1ちくわ そんなに羨ましいなら代わって欲しい
菊池が行き詰まったので、
昔書いて放置して物を全3話に無理やりまとめました。
暇潰しにどうぞ。
ちょっと補足
ほとんど魚が獲れない地域なので、
ちくわが何なのか知っている人がいない……と言う設定です。
並んだ畝には、ほぐし芋が植えてある。伸びた蔓にできた蕾に触れ魔力を流すと、緩やかに枯れて掌に落ちる。
ほぐし芋も他の芋のように種芋で栽培するけど、花も咲く。花は淡い桃色。種からも芽が出て根っこは芋になるけど、あまりにもマズくて食用には適さない。ほぐし芋は薬用なの。私のようにステータスを得ていない人の魔力で蕾を枯らすと、薬効のある成分が生まれる。
虫歯、痔、水虫、腰痛、肩こり。この5つは『5大脅威』と呼ばれているのよ。脅威度の低い順ね。脅威なのは人にとってばかりじゃないわ。神々にとってもそう。この世界ーー空殻は何度も邪神が攻め込んで来たけど、その度に『5大脅威』にかかって逃げていったそうよ。
え?
虫歯も痔も水虫も腰痛も肩こりも、大したこと無いだろうって?
そりゃあ異世界から、特に地球から転生したり召喚されたりした人は……みんなそう言うけどね。そっちじゃ魔法や特殊なポーションを使わなくても、病院に行けば手術とかお薬とかですぐに治っちゃうんでしょ。お金だってたいしてかからないって聞くし。羨ましいわ。
私も肩こりに悩まされてるの。見かねた帝国腰痛研究所の人が肩揉んでくれるけど、すぐに凝っちゃう。
12歳のくらいかな、運命の果実がどんどんおっきくなり始めたのは。揺れが背中に響いてホントキツいのに、周囲のほとんどの人はわかってくれない。
子供は私の胸を指差して『ビッグメロン』とか『ヒュージメロン』とか『ジャイアントメロン』とか『ダークネスメロン』とか囃し立てる。私は年間100人以上被害者の出てる魔物じゃないのに!
男の人はね、なんか拝むのよ。ジーッと胸を見て『ありがたや、ありがたや』って。私って実は神様だったりする?
女の人は……何だろう。なんか陰で私の悪口言ってる。私は人間で、年間100人被害者を出すメロン系の魔物じゃないし、神様でもない。(学校に行くかどうかは、授かるジョブ次第だけど)学費を稼ぐために帝国腰痛研究所で働いている普通の……ちょっと深刻に肩こりに悩んでいる女の子なのに。
そんなに羨ましいなら代わって欲しい。クッソ重いんじゃッッッ!
話を戻すけど、ステータスを得ていない人の魔力をほぐし芋の蕾に流すと、肩こりに効く薬効が生まれるわけ。よっしゃ!枯れた蕾、合計1キロをゲット!
この枯れた蕾を魔水晶の水瓶に満たした暗黒水に3ヶ月以上浸すと、肩こりほぐしポーションの完成。たった1滴で肩こりを治して、しかも10日以上の肩こり予防効果があるの。
そしてこちらに用意してある、すでに完成したポーション。ガメ……合法的な手段で用意したモノを私の舌に1滴。
「んほおおおおおおおお!」
肩こりが無くなって快適ィィィィィ!この瞬間のために生きていると言っても過言ではないわ。
でも残念ね。この研究所で肩こりほぐしポーションをガメ……合法的な手段でしかもノーコストで手に入れられるのは今日限り。
山殿帝国の法律では18歳までに神殿で神託を受けて、ステータスとジョブを授からなくてはいけないのよ。
私としてはこのままステータスとジョブ無しで一生研究所で働いても良いんだけどね。最近腰も痛いし。おのれ運命の果実ッッッ!
でも事務系のジョブの魔力でも、肩こりほぐしポーションを作れるわ。品質は劣化するけど、バイトじゃなくて正式にここに就職できちゃう。
よっしゃあッッッッッ!いっちょ神託受けてみようッッッ!
「スリミィナさんのジョブは【ちくわの魔女】です」
私の目の前で水晶玉を持った神官が、私の胸を見ながらよくわからないことを言った。空耳か幻聴なのかと思って、聞き返す。
「……スリミィナさんのジョブはですね、【ちくわの魔女】です」
ん?
