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新生女神様の人類お忍び物語ツアー  作者: 上野 たびじ。
第一章 悲劇の悪役令嬢救済編
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(5話) 女神に誓って。



突然ですが、この世界には重要な約束事をする時や、疑いを晴らす時には、「女神に誓って」というフレーズを使います。それでいて約束を破ると、洗礼の儀を受けた後に加護(スキル)と共に授かる、鎖骨上窩に白く刻まれた神輪の聖紋が黒く変色され、加護が使えなくなり社会的地位を失うのだとか。それは貴族王族とて例外では無いらしいのです。


私はまだ人に加護を授けたことは無いけど、母様がたまに自動加護付与装置と、自動加護取消装置に神力を注いでいる所を見た事がある。


まぁなんとも夢のない話です。


今でこそ母様は自動化しているけど、最初の100回くらいは自分で加護を与えていたのだとか。


ちなみに聖女と勇者、賢者は神様が直々に加護をあげると言う神様の決まりらしい。


15歳までは政治の場で潔白を証明するために親が用いる"女神に誓う"という言葉を真似して容易く使いがちということで洗礼は受けない。15歳からはそれぞれ個人に責任がある大人として扱われるので、加護を与えられるのだ。勿論加護を授かる以前のように容易く女神に誓ってというフレーズを使っていると、案外あっさり誓いを破ってしまいすぐドボンということになってしまう。


なので地位剥奪率は加護貰いたての15歳よりも、慢心し始める16歳が一番高いらしい。




それで一体聖紋がなんなのかって話なのだが、実は...


「僕はレイナ嬢がリーナに手を出したと"女神に誓って"も言えるぞ!。」


「私レイナさんにぶつかってしまっただけなんですぅ...彼女は悪くないんですぅ。」


「相変わらずリーナは謙虚だな。リーナ君は悪くないと"女神に誓って"言えるよ。」


「「...」」

「アッハッハッハッハッ!ひぃ〜ひぃ〜」


何が起きたかと言うと、つい先程、入学式の日のようにレイナとリーナが衝突してまたリーナが大袈裟に転んだのだ。そしてたまたま通り掛かったカルナ先輩がリーナの心配をしてレイナを責め始めたのだ。


しかし問題はそこでは無いのだ。


実はカルナ、つい一昨日の話だが、15歳の誕生日を迎え、既に洗礼を受けているのだ。そしてこれは言っていなかったのだがカルナはソルニック王国とはまた別の隣国、オーバルノース帝国の第二皇子だったりする。彼の本名はカルナ=アーラ=オーバルノース。一昨日母様(代理の機械)から長剣の加護を貰っていた。


帝国は軍事主義国家であり、帝国第一皇子は生産系の加護らしく、今回のカルナは長剣の加護を手に入れたことによって、次期皇帝はほぼカルナで決定されたとまで噂されていた。


そして今回の衝突事件、言わずもがな悪いのはリーナ。そしてカルナは見ても無かったのに、リーナの前でカッコつけるチャンスだと調子に乗ってしまい、「悪いのはレイナだ!」と女神に誓ってしまったのだ。結果何が起こるのかと言うと...


「ゔっ!?ウグゥアッ...あぁ...ぐっ...」


カルナが急に唸るような声を出して首元を押さえながら地面に片膝をつけた。


「カルナ様!?大丈夫!?カルナ様ぁ!?」


「な、なんですの...これ...」


と、動揺するリーナとレイナ。するとシアが私の前に一歩出てカルナに近づく。


「あ〜あ、簡単に"女神に誓って"なんて言うからだよ〜?帝国皇子様〜」


さっきまで爆笑していたシアが急に真顔になって必死に首の付け根を押さえるカルナを上から見下す。


「ぁぁあああ!!!!ぅぁああ゛あ゛ヴあ゛!!!!」


「キャァァア!!カルナ様ぁあ!!カルナ様ぁあ!!」


苦しそうに床でのたうち回っているカルナをリーナが本気か演技か分からない涙を流しながら必死にカルナの名を叫んでいる。


リーナはなけなし程度の治癒魔法をカルナにかけ続けるがもちろんそんなものは意味を成さない。


カルナの首元から緩やかな螺旋を描きながら、細く黒い煙が線香の煙ように天へと登っていく。きっと喉が焼けるように痛く苦しいのだろう。実際いい歳した男が目を充血させ、涙を流し、叫び、自分の手で掴まれた首から自分の爪で出血してるところを見ると余計苦しさが見て伝わってくる。


