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ちくわと暴力の魔女  作者: 都道府県位置
夢の舞台で、脂肪が燃えた
12/24

2脂肪 腹筋が………………割れているわ

波を海に変更……

 だいぶ先の未来の話をするわ。


 あれは、そう……『ちくわ』が人型兵器……『俺の知らないタイプッッッッッ!』くらいにまで進化できるようになった頃の話ね。


 3体合体の途上、戦闘機型から各パーツへ変形する途中でね……銀河の一部を破壊してしまって、大弁護団を連れて神様にお詫びに行ったとき……前にも貴方に話したかも。


 結果として、私の美貌に屈服した神様が色々くれたわ。世界の支配権とか。


 ……ついでに聞いてみたわ。なぜ私が『ちくわの魔女』で、こんなにも深く5大脅威や【マゾヒスト】や『野球』と関わり合うのか。


 そうしたら彼はこう言ったの。


ーー私は下請けの神でして、親会社の神に言われるがままに仕事をしていました。任されたシステムに不備があって………………結果的にスリミィナさんは『ちくわ』や『5大脅威』や【マゾヒスト】や『野球』との関わりが強くなったのですよ。システムの不備です。前世の因縁とか宿命とか人類の希望とかそう言うの、貴女は背負っていません。5大脅威は貴女の生活習慣の問題です。親会社のステータスシステムに不備はありましたが、本質的な原因は貴女の荒んだ生活習慣と歪んだ道徳観です。あくまでも貴女自身の問題です。私の責任じゃありま………………ヒッ。





















 話を戻すわね。


 某日ドームに 終憎(ランドセル)が舞う。背中の羽が、蜂のそれのように忙しなくはためく。耳が痛い。


「試練を乗り越えて……痩せろッッッッッ!」


 終憎の無数にある目からビームが放たれた。当たったちくわが燃える。


「なんてことをッッッッッ!」


「確かに食べ物を粗末にするのはイカン。だが避けなかった貴様が……」


 適度に加熱された『ちくわ』を頬張る。美味しいッッッッッ!


「食べるなッッッッッ!太るぞッッッッッ!」


 災い転じてなんとやら。これが主人公補正。いいえ、女子力……そんなチャチな物じゃないわ。ヒロイン力……私はヒロインッッッッッ!


 このとき、私は確信したの。運命を。何もかも恵まれて生まれた私に、ノブレスオブリージュを果たせとの使命を。宿命を。


 試練なのだ。『ちくわ』も『運命の果実による肩こり』も。感じている体の重さも、試練ッッッッッ!肥満なんかじゃないッッッッッ!


「試練に立ち向かうのは……ぱくり、モグモグ……」


 悪いことばかりじゃないわ。熱せられた『ちくわ』は美味しい。






 後で考えると、飛びっきりの黒歴史。でも当時の私は多幸感でいっぱいだった。『ちくわ』にヤベー物質が含まれてるのか疑うのは、もう少し先の話。








「ララララランドセェェェェェルッッッッッ!」


 終憎が鳴いた。感動してるのね。私の食べる姿が美し「意地汚い食べ方をするなッッッッッ!」


 さらに、新たな気付きを得たわ。


 熱せられたこと得たでぬくもりを『ちくわ』から受け取った私の、頭脳が冴える。おそらく、クソジジイはツンデレッッッッッ!


 わからなくはない。限界を越えた美少女にどう振る舞えば良いのか、彼は戸惑っているのだ。


「あらやだ、可愛い「オエッ」


 クソジジイはえづいた。終憎もえづいた。萌えの感情が精神を破壊して体に達したようだわ。


 困ったわね。終憎はともかく、クソジジイが死ぬと法的にまずい。この場にいるのは私たちだけ。


 ゆえに。


 私の関与ーーすなわち殺人を疑われる。


 クソジジイが萌え死する前に、終憎を倒して某日ドームから脱出しなきゃ。おそらくヒーギャックとエアッゾの素行を見せれば萌えが中和されるはず。


 ノブレスオブリージュ、人命救助。ヒロイン力が解放されていくのを感じる。


 視界が回った。グルグル回って私は緑色の壁にぶつかって止まった。でも終憎の照れ隠しの攻撃なんかじゃ私は死なない。


「【野球ヒール】……頼むから真面目にやってくれ。うさぎ飛びは諦めたから。オエッ」


 ほら。ツンデレクソジジイによる回復がすぐさま来たわ。もう、愛が溢れてる。後で投げキッスくらいしてあげても……ううん駄目ね。いくらツンデレでも雰囲気がパワハラ一色だわ。博愛主義者の私とは同じ道を歩けない。