【事務員】じゃないみたいね。【税理士】でも【資料作成士】でも【速記官】でも【お茶くみ】でも【OL】でも【幽霊社員】でも【窓際族】でもない。
神官様は確か今年で70歳だったかしら。高齢のせいもあるけど、よその神殿の神官みたいに肥えていない。付けている装飾品も最低限の質素なもので、権力や人脈をけしてアピールしない。私の胸をガン見さえしなければ好感が持てる。
『誰に断って胸をガン見してんだ。ヤンのかコラ』と威嚇しつつ丁寧に確認したら、やはり【ちくわの魔女】らしい。神官様が後でお小遣い出すから許してって言うから、ここは引き下がろう。LVとかスキルLVが上がれば別のジョブに変えられるみたいだし。
とりあえずステータス確認しようかしら。
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スリミィナ 女性 18歳
ちくわの魔女 LV1
生命 216 気力 354 膂力 278
頑強 316 俊敏 289 技巧 265
魔力 31 精神 28 知性 1
ちくわ 1
スキル ちくわ創造LV1
アイテムボックスLV10
鑑定LV4
農業LV7
書類作成LV3
気力操作LV9
素手喧嘩LV10
釘バット術LV10
魔力操作LV6
回復魔法LV6
暴力魔法LV1
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ステータスを得る前に結構ガンバったから、農業や回復魔法が高いのはわかる。うん。それと、この辺は野生のメロンが暴れて危険だから強くなるしかなかったの。乙女としてどうかと思うけど、拳や釘バットに依存せざるを得なかった。暴力魔法もね。アイテムボックスは日々の努力かな。ガメ……大切な肩こりほぐしポーションの品質を守るために、それこそ血のにじむ思いで努力した。
まあ、才能もあるかな。
……でもちくわ創造って何?
それと、能力値にしれっと入っている『ちくわ』って何よ!
そもそも『ちくわ』って何なの?聞いた事無いわ。誰に聞けばわかるのかしら。
血の……鍬?農業絡み?耕すの?実際にスキルを使えばわかるんでしょうけど、軽はずみに使って良いのかしらね……
300年前のどこかの貴族の子供に、パクチーマスターってジョブが出て……試しにスキルを使ったら、その貴族領がまるごとハーブに覆われたって事があったわ。その場所は今……パクチー樹海って呼ばれてる。ただの平民でしかない私が、ちょっと試していきなりちくわ樹海とか生み出すのはヤバいわね。
【ちくわの魔女】はハズレっぽいわ。トラブルさえ起こさなければ、おとぎ話みたいに追放されはしないでしょうけど。
私の両親もハズレジョブって言われたそうよ。父は【F1レーサー】。『F1』ってのは何か知らないけど、スキルを使えば馬無しで馬車を高速で走らせることができるの。ドリフトもできるわ。おかげで野生のメロンを轢きまくって、その功績でAランク冒険者になったの。
母は【ツッコミ役】ってジョブ。会話や行動で違和感を感じたら『何でや!』ってツッコミを入れられるのよ。そうするとツッコんだ相手にスタンをかけられるの。魔物に通用するってわかるまで無能ジョブって言われてた。でも暴力魔法を若いうちに極めてたから、冒険者登録してすぐにSランクになったそうよ。
「別にスキルなんて使わなければ使わなくても生きて行けるよね~」
でも事務系のジョブじゃ無さそうだから、腰痛研究所に正式に就職はできないわ。悔しいッッッッッ!肩こりほぐしポーションは、1本100ミリリットルで……金貨1枚なのよッッッッッ!バイトじゃ半年かけても稼げないわ!
まあ、一生分のポーションはアイテムボックスに確保してあるけどね。でも研究所で働いて横なが……ゲフンゴフン、何でもないわ。気にしないで。収入も重要だけど、世の中の役に立ちたい気持ちだってあるわ。本当よ。………………本当よッッッッッ!
うーん。やっぱり冒険者になるしかないかな。『魔女』って付いてるけど、ジョブ固有の攻撃魔法や補助魔法は無いから戦士系ジョブなのかしら。能力値的にもろに脳筋だから……魔法学校とか行かなくても良さそう。でも剣術道場には行くべきね。釘バットには自信があるけど、あれで竜を殴ると釘が曲がるのよね~。
とりあえず神官様と待ち合わせしている原っぱに行きましょう。
良い天気。御山がはっきり見えるわ。御山は帝国の守り神なの。拝んどこ。
「スリミィナさ~ん」
神官様が来た。早いわ。ずいぶん汗だくじゃない。きっと急いで来たのね。痩せた体で必死で走って来たようね。でも、やや前屈みなのは……私の目を見ろッッッッッ!胸に目は無えッッッッッ!
