(4話) 宮廷魔術師長息子と逆ハーレムの完成
「シーナ〜、昨日の呼び出し結局なんだったの?」
ゲイルに脅迫された日の次の日の朝、私は自分の席に座って1時限目の準備をしていると、早速シアに昨日のゲイルと何があったのかを質問されたので正直に簡潔に答えることにした。
「いえ、ゲイルさんに私が今後光魔法を使わないよう強く言われただけです。」
「えっ!?」
「なっ!?」
私の言葉がクラスのみんなの耳に入ったのか、クラスメイトのシアやレイナだけでなく、クラスのみんなまでもがこちらに一斉に振り返る。
この国において王命、犯罪者や軍以外、権力を笠に着て個人の自由を制限することはタブーとされている。と言うより法で禁止されている。
つまり事実であろうと無かろうと、このような噂が流れれば当人の評判はガタ落ちするのである。貴族とは表面に貼られた箔こそが物を言う。こんな噂が流れれば将来少し雲行き怪しいものになること限りない。
でも周りに見ている人もいなかったわけで証拠もなく、現行犯でなくては捕まえることは出来ない訳ですから、本当に噂が流れるだけです。
でも別に口止めされていないし、今後のレイナに対するいじめが私にも向くように軽く仕向けた。恐らくこの発言はすぐに学年の噂になる。そしてそんな事実は無いと、ヒロインズが私の前に押しかけてくるはずです。そうすればヒロインズの怒りの矛先は私にも向けられてレイナの負担が半減とまではいかないだろうがかなり減るはず。
まあ、法って言う、この国では国王よりも強い存在があるわけだからゲイル君は従わないといけないよね〜。昨日の言質、忘れませんよ〜。
そして案の定噂を嗅ぎ付けたヒロインズ一同は次の休み時間に私達の教室に乗り込んできた。
「どういうことだ!シーナ=ホープス!」
ゲイルの相変わらずの大きな声、私の後ろの窓ガラスまで割れたらどうするつもりです?
「なんのことでしょうか。」
「貴様!俺を侮辱したことがまだ分からんか!!」
まあ、とりあえずしらばっくれる演技を見せる。それに怒鳴って反抗するゲイルに首を突っ込んできたのはリーナによって既に魅了済みと思われる宰相の息子、ザック=カーラルであった。
「とぼけてるつもりでしょうがそうは行きませんよ、シーナ嬢。これは名誉毀損という列記とした犯罪です。ゲイルは今なら貴方の発言は取り消すと言っておられる。謝るなら今ですよ。」
証拠も無いのに好きな女のために犯罪者扱いをする次期宰相とは。笑えるものです。人前で被害者を加害者に見せつけるのはさすが権力者の息子と言ったところ。冤罪も甚だしいです。
「ではゲイルさんが昨日私を言い詰めていないという証拠を見せてください。」
ここで多分よくある流れだと、『目撃者がいるんだ!』とか言って、ヒロインが、『わたすぃ、見たんですぅ。助けようと思ったんですけどぉ...目が合って睨まれちゃってぇ、怖くて動けなかったんですぅ...』的な発言をするのでしょう。
「良いだろう。目撃者がいる。」
予想通り。ザックはそういうと後ろにいたリーナの方を向いた。すると私の想像しえないことが起こった。
「俺は見た。貴様がゲイルに言い詰められているのではなく、貴様がゲイルを言い詰めているところをな。」
なんと、ザックが視線を送ったのはリーナではなくその奥のドア!目撃者を名乗ったのは、今もなお「ゲイル様ぁ、冤罪被せられるなんて可愛そうですぅ」とか言ってうるうるした目を向け、ゲイルの腕に自分の腕を絡めているリーナではなく、五人目、最後の攻略対象キャラ、宮廷魔術師長の息子、クール系のコレル=ジーダンであった。
そもそも昨日あの場において視線や、盗聴の類の魔法が感知されていなかったことは探査神術でわかっているのでこの証言は嘘って事はわかっているんだけどね。
レイナは『こいつ、いつの間にそんなに攻略してたのかよ!?』と言った驚きの表情をリーナに向けている。
本当、どんな時間の使い方をすればこんなすぐに五人目まで攻略してしまうんでしょう。きっと課題もせず怒られては攻略対象達にくっついて慰めてもらっているんでしょうね。
「私も見たんですぅ、ゲイル様がぁ、そこの地味な女子生徒に迫られているところを。私もゲイル様を助けようとしたんですけどぉ、彼女と目が合って睨まれて、怖くて...ひぐっ...ぐずっ...」
「あぁ、リーナ...大丈夫だよ...君は悪くない。」
『いや、お前も証言するんかい』と思わず心の中で突っ込んでしまった。というか予想通りの証言(虚言)とはいえ、なんという名演技。シアはいつも通り腹を抱えて笑っている。
ちなみに嘘をつくのは良くないことで、こういう証言をする時には『神に誓って』というフレーズを使いがちだ。これは〈真実の女神〉のゲーム内において重要な設定の一つであり、このフレーズを言ってなお嘘をついていた時に神様から神紋を伝って人権が失われると言うものだが、まだ私たちの年齢ではお遊びで使ってしまう人も多いため、神紋も与えられて無ければ、そのフレーズを口にすることに意味は無い。
なお原作では最終場面にて、レイナがこれに喉を焼かれる描写が流れる。
話を戻して、とりあえずこいつらの怒りの矛先をもっと私に向けさせるべく、もっと私を嫌いになって、私をいじめやすくさせるためにここで引き下がらずに反抗する。
「目撃証言が証拠になるとでも?そもそも私は昨日ゲイルにしか聞こえない程度の小さな声でしか話してないのです。人の話も聞かずに何がわかったのでしょうか。」
これは正直無理のある反論だ。実際のところ、読唇術やこの世界ならではの風魔法で話の内容は聴き取れたと言えばそれで終わりなのだ。でも実際昨日あの現場に居たのは私とゲイルだけ。なので何も知らないけどただただ有利に話を持っていきたいヒロインズは感情の昂りで何も気づくことなくこの話に乗っかってしまう事だろう。
「し、しかしゲイルは脅迫してないと言っている!」
ほら。にしても...第一王子ライル様よ、その言い訳は流石に無いですよ...この国、将来大丈夫かな?