カルナの叫び声を聞いて周りからたくさんの生徒たちが集まってきた。


辺りは「なんだ!?」「え?なになに?」「カルナ様か!?」「イヤ!イヤよ!」「マジか...」などと言う声で騒ぎになっている。


自分で言うのもなんだけど、神様って本当に残酷だよね。こんな些細なことで若人のこれからの長い一生をなんの感情も無い機械に自動で棄てさせてしまうのだから。


国のお偉いさんや貴族たちは自分の大切な国と王を護ると決意した時にしか神に誓うことは無いのだ。逆に言うとこういう一人の命で何千何万という命を背負った時以外使わないほどこの言葉は重く、大切な言葉なのだ。


カルナはそれを知っているはずだった。なんせ国民の命を背負う軍事国家のトップになるはずだったのだから。しかし愛に目が眩んだがためにこのようなことが起こってしまった。



...いや、実際カルナは国と同じく命をかけてもいいと思ったほどにリーナを愛していたのだろう。現に今カルナは苦しい喉から必死に言葉を捻り出してリーナに何かを伝えようとしている。


「り..ぃ.な...き、みぃは...ほん.と...に..やざ.じぃ...こ..だ.なぁ...だから..ぼぐ.は...き.みぃ..を...」


「カルナ様!カルナ様!」


カルナがなんと言っているのか聞こうともせずただずっとカルナ様カルナ様と叫んでいるのはわざとなのかしら。自分の演技に没頭して周りの声が聞こえてないのだとしたら、リーナ、あなたは本当に罪な...いえ、醜い女ね...


自分の私利私欲のために前世の力を元に人を強く魅了し誑かし、他人の人生の狂わせる。明日になって聖紋の事情を知ればきっと、カルナの事など忘れてほかの四人に目移りするのだろう。末恐ろしい魅了だこと。


貴女のその軽はずみな行動が、たくさんの人のこれからを奪うのだ。


カルナはすぐに気を失って仰向けになって倒れた。口からは泡が溢れ、白目を向いている。シアは近づいて彼のシャツの第一ボタンを外してしっかりと確認をする。


「っ...」

「...」

「あ〜あっ」


彼の鎖骨上窩にはしっかりと真っ黒な輪が焼印のように残っていた。


もう彼はカルナ=アーラ=オーバルノースでは無いのだ。ただのカルナとして平民街に放り出されるのだろう。


細く立つ煙の鼻を刺す微かな刺激臭が辺りを覆う。


前世のSPみたいな人達がカルナを運んで学院の外まで連れていき、もう彼の姿は見えなくなってしまった。その間リーナは「あなた達のせいよ!」だとか「なんで私がこんな思いをしなくちゃならないのよ!」とか、「あなた達は私をいじめて断罪されてればいいのよ!」とか、私たちに罵詈雑言の嵐をぶつけていた。


レイナは遠い目をしながらリーナの暴言の嵐を右から左へと流して聞いていた。最早攻略対象達に興味は無いのだろう。というか元々興味は無いのでしたね。廊下の窓から吹く秋風がレイナの長い縦ロールを揺らしていた。


明日は我が身かもしれない。


何かを悟ったようなレイナの顔はとても美しかった。


周りの生徒達は『見るものは見たなぁ』と言った感じで撤収して行く。


悪役令嬢に虐められて優しい若者に助けられるか弱い少女の面影など、そこには既に何一つ残っていなかったのであった。


今回ばかりはカルナにざまあみろとは思えなかった。


この後私達三人とリーナは先生に連れられて事情聴取を受けたのであった。




-------------------------



あの騒動の次の日の朝。


「ライル様〜!」


「リーナ!大丈夫か?カルナ殿の件で辛い思いはしていないかい?」


「昨日はいっぱい泣いちゃいましたけど、もう過ぎたことです...切り替えて行きます!」


「そうか、それがいい。じゃあ一緒に教室に向かおうか!」


「はいっ!」



やはりリーナはカルナの事などもう遠くの彼方に忘れ去ったのだろう。


自分の一生をかけてあの一瞬の彼女のためだけにかけて散った(生きてます)カルナをもう無いものとするなんて...正直怖い。今頃彼はリーナの事を強く想いながら辛い思いをしているだろうに一夜のうちに忘れ去られ、悲しむことも無く、ただただいつものように他の男達とイチャイチャする。


