第四話 林先輩と鈍器
第四話
「政府のイヌが、死ねぇぇぇ!」
叫びながら、ボロボロの青年は俺の顔めがけてナイフを突き刺そうとした。
“射線を確認、憑依開始。”
身体が勝手に動き、青年のナイフが顔スレスレを通過しながら、横に身体を曲げた。
青年は、憎たらしそうにこちらを見て、何かを言おうとしたようだが、それを言う前に、
ダーンッ
ブシュッ、
大きな発砲音と共に青年の頭は吹き飛び、頭を失った身体は地面に倒れた。
“沈黙を確認。憑依終了。”
「ウッ、、」
体の自由が戻った時、俺は吐きそうになった。目の前に死体があるのだ。人生で初めて死体を見たと思う。
もしも機械の体では無かったなら、確実に吐いていただろう。
「おい安藤、大丈夫か。」
小隊長が駆けつけ、心配してくれた。その背後からは、巨大な銃を肩に担いだ林先輩が歩いて来ていた。
「小隊長、すいませっ、」
突然林先輩は銃を投げ捨て、俺の顔を蹴り、身体が後ろの木にあたるまで蹴り飛ばした。
「お前、事の重大さが分かっているのか? あぁ!」
「落ち着け林っ!」
林先輩はそのまま俺は変な態勢のまま首を絞め、罵声を言いまくったが、小隊長が止めに入ってくれたお陰で、林先輩は締めていた首の力を少し緩めてくれた。
「日向先輩!コイツは自分のやったことを理解していないんですよぉ! せっかく久しぶりに来た補充要員を、一人無駄に死なせたのですよ!」
「まだ新人だ。それに、これ以上兵士を失わせるな!」
「クソが、、、」
先輩は俺の首を絞めるのを離してくれた。めちゃくちゃこっちを睨みつけてるけど、
「安藤、とりあえず武蔵野の状態を確認しろ。もしかしたらまだ生きているかもしれん。バイタルでは、もう、、、」
小隊長に言われるがまま、俺は武蔵野先輩の状態を確認した。
先輩の首の後ろ側は裂け、血がただならぬ量吹き出していて、白い雪を赤く染め上げていた。
「亡くなっているか、、 安藤、そいつの首にぶら下げているドックタグ、金属板を一枚外して持ってこい。」
俺は先輩の遺体を仰向けにし、首元のプレートを一枚、外した。
「第三小隊日向より、第一、第二小隊に連絡。新人二人が敵と接敵。内一名が戦死。作戦中止を提案します!」
「こちら第一小隊より、敵部隊を確認。こちらが殿を務める。第二、第三小隊は先に後退せよ。」
隊長の声が無線で聞こえる中、俺たちは撤退することになった。
「行くぞ、安藤。」
「え? 武蔵野先輩は?」
撤退しようとした時、先輩の亡骸を誰も運ぼうとしない中、小隊長は、
「此処は戦場だ。亡骸は持って帰れない。置いていけ。」
「ですが小隊長!」
「戦場で荷物を抱えて撤退するなど自殺行為だ! 仮に自分で連れて帰るとお前が言っても、私は補充をこれ以上失うわけにはいかない。」
ああ、マジかよ、、
初めてこの世界で知り合った人を、こんなにも早く無くしてもいいのだろうか、
俺がどうこう言っている時、
「あーもう面倒だ。」
そうため息と一緒に林先輩が近寄って来た。
何やら怪しかったので、身構えると、
ガシッ、
「え?」
瞬きするほどの時間であろう、そのぐらい一瞬で、先輩は俺の側に移動し背中に手を伸ばしていた。
「先輩?」
カチャン、
そう言った瞬間、先輩は背中から何かを取ったようだった。
“電力の喪失を確認、電力消費を抑えるため、スリープモードに移行します。”
マジかよ。
どうやら電源、いやバッテリーが背中にあったらしく、それを取られたらしい。
お陰でどんどん意識が掠れていった。
最後に俺が見たのは、
雪が薄く積もった、冷たくなった先輩の亡骸だった、、、