「そんなの犯人が『私は犯罪を犯してません』と言っていることと同じでは?」
「そ、それはそうだが...そうだ!彼は騎士団長の息子であり彼自身も騎士団に所属している!誠実な彼が嘘などつくはずがない!」
無理がある言い訳。発言する第一王子は仲間を思う言葉に熱がこもるが、話のペースは完全に私が主導権を握っている。シアも『お〜』という顔をしている。
ちなみに私は女神様。なんでも知っている。勿論この国の歴史も。
「ではあなた方に問題です。今から120年前のS:3112年、第60代リングイング王国国王は一体誰に暗殺されたのでしょうか。」
「ぐっ..騎士.団長..レオン...ハルト...」
握り拳を力いっぱい握り締めながら第一王子ライルは顔をうつ伏せる。
「どうやら騎士団が必ず100%信用出来るものでは無いという事ですね。しかも王家にとって。」
「...」
どうやら決着がついたようです。
いやースッキリよ。本当にスッキリ。まさか自分達が敗北するなどと思ってもいなかったのでしょうね。リーナはわかりやすいほどにイライラとした顔をこちらに向けて爪を噛んでいる。それはもう何時でも手元のハンカチをぎりぎりとかみ締めそうな程に。
この異様な空気に休み時間中の教室が静まり返る。
するとさっきまで笑ったり一人で何かに納得していたシアが座っていた机の上から下りてヒロインズの前に立った。
そしていつもののほほんとしたり、人をいじって楽しむ意地の悪そうな顔ではなく真剣で、上司が部下を叱る時のような厳しい表情を見せた。
「さて、理解しましたでしょうか、貴方がたは根拠も確たる証拠も無いのに一人の女性の未来を踏みにじるに至る行為をしました。事実がどうであるかは分かりかねますが、事実あなたにはそういう悪評が広まってしまっている。このようなことが国政であっては断じてならない...私が何が言いたいか、分かりますね?」
シアも王女らしい所があるじゃないですか!
つまりシアは『ソルニック王国は、お前らのようなのが今後のリングイング王国を背負っていく事に不安を感じている。場合にやっては縁も切ってやる』という事を言いたいのだ。勿論超大国のソルニック王国王女の言葉を無下に出来るものなどこの場には誰もいないのだが...
ここでもまたゲイル君は上位の存在にギャフンと言わされてしまったわけだ。
「何よ!大体あんた誰よ!急に関係ない所からくびをつっこむんじゃないわよ!」
シアが大国ソルニックの王女とも知らないリーナは無礼にもシアに暴言で怒鳴り散らかす。が、それを攻略対象達は必死に止める。
ライル「リーナ!駄目だ!大人しく彼女に従うんだ!」
リーナ「なっなんで止めるの!私はあなた達が心配で!」
ライル「相変わらず優しいな、リーナは...でも彼女は世界一の大国の王女様だ。私達が歯向かうことは出来ないんだ。」
リーナ「え?...なによそれ!私は聖───」
ザック「さあ、行きましょうリーナ。ゲイルも。」
ゲイル「チッ...」
コレル「フンッ...」
こうしてクラスメイト達が見守る中、大恥をかいたヒロインズは逃げるように教室から出ていったのであった。
「助かりました、シア。」
「なんのなんの〜!むしろ美味しい所だけ持って行っちゃってごめんね〜。」
シアは再び私の机の上に腰を下ろした。
「いえ、本当に助かりました。」
今回ばかりはシアに助けられたと思った。やむを得ない時には神術で光魔法とか言って証拠映像を見せつけようとも考えたのだけど、それは最後の手段。神の力は使わなければ使わないほどいい。
「今ので思い出したのですけど、そういえばシアって王女でしたわね。」
「確かにそうね...」
「何その私は王女には見えない的な発言は!?」
シアはブーと不貞腐れたような表情を見せる。
「ちなみにシアは自分のことを王女らしく振舞えてると思ってるとおいでで?」
「これっぽっちも。」
「即答なのね...」
クラスの間で笑いが広がる。言葉が貴族にしては荒いけど、人望が厚い所をみるとやはりシアは王女様なんだなって改めて実感した。
っていうか、思ったんだけど私も女神っぽいこと何一つしてなくない?
まぁ実際のところ女神っぽい事をしない事に越したことはないんだけどね〜。
と、シーナは静かに心の中で反省しないのであった。