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新生女神様の人類お忍び物語ツアー  作者: 上野 たびじ。
第一章 悲劇の悪役令嬢救済編
9/60

(8話) 神はいつも見ている。l




「静粛に!」


日は落ちて、一人の男性の声で騒がしかったホールが一気に静まり返る。そしてホール中央からのびる階段に五人の人影が現れた。


まるで昭和のテレビスターのような登場だ。


周りは五人の姿を確認すると周りは分かりやすく顔を歪めた。「チッ」「あ〜来たよ...」と言った、嫌いな人に向ける態度をここにいる人達は皆一人の少女に向けた。唯一シアだけが「何あの登場!?笑えるんですけど〜」と腹を抱えながらケラケラと笑っていた。


いつの間に仲直りを...


原作にこのような場面は無い。どのルートでも結局レイナは周囲に恨まれた視線を送られながら遅れて登場する。でも今回は違う。パーティ会場には早くついたし、皆の怪訝な視線はリーナたちの方に向いている。


『もしかしたら本当に断罪にまで至らないかもしれない...』


と、心の中で少し慢心してしまったのが過ちだったと気づくまでは早かった。この空気なら味方をして庇ってくれる人がいるかもしれない。ホールの皆が守ってくれるかもしれない。そう思ったのがいけなかった。




そこからは早かった。




階段から降りてきた5人は仲間割れしたはずのヒロインズである。ライル殿下を中心に、右腕にはリーナがへばりつき、左側には宰相息子のザック、その後ろにクール系コレル、反対側に脳筋ゲイルと言ったところだ。


「皆待たせてごめんね。」


殿下はそう言うと階段を下りきる数段前で五人同時に立ち止まった。え?何?ド〇フなの?新〇島なの?と心の隙に少し生まれた余裕がそんなツッコミ劇を繰り広げる。


そしてすぐだった。


リーナ除く四人は一斉に私、レイナ=アーラ=サンバルドに鋭い視線を送った。


「この会場にいる全員に聞いて欲しい!」


ああ、始まった。始まってしまった。


「今僕の隣にいるリーナは学院中等部に通いながら様々な酷いいじめを受けてきた。」


駄目だ。やっぱりダメなんだ...


「僕達はそれを看過できない!そんな悪質なことをする犯人を許せない!」


私...


「だから宣言しよう!僕は今ここで!」


あぁ...シェイアスエルナ様、セルレイトラル様、私...


「悪質な行為を繰り返した悪徳な令嬢!レイナ=アーラ=サンバルドとの婚約破棄を宣言する!」




断罪されてしまいました...




別に婚約破棄などどうでもいい。この後の現実を私は受け止めることが出来ない...


シェイアスエルナ様、どうやら今日が本当に教会で貴方とお会い出来る最後の日だったようです...


私は祈りの姿勢を取りながらその場で涙を流すのでした。




-------------------------




私は実はレイナにとって最善の策を取るべく、今までのお祈りの中で、都合のいいものだけを叶えることにしていた。私が数々の言い回しの中選択したのは、レイナが14歳の頃に願った、『痛いことは嫌なんです!されたくありません。死にたくもありません!』という言葉であった。


これ以上レイナをあいつらにかかわらせる訳にはいかない。そのための最善策は一度婚約破棄の宣言や、レイナの記憶にない罪状を公衆の面前で曝露した後にレイナを救うというものである。


たくさんの人の前で一度宣言すればもう言い逃れはできないからだ。


そして最後の判決の直後に彼らには色々とおさらばしてもらうのだ。



「レイナ=アーラ=サンバルド!貴様はリーナに何度も何度も水をかけ、机に落書きをし、教科書やノートを破き、わざとぶつかっては転ばせてリーナのせいに!これだけの悪事を二年間毎日のように繰り返されたリーナの気持ちがわかるか!!否!!分かるはずもないであろうな!!」


もちろんレイナがしたことでは無い。後にほかの令嬢達が始めた事だ。彼らはそれをあたかもレイナがしていたかのように振舞っているわけだ。


ヒロインズは『うんうん』と頷いている。そして涙を目に溜めたヒロインの謙虚(笑)発言の登場である。


「ライル様!彼女はただ、グズッ...ただっ..私に貴族社会での振る舞いについて教えてくれていただけなんです!!彼女は...悪くないんですぅ!!...ヒグッ...」


「やはり君はなんて謙虚なんだリーナ...君のような心清らかな子こそ今後の貴族社会には必要だ...自分のために他人を蹴落す今の貴族社会こそ腐ってる。君は間違ってない。貴族の光だ!!」


