるそうだけど、【童貞】になれるのは2人だけだ。いくら【マゾヒスト】によって終憎が弱体するのだとしても、はぐれたときに肩こりが暴走したら……
「ギルドマスター、私は冒険者です」
冒険者は最低限の身分証明となる。よっぽど評判が悪くなければパスポート替わりに使えるの。ここに来たときは取られなかったけど、大規模な都市の入場料を割引してくれたり、免除されたりもする。あと映画館や美術館での割引や、冒険者ギルドオススメ食堂で見せるとデザートが1品出てくる。他にも化粧品が割引されたり、ブランド品のバッグも割引されたり、あと何だっけ。
役得は欲しいわ。でもそれだけが志望動機じゃない。もし授かったのが事務系ジョブでも、戦闘スキルが育てば冒険者登録はするつもりだった。
「それ以前に帝国臣民です」
そこいらの男が私の胸をガン見するのは不快。でも生まれ育ったこの国が好き。
「樹海にも(若干ですが)思い入れがあります」
パクチー樹海にも家族で何度か来た。ちょっと正確じゃなかった……家族で温泉に行くときに通った。うん、通っただけだね。終憎討伐はたまたま居合わせたので両親と参加した。
「私にできることは何も無いのですか?」
自惚れで言ったわけじゃないわ。危機感を感じているのよ。ミントマンティコアのような強力な魔物はここで完全に抑えないと、この国が危ない。
これから世界を巡るつもりでも、故郷が無くなるのは絶対に嫌。
「…………どうしてもと言うなら、他の町に行って援軍を呼んでくれないか。ヒーギャックたちの取り巻きは全員冒険者だが、護られ賃に味を占めてしまっている。………………残念ながら私もな」
うん、知ってた。受付前で囲まれたとき、みんなの目に日本の貨幣単位の『¥』のマークが出ていたもの。マチルダは顔にも書いてあった。偏見だけど、そういう模様がヘソの下にありそう。
「本音を言うと残って欲しい。『ちくわ』は非常に役立つ……が、まだお前は発展途上だ。若者の可能性をここで失うわけにはいかない」
もっと色々キチンとしていれば、この場に堂々と残れて活躍だってできたはず。でも私にできることは本当に無いのだろうか?
「そうだ。高速移動ポーションを運んでくれ。援軍に渡して欲しい。もちろんスリミィナも使え」
飲むと足の速さが倍になり、持久力も上がる。丸太を担いだマッチョのが速いけど、【マッチョ魔法】のLVが8まで行かないと習得できない。
マッチョ属性は1番魔力消費が激しいの。だからスキルLVを上げにくいのよ。援軍の【マッチョ魔術師】が出すマッチョが丸太を担げるとは限らないわ。だったら高速移動ポーションを用意するのが無難ね。マッチョにも効果があるって言うし。
「そうと決まれば薬屋に行こう。常に各種ポーションを一定量取り置きしている。ついでに肩こりほぐしポーションも買って行けば良い」
割引を強要してもらえませんか、とはさすがに言えなかった。私だって恥を知っている。
この町唯一の薬屋は、町の南にある……いかにもメルヘンチックなキノコの建物だ。住むのに勇気がいる建物の影に人影が3つ。お店の人かと思って声をかけようとしたら、マチルダに袖を引かれた。いったん戻って路地裏に隠れた。
「ちょっと待て。匂いを嗅いでみろ」
ミント臭いッッッッッ!
いやぁ~フツーにそのへんで栽培してるんじゃあ……
「樹海周辺ではハーブ栽培は禁じられている。自我を無くしてパクチーリスクが無くなったとは言え、下手に繁殖力の強いハーブを植えるとメロン畑が征服されてしまうからな」
存在しないはずのミント臭がするなんて。誰かが歯みがき粉をぶちまけたってオチだと良いけど。
「それに見ろ。あの痛々しいキノコ風家屋の周辺を……」
この町の住人もそういう認識なんだ。
「あの3人、昨日置いてきぼりにしたマッチョとメスガキだ。時間経過で霧散したと判断していたが……」
「えっ」
確かに黒光りのマッチョ2名にメスガキッッッッッ!
