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ちくわと暴力の魔女  作者: 都道府県位置
夢の舞台で、脂肪が燃えた
11/24

1脂肪 そう。人は愛から生まれた生き物。だから愛に生きなきゃダメ。

 気付くと、私は闘技場のような場所にいた。


 地面が芝に覆われている。でも変ね、少しだけ高い場所があって、その周りは土が剥き出しだわ。四角い座布団があって、その座布団から白い線が引かれて……菱形?正方形、真上から見ないとわかんないわ。魔方陣にしてはシンプル過ぎるわね。


 布みたいな天井には電灯がある。高いわねー。登り降りが大変そう。魔法で作業するんだろうけど。


 周囲は緑色の壁があるわ。字も書いてある。『()()娘』……『家庭教師の到来』……『コッケコウラ』……何かの呪文かしら?


 地面に芝がある方の壁の向こうには、さらに壁があるわね。こっちには『B』と『S』と『O』ってのが縦に並んでいるわ。隣にはランプがついてる。その上には、よくわからない四角が並んでる。何かの表なのかしら?『H』に『E』……セクハラの予感がするわね。天辺の方には時計だわ。


「よく来たな、スリミィナ」


 いつの間にか青い帽子に白い服のオッサンがいた。顔の造りや肌の色が私たちとちがうわね。


「ようこそ某日ドームへ」


 『某』ですって?


 コンプライアンスギリギリの臭いがする。後で弁護士にアポを取る必要がある。名乗っていないのに私の名前も知っているから、ストーキングの疑いもあるわ。大弁護団を結成しなきゃ。


「チョー……いや野球英雄神から頼まれて、君の面倒を見ることになったんだ」


 このオッサン……紳士は、キチンと私の目を見て話す。悪い人ではない気がする……


「野球英雄神って、なんか頭の中で話しかけてくるスキルのことですよね?」


「少し違う。スキルを通して君にコンタクトしているんだ」


「神様がですか……」


 野球はラリィに聞いたくらいのことわからない。


 バットでボールを叩いて、ファラウェイする。ケツもバットで叩いてファラウェイ。俺がルール。地獄ナイアガラ。それと親御さんがお金持ちじゃないと習えない。道具を揃えるのにお金がとってもかかる、ってラリィが殺意の波動をファラウェイしてたのは印象深かった。


 きっとセレブ向けの優雅な遊戯なのね。日本に転生したら野球選手と結婚しようッッッッッ!


 いや、待って。目の前の殿方、セレブなのかしら?


「あら嫌だわ……オホホホホホ……」


 とりあえずセレブっぽく笑ってみたわ。手応え、有りッッッッッ!


「そうか。某日ドームに呼ばれて幸せか。うむ、では野球英雄神からの伝言だ。うさぎ飛びでグラウンド1億周ッッッッッ!」


「できるかッッッッッ!」


「野球を舐めるなッッッッッ!だいたいその腹はなんだッッッッッ!」


 腹……ですって?


「野球英雄神から聞いているぞ!毎日毎日自分の体重の何倍ものカレーとちくわを貪っているそうじゃないかッッッッッ!」


「わ、わ、私は食べ盛りだものッッッッッ!」


 殿方……いいえ、クソ野郎はいつの間にか手に持っていたバットを地面に叩き付けた。


「そんな言い訳あるかああああああああああッッッッッ!近頃じゃ、食べる量と体重の比率が迫りつつあるそうじゃないかッッッッッ!」


「き、き、きっと本能で食事制限ダイエットしてるのよッッッッッ!体重だって超自然的かつご都合主義的な理由で減ってるわッッッッッ!」


 そうだ。私は美少女、麗しのヒロイン。物を食べないし排泄もしない。ダイエットだって必要ない。本能と運命と主人公補正が無意識に仕事しているはずよ。本能も運命も主人公補正も気が利く働き者じゃないのさッッッッッ!


「最近……体重を測ったか?」


「馬鹿にしないで、匙より重い物を持った経験の無い私だもの、測らなくても匙より軽いに決まっているわッッッッッ!」


 思うんだけど、仮に体重計に乗っても……体重計が私に嫉妬して正確な数字を出さないんじゃないかしら?


「………………貴様、昨日のことを覚えているか?坂道を歩いているとき、親切な老婦人が背中を押してくれたのを」


「し、し、し、親切が巡り巡って私に帰って来たのよッッッッッ!」


 太っていない。私は太っていないッッッッッ!