周囲は『うわ、またやってるよ、そしてんな訳あるか!』と視線で送っている。レイナは反論もせず今も尚祈りを捧げている。


そしてイチャイチャタイムが終わったライルは再びレイナの方をギロっと睨んだ。


「リーナはこんなに真剣に事と向き合い!悲しんでいるというのに君は!神頼みでもするつもりか!?今更赦しを請おうなど!失礼とは思わないのか!!」


「...」


興奮しながら叫んだせいか、所々途切れたレイナへの怒鳴り声は会場中に響いた。しかしレイナはただ無言で祈り続けている。


そして呆れたような顔をし、ため息を吐いて落ち着きを取り戻したライルは、レイナに憐れむような視線を向ける。


「レイナ=アーラ=サンバルド、君にはガッカリしたよ...模範貴族と呼ばれる程完璧であった君がもう貴族としている事が恥ずかしいくらいにまで落ちぶれてしまうとは...見ていられないよ...君は僕の元婚約者だが...どうやら僕は君をかなり買いかぶっていたようだ...」


心を覗けば他の3人の攻略対象達も同意見のようだ。というか、そもそも落ちぶれて言った残念はあなた達でしょうに、本当に元男として、こういう男を見るのは残念というか、恥ずかしいというか、魅了されているとはいえ目の前の真実にうつつを抜かすとは...そして大人数で一人の女性を責める。男として情けなくないのかな?私だったらこんなイタイ事言ったら帰って机にガンガン頭ぶつけているね。


「...」

「...」


自然に出来たライルとレイナを直線で結ぶ空白の空間はライルの最後の言葉で静まり返った。そしてライルは大きく息を吸って言い放ったのだ。



「すぅ〜っ...女神セルレイトラル、シェイアスエルナの名を拝借し、その名のもとに宣言する!レイナ=アーラ=サンバルドを禁錮五年の実刑に処す!!」


「っ!?」


レイナの引き攣るような声が聞こえた。


レイナの人生はここで終わった...







訳が無い。









「さて、始めましょうか。」



ここからが私の出番である。幸いにもこの世界では咎人を処す時には必ず女神の名を使う。それは人々が私達がそう言ってると勝手に言っているわけであって、別に私達の意思では無い。でも神の名を出したあたりで正直ありがたい。



さあ、ここからだ。悲劇の悪役令嬢を救いに行こう!私はこのパーティー会場に神力を満たし、この空間の灯りを全て消した。


「何事だ!!」


というライル達の混声が真っ暗なパーティ会場に響いたのであった。




-------------------------




私は認識阻害を解除し、神の完全体に姿を戻す。正直人間の姿の私よりも圧倒的に美しいと自負している!


白地に金の装飾を施したヒラヒラと舞うような衣を纏い、神気を解放。人の目からはピカーっと光ってるように見える事だろう。そして背中には白く輝く10枚の翼、そしてこの世界では神様の証とも言える頭上のリング。人のように物理的に発声する口も、呼吸のためにある鼻ももはや機能しない飾り。瞳は人のそれではなく、金の輪が浮かんだような瞳では無い何か。声も威厳のある脳内干渉に戻す。


我ながらなんて美しい姿だと思う。正直15歳までに胸が成長しなかったらどうしようと焦っていたのはここだけの話。間に合ってよかった...



さあ、女神シェイアスエルナのお出ましだ。



私は瞬間移動で全員を見下ろせる位置まで跳び、その場で浮かぶ。


レイナとヒロインズの周り以外の神気濃度を上げ、自然に跪かせる。レイナが悪くないと知っていながら傍観するのみだった貴様らとの格の違いを見せてやるのだ。シアは申し訳ないけど我慢して欲しい。


立つことを許された六人はただその場でぼーっと立ち尽くしていた。


彼らの目には10枚の立体的に大きく拡がった翼のおかげで私がこれ以上に大きく見えていることだろう。


さて、なんか言いますか。



『私は女神シェイアスエルナである。女神セルレイトラルの娘にして共にこの世を統べる女神の一柱である。』



この瞬間この会場にいる全ての人間が息を、そして唾を飲んだ。決して無礼は許されない空間。一つの呼吸の乱しで命一つが簡単に消し飛ぶ空間。そしてそう考えている心も全て読まれているという空間。立つのを許された者以外出てくる幕は無いのだ。



しかしそんな状況にもかかわらず、欲が恐怖に勝った者が一人現れた。



「じゃあ女神様!私を聖女にしてこの国の王女様にしてください!!」



その瞬間この会場にいるアホ(リーナ)以外が顔を青くした。ここにいる誰もが物凄い脂汗をかき始める。数名は跪いた状態から意識を手放すものも現れた。



リーナは私やレイナと同じ、神という存在が薄れた世界からやってきた転生者。それ故にこれがどういう状況なのかを理解出来ていない。



リーナは自分の首に、いえ、全身に針を向けられている状態だと言うことも気付かず、目をうるうるキラキラとさせて私を下から目線で見上げる。


さて、どうしてやろうかと私は左手をリーナに向けた所で場面は大きく変わっていくのであった。


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