言われてみれば屋敷から逃げるときに置き去りにしたわ。でも【禁断の果実】と一緒で魔力由来存在でしょ?消えないのはおかしい。
痛々しいキノコ風家屋の周辺を掃き掃除しているマッチョの片割れの腹には、例のミントマンティコアの尾が刺さったままだわ。あっ、メスガキが林檎を箱に入れた。あの林檎から漂う気力は私のモノだ。
「まさか樹海に置いてかれて、途方に暮れて絶望し、それをきっかけに覚醒して自立ッッッッッ!あの薬屋に就職したのですか?」
資格とか必要無いのだろうか?時給は?賞与は?週休は?労働内容は?
「その線は無い……………………とは言えないが、別の誰かに支配されたと考えるべきだ」
やっぱりそういうケースはあるんだ。
「恐らく、あの薬屋の薬師だろう。高位の錬金術系ジョブを持っているので魔力が高い。知性はスリミィナを越えるぞッッッッッ!よもや……樹海のミントに絡んでいるとはな」
丸太を担いで高速移動するマッチョがメスガキを乗せ、一晩でこの町に就職活動に来た……というよりはマチルダの推理のが自然に思える。
「昨日の屋敷の転移魔法陣は、代官所に繋がっている。これはマズいな」
薬師と代官はグル?薬師が何らかの目的で転移魔法陣で屋敷に移動。たまたま遭遇したマッチョとメスガキを支配して……あそこで働かせている?
「予断は禁物だが……スリミィナ、薬屋を探る。命懸けになるが手を貸してくれ」
「もちろんです。こちらからお願いします」
気配を消し、抜き足差し足忍び足で痛々しいキノコ風家屋を目指す。迫るほど強くなるミント臭。
途中で町の人に目撃された。お年寄りは朝早いって言うけど、若者にも早起きはいる。マチルダが手で邪魔だとジェスチャーすると、頷いてどこかへ行った。ホッとしたのもつかの間。援軍を多数連れて来て私たちの背後に付く。なんか誤解したみたい。
100倍に増えた人数での抜き足差し足忍び足は無謀だった。腹に何も刺さっていない方のマッチョに見つかる。
「あっ、マチルダさん。ザスッッッッッ!」
『ザス』は体育会系的挨拶なのだと思う。マチルダもマッチョへ『ザス』と返す。背後の抜き足軍団も『ザス』と返す。私はなんか嫌だった。
「おはようございま~す♪」
普段の私らしく、乙女で淑女で美少女らしく朝の挨拶をしたけど……
「目 を 見 ろ。胸 に 目 は 無 い」
いくらなんでも乙女過ぎたわね。マッチョが私の胸をガン見。腹に刺さった方のマッチョもひょっこり現れてガン見。
「シ ン ボ ル 破 壊 さ れ た い の か」
背後の抜き足軍団も前に回ってガン見。コイツら……帝国の危機に。
「そんなに胸が見たいなら私のを見ろ」
マチルダが胸を張った。だが何も起こらなかった。
「言 お う と 思 っ て た が そ の 胸 は な ん だ」
えっ、ここで私に逆上?
「争いはやめてください」
メスガキが間に入ったわ。まさか……煽るつもりッッッッッ?
「「「「「おっふ」」」」」
抜き足軍団がメスガキに萌えた。釣られてマッチョも萌えた。胸への視線は消えたけど、この敗北感……何なのッッッッッ!?
「突然割り込んですみません。わたしは昨日、マチルダさんによって発動された【メスガキ魔法】で、すでにわからせ済みのメスガキです。ごきげんよう」
メスガキらしくない。丁寧ッッッッッ!