「坂を登り終えて、老婦人は聞いたよな。『何ヵ月ですか?』って」


 意味のわからない質問だった。とりあえず1000ヶ月って適当に答えたの。数字って体重と借金以外は多い方が良いわよね。


「アホッッッッッ!野球うんぬんじゃねえッッッッッ!腐った根性を叩き直してやるッッッッッ!」


 生意気にもこのクソジジイ、一瞬で私の背後に回ったわ。しかも肩を触りやがったッッッッッ!絶対にセクハラで訴え……


「ごはぁッッッッッ!」


 肩が、凝るッッッッッ!


 この苦しみ、まさかッッッッッ!






 ■■■■■


 終憎(ランドセル) LV99999……


 ■■■■■






 【鑑定】して、上5桁だけは見たわ。逃げるしか無いわね。某日ドームは私の故郷じゃないし。


「逃げるなッッッッッ!気合を入れろッッッッッ!終憎を倒すまで某日ドームからは出さんッッッッッ!」


 気合でどうにかなるわけ……


「イケメンセレブ野球選手を紹介しようと思ったのだが「愛のために私は戦うッッッッッ!」


 そう。人は愛から生まれた生き物。だから愛に生きなきゃダメ。


「【禁断の果実】ッッッッッ!」


 からの~守護神カメムシによるホームランッッッッッ!


 ……と思ったけど、なんか視界が回転してた。緑色の壁にぶつかって、ワンパンで宙を舞っていたのに気付く。


 あれ、ここで私、死ぬ。美人薄命なんて……まだひとつもハーレム作っていないのに。


「この某日ドームで貴様が死ぬことはない。【野球ヒール】……」


 惨めに這いつくばる私を、いつの間にか側に立っていたクソジジイが回復魔法を……【野球ヒール】って何?


「スリミィナ……訂正する。根性の腐った貴様には、気合など1ミリも無い」


 クソジジイが呆れていた。シンボル破壊してやろうと思ったけど、終憎の頭を掴んで押さえ付けてくれているので今回は見逃そう。


「気合が無いのだから頭を使え。貴様には『ちくわ』があるだろう」


 そうだ。『ちくわ』を指に嵌めよう。アイテムボックスから取り出して、手の指全てに嵌める。


「では解き放つぞ」


 クソジジイの姿が消えた。終憎が飛びかかってくる。見えるッッッッッ!


 まだ見ぬセレブに見せるように可憐かつ華麗にターンして回避。おい離れて見てるクソジジイ、『オエッ』ってなんだッッッッッ!


 いやダメよスリミィナ。この方は将来仲人になってくださるのだから、敬意を払わなくては。私は可愛らしくウインク。おい終憎、『オエッ』ってなんだッッッッッ!


 傷付いた。深く傷付いたッッッッッッッッッッ!


 私の尊厳を傷付けた罪を償わせるために、アイテムボックスから取り出した守護神カメムシを振りかざしながら迫る。終憎は距離を取った。やっぱり速い。それに体が重い。


「卑怯ね……いつの間にデバフをかけたの?」


 デバフでなければ、この空間の重力が増加しているのかしら。なんて酷い罠ッッッッッ!ダメだ。疲れる。


 終憎は余裕の表情だ。私を指さしながらクソジジイを見る。


「すまん。アホなんだ」


「誰がアホだッッッッッ!」


 怒りで自分奮い立たせて終憎へ迫る。やっぱりダメ。1歩足を出す度……お腹が震える。私……いったい何をされたの?こんな状態異常、聞いたことないッッッッッ!


「………………………痩せろ」


「うるせえッッッッッ!」


 負けるものか。どんなに罵られようと、誇りをズタズタにされようと、私は立ち向かって……勝つ。そしてイケメンセレブ野球選手を紹介してもらうッッッッッ!


 そう言えば、ひとつ気になっていた。


「ねえ、イケメンセレブ野球選手は、何ダースまで結婚できるの?」


 魅力的な私を、たった1人が独占するなんて、世界の損失だわ。私をイケメンに分け与えなくちゃ。


「どこまで世界が自分中心に回ってるんだッッッッッ!」


 伴侶となる殿方の皆さんは、きっと人間性とか素敵な感じなのだろう。でも優れているくらいで私を独占だなんて、私が選ばなかった人々が許しなどしない。


「聞けよ!」

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