6脂肪 母性に満たされた上に暖まっている。
上空の風は冷たいわ。風と言うか風圧ね。
私が出した100メートルの『ちくわ』に辺境伯軍の精鋭全員が乗っている。『ちくわ』で飛んで脂肪ヶ岳に向かっているのだ。
「「「「「こんなので寒がってるの~雑っ魚雑っ魚~」」」」」
辺境伯様が出したメスガキ属性のメスガキ数名が、空気を冷ややかにした。いや【マゾヒスト】を含む(ある意味での)属性持ちは性癖にヒットしたせいで顔を赤らめている。体温も上がっているのだろう。私はちくわの上に敷いた空飛ぶ絨毯の上で、ヒーギャックに出してもらったノーマル絨毯に丸まって寒さを凌いでいた。クッソ寒ッッッッッ!
「また増えたな」
メスガキ属性を操る辺境伯様は、メスガキの影響を全く受けていないらしい。神と眉毛に氷が張ってる。増えたのはメスガキ……じゃなくて、空中庭園のことね。……もう6個目が浮いているわ。
「お館様、寒いのでしたら、わたくしめがマッチョ属性魔法で暖めましょうか?」
唐突だが、執事は親切で言ったのだろうと私は思った。嫌な暖まりかただわ。マッチョ属性にイケメン要素は無い。そして暑苦しい割りに、暖房として役には立たないそうよ。
「士気が下がるだろう。それによく見ろ」
辺境伯様が指した精鋭は、すでに教育ママ属性魔法を展開し、母性に満たされた上に暖まっている。ママだしさ。教育ママ属性は、使用者の性癖に強い影響を受けるの。
「すでに士気はこれ以上無いほど下がっているッッッッッ!」
確かに……これから戦いに行く顔と態度では無ぇわ。気持ちの切り替えとか無理じゃね。
「ここでマッチョを出してタイマンでもしろと?それとも集団戦かね?マッチョと教育ママとで戦争でもするか?」
うなだれる執事。後に執事がセクハラで辺境伯様から訴えられた頃に聞いたが、執事はマッチョでハッスルするタイプだそうよ。このときちょっと執事可哀想、とか思って損した。
「話は変わるが、スリミィナ殿。【ちくわ創造】はどれ程のリソースを消費するのだね?」
「私の魔力か気力のみです」
「……これは驚いたな。触媒無しでこんな大きな物を魔力か気力のみで出せるのか」
家屋をドロップする脂肪系魔物に比べれば、驚きは霞むと思うけど。
「それにしても『ちくわ』か」
きっと『チワワ』が原料なのか、とかエアッゾみたいなこと言うんだろうなぁと思ったが。
「【運命の棒】に形状が似ているな」
一瞬【運命の果実】のことかと思ってメンチを切ってしまったわ。それ以上のメンチで返された後、辺境伯様はアイテムボックスから1本の棒を取り出したの。
「何を勘違いしたかは知らぬが、むやみにメンチを切ってはいかんぞ。私が魔皇帝神ゼファルシアだったらどうするのだ?」
魔皇帝邪神ゼファルシアってのは、最もヤバい邪神よ。目力だけで大陸を滅ぼすといわれているわ。先日不死鳥に狩られたけど。
「話を戻そう。この棒状の保存食を【運命の棒】と呼ぶのだ」
黄金色の棒を私は受け取る。軽い。ちょっとでも力を込めると……脂肪率がマイナスに至る前の私のステータスでも砕けそう。匂いは香ばしい。『ちくわ』と同じように穴が空いているわ。
辺境伯様が勧めるので食べてみる。うん、クリスピー、クリスピィィィィィッッッッッ!
「パクチー樹海の向こう、遥か彼方の国から伝えられた物だ。コーンが原料だと聞く」
どういった経緯で辺境伯様が【運命の棒】を手に入れたのか、聞きそびれたわ。それでも、『ちくわ』で荒稼ぎするつもりの私にとって重要な情報……だと、当時の私は判断した。
「私、用事を思い出したので。これで失礼しま~「どこへ行くと言うのだ?」
乗っている『ちくわ』ごと反転したのがまずかったわね。秒で襟を掴まれたわ。当時の私は一時的にフィジカルモンスターだったのに、辺境伯様が襟を掴む指はビクともしない。
一応ね、プライバシーとかあるじゃない。【マゾヒスト】が身内にいるだけで並の貴族だったら権威を喪っちゃうくらいまずいから家名は伏せてたんだけど(今気付いたけど、帝国は建国以来辺境伯家ってひとつしか……)このお方はジョブが【空前絶後の超最強究極勇者神】なのよ。(今気付いたけど【空前絶後の超最強究極勇者神】って歴史上1人しか……)
ホント最強。そりゃあ【ちくわの魔女】じゃあ叶わないわ。仕方がないから『ハラスメント行為で訴えますね』と言いかけた、その時。
「皇帝陛下と面会してみるかね?逆賊として」
「命懸けで戦いま~す」
なんかめっちゃ当てにされてたみたい。この時点で実家に金貨100万枚送られてたし。(翌日、母が全て推し活に注ぎ込んだそうです)
「あっ、イケメンのハンサム辺境伯様~♥目的地にだいぶ近付きました~♥」
とりあえずご機嫌取りを選択したわ。
「少々時間をロスしたが、スリミィナ殿のおかげで速くたどり着けた。感謝する。それと貴様のおべっかはわざとらしくて不快だ。普通に喋れ」
「かしこまりぃ~♥」
月が見えた。
大きい。どんどん大きくなる。
空気が薄くなっていく。
辺境伯様に投げられたと気付いたのは、真下から黒い不死鳥が追い掛けて来たときだ。
まさかヒーギャックにお礼を言う日が来るなんて……って思ったけど、高速でヤツは私を追い抜いて行く。ヤツも投げられたようね。
「このままイケば、銀河の中心で空気になれるぜヒャッハーッッッッッ!」
後に続く素敵な相棒は、更なる速度で追い抜いて行った。私は『ちくわ』を出して地上に戻った。
不死鳥2匹はそのまま銀河の果てに旅立って貰った方がいい気がしたけど……
《銀河に大規模な環境汚染が発生しつつあります。精霊では美味しくいただけませんでした》
など、不穏な声が聞こえて来たので回収した。
辺境伯様率いる精鋭が乗る『ちくわ』へ戻ると、彼はゴミを見る目で私を見た。
「次は無いぞ」
不死鳥2匹と同類項と思われたくないので、誠心誠意勤めさせていただきますとだけ答えた。




