サマーレディ
砂浜照り付ける真夏の日差し。波打つ潮と漣の音。賑わう人たちの軽快な笑い声。
それらを遮断するように低く設置したビーチパラソルの下で、歳に似合わずアイスクリームを堪能する。
身体に籠った熱を逃がそうと恥を忍んで買ったが、結果は焼石に水。
コーンの縁に溶けて溢れかえりそうな白波を、ちろちろと舌を動かして流し込んだ。
視界半分がビニール製フリルの赤と黄で埋まる。
真下半分から覗くのは人の脚だけだ。
走り回ったり飛び跳ねたり。砂を弾けて、吸い寄せて。
小麦色の焼けた足が一斉に動き出すこともあれば、艶めかしい色白な人魚の足が誘ったりしてみせる。
しかし老いぼれに片足突っ込んでいる俺には、全てがハードな若い動きが見えて仕方がなかった。
──どうして俺はここにいるのだろう。
「あんまりじろじろ見ていると訴えられますよ」
「うわっ!」
ぴたりと頬につけられた冷たいスポーツドリンクに情けない声が漏れる。
ぬっと背後から現れた笹錦さんが意地悪な猫のように笑って「なんですか、今の」とからかいの言葉を投げた。
「おじさんはね敏感なの。あと急な刺激は腰にも影響するからやめてくれる?」
「熱中症で倒れる前にと買ってきたのにつれないですね。そんな“おじさん”のために海水浴に誘ったのに」
「あのねぇ。君の若さについていけると思ってるの俺が。いくつだと思ってるの」
「四十五」
「そういうことじゃなくてさ」
最近の若い子は何を考えているのか本当に分からない。
バイト先の店長を捕まえて「定休日にみんなで海に行くんですけど」と誘うなんて。普通は休みの日くらい店長と過ごしたくないんじゃないのか。
(それに何故か笹錦さんだけだし)
この状況こそ訴えられそうだ。
「店長、楽しみましょうよ。夏はあっという間ですよ」
「君こそおじさんからかってないでさ、」
回り込んできた笹錦さんが俺の顔に含んだ笑いを向けた。
「夏の火遊び、しない主義なんで」
ぽたりとアイスクリームが溶けた。