なんというか、こう、終わってるよね。


それに加えて反省の色も見せず、レイナと私への嫌がらせも続けているのだから本当に恐ろしい。


最近になってレイナは、リーナのあの演技と攻略対象達のラブラブなやり取りをぼーっと聞き流すようになった。


「あ〜そーっすね〜、はい、はい、あ〜確かに〜はい、おっしゃる通りっす〜、はいはいはい、あ〜、さーせんさーせん。」


「なんだその返事は!ちゃんと僕の話を聞いているのか!?失礼だとは思わないのか!?」


「あ〜確かに〜はいはい、そうっすね〜。」


もはや会話にもなってない。


ってな感じでレイナは模範令嬢である事も放り出して前世のような軽い言葉で返すようになった。正直、西洋風の顔付きに金髪碧眼で縦ロール超絶美少女のいかにもなお嬢様が、めんどうで適当に流す日本の高校生みたいな言葉を放ってるとギャップが凄すぎて笑ってしまう。


少しして、ヒロインという名の嵐が過ぎ去り、レイナがとうとう本音を漏らす。


「はぁ...あいつ(リーナ)の相手、本っっっ当に面倒ですわ。」


『『確かに。』』


私とシアは同時に思った。


正直行く先々で面倒事に絡まれるのは面倒であった。なので私はある事を考えついた。


『リーナの意識をこっちに向けることが出来ないようにすれば良いのでは?』


リーナは悪役令嬢ポジションであるレイナを断罪するためのしっぽを掴むために日々面倒事を起こしてくる。なら、今限りなくゴールに近い彼女のクリアルートを遠ざけてやればいいのです!


そうすれば私たちに向けていた意識を攻略対象たちに、向けることが出来るというものです!


どうするのかって?


いやいや、これは見てからのお楽しみです。


我ながら神がかった案だと思います!



-------------------------



その日の放課後、夜の2時。私はリーナの部屋に送る招待状を書いています。


「ふっふっふー!明日が楽しみだぜいっ!」


私はいつもの真顔の仮面を外して普段見せないようなあくどい笑顔を浮かべる。


書き終えた私は手紙を送るためにテラスに出ました。地球にはなかった金環日食のような月が私の絹のような髪を明るく照らしています。


なんというかこういう演出って影の支配者みたいでかっこいいですよね!


「ふふふっ...時は来たわ...これで全てが始まる...明日が楽しみだわ...」


私はそう言って月明かりの下、学院で習ったダンスを一人で舞う。


神秘的に見えるように自分の抜けた羽をたくさん舞わせたりもしてみる。


するとキラキラと月明かりに反射してヒラヒラと舞う私の抜け羽はゆっくりと地面に落ちて消えてしまう。


「あぁ、なんて素敵な夜なのかしら...」



......



恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかしぃぃいいい!!!!


ガンガンガンとテラスの柵に頭をぶつける。


すると隣から「なんかすごい音が聞こえましたけど大丈夫ですの!?」とレイナがテラスの窓から眠そうな顔を出してきた。


私は「なんでもないわ。おやすみなさいレイナ」と引きつった笑顔で返事したら「そう?なら、おやすみなさい」と不思議そうな顔をしながらも素直に引いてくれた。


起こしちゃったの申し訳ないな...にしても...


「はぁ...恥ずかしい...」


私はそう呟いたあと、顔を真っ赤にしながら人差し指と中指に挟んだ手紙を夜の静かな風に乗せて彼女の部屋に運ばせるのでした。


ちなみに後日談になるが、神界に一時帰省した時、私のあの厨二病演技が映画のような編集をされて私の家で流れてて、母様が『シーナもまだまだかわいいわね〜』と微笑みながら見ていた。めっちゃ発狂してめっちゃ暴れた。




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