(6話) 神からの警告
待ちに待った次の日の放課後、私は貸切の魔法訓練所に足を運びました。
私は昨日の手紙に[放課後、第一魔法訓練所にて貴様を待つ。]と、デジタル文字のような字体で書いた。
私は物陰からひょっこりと顔を出して様子を見る。
『おー、待ってる待ってる!』
追放された一人を除く攻略対象が全員揃っている。
一人目は言わずもがな、第一王子のライル、そして宰相の息子でインテリ系のザック、騎士団長の息子の脳筋ゲイル、宮廷魔法師長の息子であるクール系のコレル。忘れては行けないぶりっ子ヒロインのリーナ。個性大集合である。
五人で仲良くきゃっきゃと騒いでいる。
逆ハーレム絶好調のリーナは完全に油断しきっており、この呼び出しがゲームに無いことなど気にも止めていなかった。というより気づいてすらいなかった。
今までの嫌がらせは全てゲームに出てくるものに似せた演出になるようにリーナの自作自演で仕向けられてきたが、今回はレイナの記憶からゲームの記憶を勝手に貰った私が、ゲーム内にあるイベントと被ることの無いイベントを発生させたのだ。
「ねぇ、なんで私こんな所にいなきゃいけないの?」
「ああいった誰が送ったか分からないような手紙は害意がある物が殆どです。なのでそういう輩は早めに捕まえなければならないのですよ、リーナさん。」と、ザック
「まあもし何かあったら俺に任せろ!ぶっ潰してやる!」と、ゲイル。
「ふんっ、リーナとの時間を潰したヤツ、容赦はしない。」と、コレル。
「まあまあ、落ち着くんだ皆、いつ襲ってくるか、そもそも襲ってこない可能性もあるんだ!」とライル。
ゲーム画面のヒロイン目線で見れば頼りがいのある男たちに囲まれて嬉しい場面だろう。でも第三者から見ると、気持ち悪い...というよりむしろ怖い。女になったからだろうか、ヒロインを見ててとてもイライラする。
カルナのあの可哀想な姿を見た直後によくそんな他の男達と人目もはばからずにイチャイチャできますね。
いつまでもイチャイチャしてる五人を見ていられなくなった私はとっとと要件を済ませることにしました。
誰も見てない所で服を古代ギリシアの服飾に似せた物に着替え、初めて会った時からずっと彼らにかけていた認識阻害神術を解く。
そう。実は彼らは私にずっと認識阻害の神術をかけられていたのです。
彼らが私を罵倒する時「お前みたいな地味な女が」なんて言っていたのはそういう事だったからなんです。
長らくかけっぱなしだった認識阻害を解除したら、彼らの後方にパーンッという幻聴を聞かせて彼らが振り向いた瞬間に彼らの目前に瞬間移動します。
パーンッ!!
「っ!?...」
「わぁっ!?」
「!?...」
「ん?」
「キャァァア!?」
皆さん大きくリアクションをしてますね。全員が後ろを向いたその隙に...
シュッ!
これで彼らは目の前に現れた謎の超超超超超絶美少女に赤面しながらも警戒するはずです!
こうやって正面に来ると、見事に五人綺麗に横に並んで後ろを向いていて...なんというか、面白いです。そして五人同時に視線を前に戻すと、いつの間に私がいる訳だなぁ〜。
「...なっ!?」
「...何者ですか。」
「...何奴っ!?」
「...誰、」
「ひゃっ!?」
リーナ含む五人が予定通り一瞬私に見惚れた後、リーナの悲鳴に気が付き、瞬時に私に剣や魔法の杖を向ける。
いやー、神の美貌はたかが魅了を足した人間ごとき、余裕で勝ちゃうのですよ!
ちなみに長らく説明してなかったんですけど、リーナの魅了魔法はこの世界に元から存在したものではなく、ヒロイン補正の魔法なんです。なので彼女が使える光魔法とはまた別物の幼い頃から使える先天性の物なのです。
「だっ...誰だお前は!!」
顔を赤らめながらも声を上げて一歩迫ったのが脳筋ゲイル君。こういう所で考え無しは警戒もせずに見た目で自分の方が強いと思いこむんですよねー。
私はリーナに送った手紙の字体に合わせて、自分の声をこの世界では聞けない合成音声チックな声に変えて返答する。
「キサマラニナノルナナドナイ。」
「なっ...何だと!貴様!殿下の御前だぞ!頭を下げぬか!!」
強気になったゲイルはもう数歩距離を詰め、叫ぶ。相変わらずうるさい。怒鳴るのが好きなのだろうか...
「ワレハタダキサマラニチュウコクシニキタ。」
「私達が一体何をしたのだろうか。差し支え無ければ教えて欲しい。」
リーナの魅了に負けているとはいえ、さすがは王子。怒る相手に、何で怒らせたのか理由を聞き、場合によっては改善する姿勢を見せるが、理由によっては自分の主張もできる。すぐに謝ったり脳筋みたいに怒鳴り散らかすような真似はしないようだ。ただ...
