9脂肪 セーフティバントって魔法を地面に打ち落とすために使うんだよね。 (一部のスキルの名称を変更しました)
先に謝った方がいいでしょうか?
終盤もちょっと加筆しました。
『何その力、ドラ●ンボールのパクり?』
ラリィの前世では、怒りでパワーアップするのは創作物の中だけらしい。この世界では当たり前のこと。髪の色は変わらないけどね。
「スリミィナッッッッッ!怒りによる覚醒をそれ以上使えばお前はッッッッッ!」
辺境伯様の叫びが、私の右の耳から入って左から抜けた。ううん、逆だったかも。まあどうでもいいかな。大事なのは私のプライドだ。
「えいっ、えいっ、えいっ……」
アーティスト志望は脂肪由来なだけあって柔らかい。老害の頭で殴る度に形を変えて行くわ。
「このBBAめッッッッッ!」
原形を留めていない癖に生意気なことを言う。
「誰がバーニングバーニングアフォよッッッッッ!」
ならよし、と言えるほど寛大ではなかった私は、拳を強く握り締める。グレートスリミィナパンチアメイジングの予備動作なんだけど。
「貴様だッッッッッ!」
アーティスト志望の右ストレートが私の顔面に入った。予備動作の間に、アーティスト志望は全身を再生してしまっていた。
私は顔を押さえながら、なんだかんだ原形を留めている老害に言った。
「あなた……バーニングバーニングアフォなの?」
老害は何も言わない。震えているから屍ではないようだ。
「貴様だと言っているッッッッッ!」
脂肪由来の分際でアーティスト志望は私を指さした。折って欲しいみたい。
「えいっ……えっ」
折れない。脂肪由来なのに?
「スリミィナよ、怒りによる覚醒が終わったのだ……」
辺境伯様の言葉で我に返った私は、覚醒の代償を確認する……
怒りによる覚醒は寿命を縮めるのよ。私の目尻に、目尻に……小ジワがッッッッッ!美しい私に陰りがッッッッッ!
「ギャァァァアアアアアッッッッッ!ゆ″る″さ″ん″」
「許して貰う必要など……【パン買って来い⇒……」
アーティスト志望の目から光。私はそれを浴びた。
お前の金で】……いらんッッッッッ!」
後で知ったけど、【パン買って来い⇒お前の金で】は対象を吹き飛ばす効果のあるヤンキー属性の魔法。それを受けた私は当然吹き飛ぶ。
「嬢ちゃんッッッッッ!」
一蹴されて地面に墜ちたヒーギャックが翔んできて私を受け止めた。エアッゾもだ。でも勢いは止まらない。
「熱いッッッッッ!クソ熱いッッッッッ!」
そりゃそうだわ。絶賛炎上中の不死鳥2匹だ。燃え移る。
「使えないわねッッッッッ!」
思わず言ってしまった。ヒーギャックとエアッゾは私を助けてくれたのに。
「ナイス蔑み……おっふ」
性癖にクリティカルヒット。身悶えするヒーギャックだけが墜落した。勢いは止まらない。
「オイラをスルー……ナイス空気」
墜ちてくヒーギャックを見てただけなんだけど、性癖にクリティカルヒット。身悶えするエアッゾだけが墜落した。
きっと彼らは幸せなんだろう。これで良いのよ。感謝の気持ちはあるわ。でも言葉に出して褒めたり感謝したりしたらどうなるのか、正直怖い。
とは言え、この状況をどう覆せばいいのだろう?
風圧で火は消えたけど、私は【童貞】じゃないから死んでも復活しない。『ちくわ』はさっきから創造してるけど、私の吹き飛ぶ勢いが強すぎて乗れない。追いかけさせてるけど追い付けないわね。
なんか太陽が見える……あっ、でっかい池、違う、湖、違う違う。まさかあれが噂の海。なんかデカイ水溜まりで、水に塩味が着いてるって噂の。
めっちゃ飛んだ。焦りは無い。これから死ぬんだなぁ、とそれだけ思った。
多分だけど、このとき日付が変わってたんじゃないかなぁと思う。
だから昨日だ。
この世界に新たな属性の魔法が生まれたのは昨日。
今日。この日。
もう1つ生まれてしまう。
私が……むしろ野球英雄神が、かな。
《スリミィナよ、我が真名を唱えよ》
野球英雄神がなんか言ってる。いつものじゃなくて某日ドームで会ったジジイの方だわ。真名?名前かな。何だっけ?
《人として色々アレだが、この世に生まれた野球巫女の貴重な1人だ。生きて野球に殉じて貰わねばならぬ。復唱せよ。『星が昇り、竜が泳ぐ。星の海の行き着く先にはコアラ。目覚めよ野球闘将神……【一人でも仙一人】』》
そうだそうだ、そんな感じだった。
「星が昇り、竜が泳ぐ……」
《この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは一切関係ありません》
世界の声がコンプライアンスを主張した。とんでもない力が、私の心から生まれる。
「星の海の行き着く先にはコアラ……」
《怒られた場合、予告なしに登場人物やスキルの名称が変更されたり、ストーリーが変更される場合があります。ご了承ください》
この力なら……
「目覚めよ野球闘将神……【一人でも仙一人】……」
心の中に野球闘将神が現れる。
《復唱せよ。宇宙の中心の野原……』》
「宇宙の中心の野原……」
《遊撃の宿命、尊い業績に星が振り……》
「遊撃の宿命、尊い業績に星が振り……」
《されど白球は名誉ごと頭を打つ……》
「されど白球は名誉ごと頭を打つ……」
イメージは見えた。様々な意味で……特にコンプライアンスとか大丈夫なのかしら?
《静まれ4番【凄★宇★野】》
《静まれ4番【凄★宇★野】》
進行方向に現れた巨大なヘルメットが、私を真後ろへ弾き返した。
景色が流れる。太陽が水平線に隠れ、未だ夜の脂肪ヶ岳まであっという間に戻る。特に痛くないし、摩擦熱で燃えたりもしない。空中庭園にぶつかりそう……どうやって止まろう?
《復唱せよ。巨きな人が、兎の烙印を背負いし頃……》
心の中の野球闘将神に従うしかないみたい。
「巨きな人が、兎の烙印を背負いし頃……」
《川を相手に犠牲を積む聖人は……》
「川を相手に犠牲を積む聖人は……」
《自由な交渉人の導きで竜に至る……》
「自由な交渉人の導きで竜に至る……」
《記せよ2番【カー★Y★バンクル】》
「記せよ2番【カー★Y★バンクル】」
私の目の前に巨大なバットが現れた。釘を打っていないバットを見たのは久しぶりだ。そのバットが、私をセーフティバントでうまく勢いを殺して、みんなが乗っている『ちくわ』にそっと転がした。
「えっ、何?」
辺境伯様の前に立つアーティスト志望が、私を見て言った。
「えっ、何?」
アーティスト志望を見上げる辺境伯様が、私を見て言った。
「えっ、何?」
いかにも歴戦の勇士って感じのお年寄りの兵士が、持っている杖を光らせて多分教育ママ属性魔法を発動させながら、私を見て言った。
確かに困惑すると思う。
異世界からもたらされたバットは、主に魔物退治に使われる。野球ももたらされたけど、ルールを知ってて実際に試合できる人は各国のVIPのみだ。私はいちおうちょっとは知ってるけど……セーフティバントって魔法を地面に打ち落とすために使うんだよね。
そりゃ人を……美少女を転がしたんだから困惑するわね。
冷静になって、かえって困惑した私も。
「えっ、何?」
てな感じで被せてみた。