「マチルダさんに置き去りにされて途方に暮れていたところ、こちらのマッチョのお二方に『労働の喜び』や『筋肉の美しさ』を、黒光りのポージングによってわからせていただきました」
「何を?」
黙っていられず突っ込んだ。
「『労働の喜び』と『筋肉の美しさ』です。おかげで筋トレに目覚めた私のお腹には、美しいシックスパックが生まれました」
『わからせ』とは。
「どうした。何かあったか?」
メルヘンの建物から非メルヘンの体格の大男が出てきた。纏うオーラも非メルヘン。眼光も、握った拳も、丸太のような手足も、シャツに隠れた体幹も、きっと着ている下着も非メルヘンだろう。
ミンミィ~ン♪
その両隣には………………大男にじゃれるミントマンティコアッッッッッ!濃いミント臭が周囲に広がる。
「お、ミン太郎にミン次郎。今日も可愛いなぁ~」
なんと抜き足の1人が懐から出した干し肉をちぎって、2体のミントマンティコアの口元に差し出した。
「おいおい、いつも言ってんだろ。コイツらは肉食わねぇぜ」
大男が嬉しそうに咎めて、左右のミントマンティコアの頭を撫でた。
ミミミミミ~ン♪
ミントマンティコアはどちらも地面に転がり、腹を見せた。抜き足軍団、マッチョX2、わからせられたメスガキが群がってお腹を撫でる。ミントマンティコアにモフモフ要素は無い。昨日襲われたせいで偏見があるのを差し引いても、撫でたいとは思わな……
「よーしよしよしよし……」
撫でる群れにマチルダが紛れている。
「ギルドマスタァァァァァァッッッッッ!」
何やってんだアンタッッッッッ!
「おっと。……薬師よ。これはどういうことだ?」
大男が薬師のようね。戦闘民族っぽい外見なのに薬師なんだ……
「どういう……とは?」
「とぼけるな。昨日樹海に新人研修に行った際、この魔物に襲われたのだ。そこのスリミィナとマッチョ2名、それに何らかの手段でわからせられたメスガキが証人だッッッッッ!」
迷……名探偵のようにマチルダは薬師を指差して糾弾。
「バカな。この辺りのミント系魔物は5大脅威しか襲わないようにしつけてあるんだ。正当防衛はするけどな」
この辺り?やっぱり薬師があの魔物を繁殖させたのねッッッッッ!
「しつけ?正当防衛?ふざけるな!私たちは攻撃を受けた。そこのマッチョが私たちの盾になり、腹に尾を受けたのだ!」
現在進行形でお腹を撫でられているミントマンティコアだって、いつ暴力衝動に目覚めるかわかったものじゃないわ。
「なんと。おいマッチョ、どうして説明しなかった?」
「す、すみません。筋トレやプロテイン摂取で忙しくて」
「それは仕方ない」
何が仕方ないんだッッッッッ!
ミンミンミンミンミンミンッッッッッ!
突然、ミントマンティコアがお腹を見せたまま私たちをにらんで威嚇する。
「おい、ミン太郎にミン次郎。どうしたんだ……まさか!」
薬師がマチルダと私を上から下へ舐めるように視線を這わせた。
「弁 護 士 呼 ぶ「おい、コイツらを押さえろッッッッッ!」
薬師が叫ぶと、抜き足差し足忍び足全員が私とマチルダを押さえ付けた。2体のミントマンティコアが立ち上がり、私たちへ向けて口を開けた。ミント臭がさらに濃くなるッッッッッ!
「どういうつもりだッッッッッ!住民を巻き込むつもりかッッッッッ!」
マチルダの言う通り、ブレスを放てば私たちを拘束している抜き足差し足忍び足の住人に当たる。
「お前らこそ、どういうつもりだ!足を洗っていないのかッッッッッ!」
足?
薬師が言っていることの意味を考える前に、ミントマンティコアがブレスを放った。
「「ギャアアアアアアアアアアアッッッッッ!」」