「残酷だけど……貴方の愛は受け取れないわ。回復魔法は喜んで受けるけど」


 はっきりと、恋愛対象では無い事実を告げておくわ。これが私なりの誠意よ。


「………………とうとう脳がやられたか。この空間は貴様のスキルが生み出した幻影なのだから、別に死にはしないがな」


 混乱させてしまったわ。でもきっと、私との出会いは貴方の人生の支えになるはず。


「野球英雄神には『コイツ駄目』と伝えるしかないか。形の上だけでもスキルは身に付けさせてやるか」


 なんか酷い言い種。でもツンデレなら納得。私の中ではツンデレイコール不思議ちゃんだし。


 あっ、クソジジイが終憎の頭を掴んだ。なんだかんだ強いわこのツンデレ。


「よく聞けスリミィナ。頭も使えないなら脂肪を使え。脂肪で足りなければ血糖値と尿酸値も使ってしまえ。どうせ最低限しかワシらの力を使いこなせない。十分だろう」


 ワシらの……力?


 頭の中に情報が流れ込んで来る。


 兎。


 虎。


 竜。


 鯉。


 星。


 燕。


 獅子。


 鷹。


 牛。


 海。


 鷲。


 そしてファイター。ハムの宿命を背負ったファイター……


「このイメージは……いったい」


 無数のイメージの中には、クソジジイもいる。なんか同じ服を着た人にキレたり、体にプロテクター的なの着けてる人にキレたり、地面の高い部分から白い球を投げる姿もある。


「我が真名(まな)を唱えよ」


 クソジジイが厳かに言う。言霊が脳の奥から湧いてきた。


《この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは一切関係ありません》


 世界の声がコンプライアンスを主張した。私が身に付けたスキルは……


《怒られた場合、予告なしに登場人物やスキルの名称が変更されたり、ストーリーが変更される場合があります。ご了承ください》


 世界が警戒するほどに危険だ。


「星が昇り、竜が泳ぐ。星の海の行き着く先にはコアラ。目覚めよ野球闘将神……【一人でも仙一人(ミスタードラゴン)】」


 言霊を唱えると、体に力がみなぎった。脂肪が、血糖値が、尿酸値が燃える。


「よし、ちゃっちゃと終わらせろ」


 右手を見る。何もしていないのに【禁断の果実】が乗っていた。


 クソジジ……野球闘将神が終憎を天井へ放り投げた。


 私の足元に白い板がいつの間にかあった。足元の地面も僅かにせりあがる。ここからどうすれば良いのか、イメージが体を動かす。


 足を揃えて正面を向く。林檎を握った右手に左手を重ね、頭の上へ。腰を捻る。右肩を後ろ、左肩は前。左脚を上げる。高く高く上げて、体全体を前に倒しながら降ろす。左足で地面を踏み、体を支える。捻った体が正面を向く。左手が離れた右手が、腕に引き摺られて躍動する。前へ前へ、前へ。腕が伸びきる瞬間、握った林檎を離す。完全に離れる前に、指で回転を加える。


 知らない獣の咆哮。恐らくは、あの伝説の猛きコアラだ。


 遥かな昔、5大脅威は6大脅威だったの。


 6つ目は、『フーリガン』だったそうよ。『フーリガン』が何だったのかはほとんど記録に残っていないけど、それをこの世から排除したのは『コアラ』と呼ばれた猛き獣だと言われているわ。


 『コアラ』がどのような姿なのか、これまでの歴史を生きた人々の想像力によって様々な解釈がなされているわ。たったひとつだけ残されている伝承は、『コアラ』が竜の化身とされていることのみ。回転して飛んで行く【禁断の果実】から聞こえる咆哮は、コアラの物だ。根拠は無い。必要ない。


 赤い光の筋を残して、投げた林檎が真上に向かった。野球闘将神様が投げた終憎に命中。


《砕けた林檎は精霊(スタッフ)が美味しくいただきました!》


 LVは上がらなかったけど、コンプライアンスは護られたわ。


 護られた……のよね?






 某日ドームに、世界に、ヒビが入った。


「ちょっ、まだ、待って!」


 まだイケメンセレブプロ野球選手を紹介してもらっていないッッッッッ!







 ■






「くっそぉ~夢かッッッッッ!」


 ベッドから跳ね起きる。この怒り、何にぶつければ……壁パンじゃあああああああああああッッッッッ!


 怒りが私をパワーアップさせたのだろうか?


 体が軽い。パジャマも緩い気がする。いや、緩い。脱げたやんけッッッッッ!


 腹部も緩い。


 何?


 何の状態異常なの?


 慌ててお腹に触れる。


「嘘……」


 信じたくない現実が、そこにあった。


「腹筋が………………割れているわ」


 不条理への怒りが私の体を強張らせ、筋肉を隆起させる。


 パァン!


 膨張した筋肉がパジャマの袖を破裂させた。

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