5脂肪 自家発電して体温が上がり燃焼するらしい
3階建て木造家屋。
水車小屋。
風車。
厩舎。
倉庫的な建築物。
外見が脂肪っぽい感じの魔物を次々倒してくと、そう言った建築物が100%ドロップする。全部アイテムボックスに入ってしまった……
嬢ちゃん、とヒーギャックが私を見る。
「もっと……アレだ。俺様が蔑まれるような建物をドロップさせてくんねーかな?」
そんな物あるはずがない、と無慈悲に即答したら白目を剥いて転倒し痙攣し始めた。段々と慣れて来たわ。
風車風車とエアッゾがせがむので、アイテムボックスに収めた全ての風車を出してやると、この汚物はトランペットに憧れる少年の瞳で風車群を眺め、白目を剥いて転倒し痙攣し始めた。何らかの空気要素があるんでしょうけど、理解できないわ。コイツはヒーギャックよりも厄介ッッッッッ!
危険人物を投棄して、私は帰還することにした。帰りは順調だったわ。絨毯に乗ってるだけだし。なんか絨毯ものびのび飛んで、あっさり辺境伯様のお屋敷の残骸に着いたわ。たった半日で。
でも不死鳥どもは追ってきやがった……
『可能であればな、暗s……ゲホンゴホン。いや、その、乙女には酷かも知れぬが、時には屍を越えて生き延びなければならぬこともあるやも……』
辺境伯様から、そう言った黒い発言もされていた。暗殺は何度も試したわ。何度も何度も、何度も何度も何度も……
木っ端微塵にしたのに、数秒後には『ナイス蔑み』とか『ナイス空気』とか言われて……心は折れたの。
「おお、ご苦労であったスリミィナ殿……チッ」
辺境伯様の舌打ちは不死鳥どもに向けられた物よ。暗殺、ずいぶん期待してたようね。『ちくわ』で爆散させた直後に復活したとこリアルタイムで見てたはずなんだけどな。
その件は諦めて、私はドロップした建物(風車を除く)をアイテムボックスから出したわ。…………シュールな光景だった。お屋敷の皆さんは慣れてる感じだったけど。きっとアウトレットモールでしょっちゅう買ってるのね。
「スリミィナ殿、脂肪系魔物をどうやって倒したのだ?」
『脂肪系魔物』って凄いパワーワードだわ。
「片っ端から『ちくわ』で爆破しました」
ふむふむ爆破爆破、と辺境伯様は考えながら歩き回る。歩きながらの方が頭が冴えるそうよ。探偵みたい。……探偵は『暗殺』とか口に出さないわね。
……エアッゾが辺境伯様の進行方向に立ち塞がる。コイツ、怒られ……むしろご褒美かッッッッッ!
でも辺境伯様は変態を見もせずスタイリッシュ回避ーー正確には飛び上がって宙返りして着地して前転をキメたわ。やるッッッッッ!
「ほう、これはこれで蔑みが昂るぜ」
ヒーギャック……お前のお父上だぞ。(私も原因のひとつだけど)お屋敷が崩壊したんだぞ。私たちがお使いに行っている間にテントでこの人たち寝てたんだぞ。
あっドロップした家屋に一時的に寝泊まりすれば良いんじゃないかしら、と言おうとしたが。
「脂肪は火に弱いのだよ」
キリッとした顔で、辺境伯様は言った。まあ燃えるし。そりゃそうだ。
「あの目障りな脂肪系魔物は、メスガキ属性が弱点なのだ」
何でもメスガキを認識すると自家発電して体温が上がり燃焼するらしい。因果関係がよくわからなかったので詳しく訊ねると『お父さんかお母さんに教えて貰いなさい』とキョドりながら返された。解せぬ。
「重要なのは、焼死した脂肪系魔物は、ドロップするアイテムの品質を大きく下げると言う事実だ」
品質が下がらなければ城塞都市や政令指定都市、最悪王城や帝都がドロップするそうよ。正直……見てみたい。
「家屋の大量ドロップは市場に悪影響をおよぼす。言い伝えでは脂肪系魔物の登場よりも、大ダイエット時代の到来が先にされているが、史実では家屋相場の暴落で大量の大工が失業し、経済が滞って失業者が増大、暇になった失業者がなんとなくダイエットを始めたのが真実だ」
そんな秘密があったなんて……
「脂肪系魔物はたいして強くはないのだ。倒しかたで帝国の経済が非常にまずいことになる。何も知らない冒険者がメスガキ属性を使わずに、ドロップした高級家屋を大量に市場に流せば……ただでさえアウトレットモールには買い手の付かない建築物が溢れている。私がちょくちょく買って薪や石材に解体しているから良いものの……」
マイホームブームまっただ中の現代でも大工が失業……ううん、建設会社とかゼネコンだってヤバいわ。3階建て木造家屋は、私も欲しいもの。品質が良いならなおさらよ。内部をおしゃれに飾ってハーレムのメンバーと過ごすの。ハーレムはまだだけどさ。
現物を見れば、同じようなことを他の人だって考えるはずよ。
「スリミィナ殿、冒険者ではなく1個人として……帝国経済を守るために、脂肪系魔物の討伐に参加して貰えないかね?」
私的な討伐と言う体裁で、記録に残さないつもりね。そうした方が無難だもの。
「ぜひ参加させてください」
「おい見ろッッッッッ!」
叫んだのはヒーギャックだ。だからみんな無視した。悪気は無いのだ。価値観が私たちとかけ離れているから、不愉快になるだけで。
なんだかんだで、彼は冒険者(実際には冒険者登録していないのでなんちゃって冒険者なのだが)としては1流だ。辺境伯領で過ごす短い間に、私と変態2名は魔王や邪神と何度も遭遇している。
描写していないのは、唐突に目の前に出た魔方陣から現れ……刹那で炎となった【マゾヒスト】にあっさり何のドラマ性も無く瞬殺されたから。それと……そのときの2人の素行が酷かった……………………知らない方が幸せな光景だったからなの。魔王と邪神も『うわぁ』とか言ってたし。
もう1度言うわ。
ヒーギャックと、それと(ペーパー冒険者の)エアッゾも。彼らは冒険者としてなんだかんだ優秀。だから彼らの発言や行動を絶対に無視できない。不快な理由で呼ばれたのだとしてもだ。
今回は、ちゃんと異変が起きていた。……2人の存在その物が異変だけども、それはそれとして異変が起きていたわ。すでに星が見えつつある遠くの空に、私たちが様子を見てきた南の空に、黄金に輝く都市が浮いていたのよ。
「馬鹿な。空中庭園だと……あれはレアドロップだぞ……」
辺境伯様いわく、何らかのバフでレアアイテムドロップ率を上げない限り天文学的確率でしかドロップしないそうだ。
「あれは、何から何まで金で……24金でできているのだぞッッッッッ!」
空中庭園の重量は1000トンを確実に越えているらしい。確かにデカイわ。この距離で親指大の大きさに見えるもの。
「あんなもの市場に出回れば……金相場が崩壊するッッッッッ!」
現在、帝国の金相場は……同じ重さの金貨の5倍とか、ワケわかんないことになってる。財テクしてる人たちが値段釣り上げちゃったのよ。
「ヒーギャックッッッッッ!その取り巻き的なアレの……えーと『ナントカ』ッッッッッ!」
エアッゾはヒーギャックの幼なじみって聞いてるけど、存在は不快でも名前覚えてあげて。
「あの空中庭園を粉微塵に粉砕するぞッッッッッ!」
「お待ちください、お館様……」
空中庭園が1つ、2つと増えて行く。いったい何が起きているの?