「コタエルツモリハナイ。タダ、ワレワレハキサマラヲツネ二ミテイルコトヲユメユメワスレルナ。」
そう言って再び彼らの後ろにパーンッと幻聴を聞かせて視線が外れた瞬間に元の位置に瞬間移動をした。
一瞬で衣服を制服に戻し、認識阻害をかけ直し、物陰から彼らを覗き見する。
「なんだったんだ...」
「瞬間移動...?」
「「「「...」」」」
少しこんな感じで呆然とした後、リーナが私の予想通りの発言をしてくれる。
「ところでなんでさっきから皆顔が赤い訳?もしかしてあの女に───」
「いっ...いや、違うんだ!」
「僕はここにいる誰よりもリーナを愛しております。」
「は!?何言ってんだよ!お前あの女に見惚れてたろーが!」
「そういうゲイルも鼻の穴広げて興奮してた。」
「皆!落ち着くんだ!」
「僕は君を一番に愛し───」
「いいえ、俺───」
「俺d───」
と言った感じでリーナが私に見惚れた男達に、本当に好きかどうか問いかけることで仲が良かった男たちは一人の女の子を取り合うために争いを始めるわけですねー。
そしてリーナはそれに焦ってみんなに少しづつ媚びを売ってまた仲直りできるよう日々頑張らなければならなくなったわけだ!
そうすればリーナは私達のいじめどころじゃなくなるわけです!
我ながら完璧な作戦。
ちなみに私のあの発言には特に意味は無い。ただただ私に気を引かせるための駄文だ。
明日の朝が楽しみでしょうがない私は軽い足取りで、心の中では大きなスキップをしながら寮の部屋に戻るのでした。
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翌日の朝。
「この中で一番強いのは俺だ!リーナを守るのは強いやつに越したことはない!」
「貴方は既にシーナ嬢光魔法の件で悪い意味で有名になってます。悪い噂の絶えない人にリーナさんを近付けさせるのは理解できません。それよりもリーナさんのような明るい方は私のような理知的で社会において女性を支えられるような者と一緒───」
「くだらん。リーナは魔法を主に扱っている。珍しい光魔法ならいつか魔力が暴走してしまうかもしれない。それなら魔法とは切っても切れない縁である私を常に横に置くべきだとなぜ貴様らは分からない。」
「第一王子である僕が一緒にいた方が全般的に安全だとは思わないのかい?」
「ちょっと皆!私のために争わないで!皆が仲良くないと私...わたすぃ...」
「貴様のせいだ脳筋が。」
「なんだとクール気取りが!」
「大丈夫ですか?リーナさん。私が今からでもリーナさんの好きなものを買いに行ってくるので何が欲し───」
「リーナ、ハンカチだよ。ほら、」
「うぅ...皆ぁ...」
「「...」」
朝っぱらから繰り広げられているスクールラブロマンス(ヒロインの奪い合い編)にシアとレイナは口を開けて絶句している。
しばらく廊下を歩いてヒロインズが見えなくなると、先に我に返ったシアが私に質問をする。
「ちょちょちょ!シーナ!何があったの!何か知ってる!?」
「どうやらかなりの美人さんがいたようでそれにリーナさんと殿方達全員が見惚れてしまい、心配になったリーナさんが自分の事が好きか質問してしまったので、誰が一番美人さんに見惚れてたか、誰が一番リーナを大事にしているかを言い争っているようです。」
事実です。
「ほぇ〜...シーナなんでそんなこと知ってるの?」
「現場を目撃したからです。」
「ほえ〜。」
ま、ヒロインズが仲間割れするようになった原因を作ったのは私なんですけどね〜。
「その美人さんとはどのような人でしたか?」
話を聞いていたレイナがなんとも答えにくい質問をしてきた。う〜ん...なんて答えようか。
「そうですね...遠くからだったのでよく見えませんでしたが人間離れした美人...と言えば良いでしょうか、上手く言葉に表せません。」
間違ってはいない。だって人じゃないもん。
すいません。と軽く苦笑して返すと、勘のいいシアが「まさかシーナってオチじゃないだろうね?」と質問してきたが、苦笑したまま「まさか。」とだけ答えた。
この後ヒロインズの言い争いで出てきた、瞬間移動して気味の悪い喋り方をする真っ白な人形が魔法訓練所に出没するという噂が広まった。
その噂が聞こえた時、シアがもう一回聞いてきたけど「私は普通の人間です」としっかり言っておいた。するとシアが
「シーナってなんか人とズレてるし、完璧超人だし、見た目も神々しいし小さなシワやホクロ、しみ一つもないからなんというか、触ってはいけない領域に感じるというか、人じゃないって言われたら一番すぐに納得できそう。」
「なにそれ、褒めてくれてるの?恥ずかしいわ。」
なんやこの子、勘鋭すぎ。これでも人間味のある体に変えている方なのだ。神ってバレないように色々工夫してるのだよ。
例えば神は神力使う時瞳が金の輪のように光ってしまうので、神力で魔法を操る時は毎回目を瞑って授業を受けたり、つい浮いちゃったりしないように靴下は重りだったり、色々大変なのだよ。
とまぁこんな感じでヒロインズの喧嘩が始まってからはリーナが私たちに接触する機会は極限まで少なくなった。それからリーナは分裂した攻略対象達を回りながら媚びを売って仲を戻そうと必死になっていた。
今まではリーナが自分から攻略対象達の元に行くことなく、勝手にあっちから来てくれて集まっていたので特に問題視されてなかったが、攻略対象達が喧嘩別れし、リーナ自らがそれぞれのキャラのところに出向くようになったことで、今まであまりなかった、"将来有望イケメンたらし"と言う二つ名がついてしまい、女子から見ても男子から見ても良くないイメージが急に強くなってしまったのです。
そのためリーナは他学年の人から、嫌がらせをされるようになってしまいました。
波乱な学校生活を送るリーナとは対照的に、私達三人はいかにもな普通の学院生活を過ごせるようになりました。
そしてそのまま何事も無く一年の月日が経ち、悲劇の悪役令嬢レイナの物語の舞台はクライマックスへと向かうことになるのです。
ちなみに私はこの一年半の中で全ての教科において一位を譲ったことはありません!どや!ブイブイ!