「お待たせしました。これ上納金です」
『上納ってどういう意味だ。あと素で金を渡すな』と穏やかに言うと、神官様は平伏した。やめてよ、私がお年寄りをいじめてるみたいじゃない……ん、地面に鏡。
「下 か ら 何 を 見 て い る」
「ヒッ」
目一杯の笑顔で囁いたら、神官様は気絶してしまったの。私は必死で原っぱを見回したけど誰もいなくて一安心。目撃者がいたら冤罪を着せられるとこだったわ、危ねー。
この隙に胸のサラシを巻き直すわね。
ブラジャー?私に合うヤツはこの辺で売って無いわッッッッッ!貧乳が憎いッッッッッ!
ちょうどサラシを巻き直した直後に神官様は目を覚ましたわ。そうだわ。『ちくわ』って何か聞いてみましょ。
「『ちくわ』……ですか」
なぜ胸を見た。
「乳製品のような響きですね……」
貴様どこから連想した。
「うーむ。……犬に『チワワ』という種類がいます。響きが近い気がしますね。『ちくわ』は案外生き物かも知れません」
【ちくわ創造】は生き物を創造するスキル?パクチーもハーブ、すなわち生き物。やはり危険なスキルみなのかしら。
「【ちくわの魔女】は生物生産系のなのでしょうか……これでは私は腰痛研究所に就職はできませんわね」
生物生産系は非常に希少だけど、スキルの使い道が限られたり、使い方によって取り返しが付かなくなる。わかりもせずにスキルを使うと、現在国土の2割を占めるパクチー樹海のような大惨事が起きてしまうかも。
これはもう冒険者登録して釘バット系前衛としてガンバるしか無いかなー。困ったことに、私の人生に『主人公最強』のタグは付いていないのよねぇ。釘バットと拳で解決できない魔物と出くわしたらどうしよう。
「そう悲観する必要はありません。スリミィナさんにはグラビアアイドルの道が……」
「目 を 見 て 話 せ」
「失礼。良かれと思って申し上げたのですが……」
「胸 の 揺 れ に 合 わ せ て 頭 を 揺 ら す な」
そうだ!訴えれば慰謝料で遊んで暮らせるかも知れないわ。こういうヤツ何百人もいるから。
「ねえ神官様、法律家になるにはどうしたらいいのでしょうか?」
訴える対象に聞くのは自分でもどうかと思うけど、この神官様ーー名前何だっけ……エムドだ!うん、エムド。コイツはこの辺で一番の物知りだ。教えてくれたら慰謝料は値引きしてあげるわね♪
「ぐはっ」
突然神官様は顎を押さえて頭を揺らす。
「胸 の 揺 れ に 合 わ せ て 頭 を 揺 ら…………これは大変ッッッッッ!」
顔が青い。目の焦点も合わない。押さえているのは顎。
「神官様ッッッッッ!今日はキチンと歯を磨いたの?」
地球からの転生者や召喚者は揃ってこう言う。
『虫歯と水虫と痔と腰痛と肩こりなんて、たいしたこと無い』
なぜなら彼らの世界では、病院で治療をするだけで『解決』してしまうからだ。
虫歯は数ヶ月。水虫は数ヶ月から数年。痔は薬を処方したり手術するだけで。腰痛と肩こりは薬を塗ったり飲んだり指圧したりトレーニングで筋肉を付ければ……
……『解決』する。
『完治』という表現はしたくない。5大脅威は世界が続く限り、全ての生命を脅かし続けるのだから。
「神官様ッッッッッ!我慢してえええええええ!」
思い切り弓を引く動作をして、神官様の頬に全力ビンタ。誤解しないで。国際魔物条例で定められているの。
『生物が虫歯で苦しみ出したら、殺す前提で顔を殴る』、『見殺しにしたら、一族連座で打ち首獄門』、等々。こうしなければ、私と家族は死刑になってしまう。
プギイイイイイイイイッッッッッ!
この悲鳴は神官様のものでは無いわ。神官様の口から吐き出されたおぞましい存在が出したの。
惜しかったわ。恫喝する前に問答無用で殴れば良かった。草むらに吐き出された黒い物体が大きくなった。身長は私の倍くらい。
虫歯から生まれてしまった魔物。虫歯獣。この世界の魔物の9割は自然発生したり繁殖したりする。残りの1割は、5大脅威から生まれる。
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虫歯獣 LV47
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5大脅威の中で、虫歯が最も脅威度が低い。
1秒につきLVが1しか上がらないから。
LVが1でも、『ちくわ』が何かわからなくても、私がこの脅威を止めるしか無い。あと20分経過すれば、この国の誰にも止められなくなる。
私は拳を握った。今できる最大の攻撃は【暴力魔法】しか無いわ。