(5話) 有望すぎる一年生
「...会長...これは...」
「ああ。あいつは私より強いな。」
「会長よりですか!?」
私は高等部三位が初心者に決闘を申し込んだという話を聞いたのでその決闘を見に来た。基本上位者は自分から決闘を申し込まない。何故なら相手から勝手に申し込んでくるからだ。ポイントが少なくてもワンチャンスの一攫千金では無いが、それを狙って戦いを挑んでくるやつは後を絶たない。そして強者は戦えばどちらが勝つかなど見ればわかるので例え順位が一位しか変わらなくても負ける戦いはしに行かない。
この一ヶ月西条鏡花の試合を何度か見てきたが、実際彼女は勝てる相手にしか勝負は受けていない。それが正しい選択。そしてそれは四位の伊達舞冬も同じだった。
しかし今回、生徒会長である私、足利京子と副会長の桐生航太の次に強く、私たちと戦っても長期戦になるであろう二人が、三秒も経たないうちに、しかもノーマルスーツに負けたのだ。
私が敵う相手じゃないだろう。西条鏡花との試合は確かに凄かった。あんなに手際の良い鏡花用の捌き方のような戦いを見せられては彼女が真の強者であると認めざるを得ない。そして次の伊達舞冬との試合。あれも凄かった...
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舞冬は私に拳銃を向けて決闘を申し込んだ。
「舞冬...?何を!?」
大輝は顔をふっと上げて舞冬を見る。そして、あの圧倒的な試合を前にして何を言っているんだと、そう言いたいのが表情と震える声を聞けば伝わってくる。
「さっきの事が本当なら、私に勝って見せて。」
舞冬はそういうと制服の中に来ていた青いボディスーツをさらけ出した。そして水色に輝く立体的な菱形の反重力石の鍵を胸元にはめ込み、HWAを展開した。
彼女のスーツは鏡花のよりも少し丸みを帯びたスーツで、背中の羽はそれぞれ用途に合わせた銃になっているようだった。
それを見て観客が再び湧く。
審判は一度止めに入るが、私が「いいよ。」と言うと一つため息をついて試合を開始させた。私も再びスーツを纏った。
「私が勝ったら、鏡花のポイントを鏡花に返して。」
そう言うと、さっきまで正面にいた舞冬の姿が消えた。なるほどね、彼女はスナイパーな訳だ。でも神の耳をなめちゃいけない。
空中から撃たれた狙撃銃の弾丸を私は音で判断して透明な弾をナイフで弾き返した。
そのまま弾き返した弾丸は彼女の額のプロテクターに当たって、命の危険を察知したHWAは解除されて舞冬が空から落ちてくる。
HWAの解除は額かコメカミ、喉、肩甲骨の間、心臓に強いダメージを受けると作動する。要するに本当の戦場なら即死する所に当たればアウトというわけだ。
私は装甲を解除して落ちてくる舞冬をお姫様抱っこで受け止めて顔を青くしている大輝君の元に歩いていく。
観客は上位ランカーが尽く敗れたことに唖然としていた。レイナとリーナもいつも通り頭を抱えていた。
「女の子は男の子が守ってあげなくちゃならないんだ。わかったかい?主人公君。」
私は『落ちてくる女の子を女の子の私が受け止めてどうするんだね、』という意味の込めた言葉を主人公君にかけて、鏡花が担がれていない方の肩に舞冬を乗せる。
「き...君は一体...」
「はいはいそんなことはどうでもいいじゃないか。今は大事な女の子を保健室に連れていくことが君の役目だ。さぁ行きたまえ!」
私は未だ唖然とした大輝の背中を押して自分の控え室に戻る。
『いや〜、早速三位に浮上しちゃったな〜。』
私は腕を上げて大きく伸びながらスタジアムを後にした。
スタジアムはまだ静寂に包まれていた。
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職員室の前のランクモニターには既に私の順位が載っていた。
一位 三年A組 足利京子840p →stay
二位 二年B組 桐生航太750p →stay
三位 一年A組 椎名希望675p ↑370up
すぐに校長室に呼ばれ、私は静かに校長室へと向かった。職員室の前を通ったのは校長室に呼ばれたからであって、ランキングの確認では無かった。恐らく前に私が「二人でお話を」と言った時の話をこの機会に便乗したのだろう。確かにこれなら校長とふたりになっても怪しまれない。
案内人さんが校長室の前で立っており、私に気がつくと校長室のドアを開けてくれた。
「失礼します。」
「おお、来たか。じゃあ座ってくれ。」
私は静かに校長の前で着席した。案内人さんはお茶を入れるとすぐに部屋から出ていった。すると椎名校長は「さてと、」と、話を始める。
「まずは今回、随分凄いことをしたね。見てたけど見込み通り、君は本当にずば抜けてる。初めてのHWAをあそこまで完璧に使いこなすとは思わなかったよ。」
「恐縮です。」
まずは校長は建前の話をしてくれた。まあ、本題は大体後だからね。
「だから君用の個人機を早急に完成させて今ここに鍵がある。」
まだ昨日の話から一日経って無いでしょうが。まあ早く専用機を、拝められるのはありがたいことだけどね。
「これだ。」
校長は黒い15cm四方の箱を私の前に置いた。
「開けても?」
「もちろん。」
私は箱を開けると、綿のようなものに包まれた黄色に輝く腕輪サイズの輪の形をした反重力石鍵が入っていた。これは偶然です。決して私と母様の象徴である神輪をかたどるよう洗脳したわけでなく、本当にたまたまです。いや、母様が何かやってる可能性もあるけど...
「そしてこれがスーツだ。」
袋に入ったスーツを差し出される。スーツは、肌触りのいい真っ白な物で、勿論鍵が胸元にしっかりとハマるようになっていて、その輪を中心に機械的な黄色い線が伸びていくようなデザイン。
とても神秘的なデザイン。女神の私に相応しいね。いやぁ〜、想像していた100倍もいいものを貰ってしまった。
「早速着てみないかい?」
「いいのですか!?」
私は普段のクールキャラでさえ忘れてしまうほどに浮かれていた。それほど自分専用のものが嬉しかったのだ。
私は近くのカーテンを閉めて白のボディスーツを着る。借り物よりも全然しっくりくる。本当にジャストサイズだ。まあそりゃ測定したから当たり前なのだけどね。
とりあえず私はカーテンを開けて校長の前で輪を胸元にカチッとはめた。
すると舞冬や鏡花のよりもエアロが多く、白地に黄色の装甲が私の体を包み、大きくて立派な羽のような物が背中を中心に円状に広がるよう展開された。
「おぉ、美しい...似合っておるな。」
「おぉ...」
私は鏡を見て、『なんか神の私に似てない?』なんて思った。つまりとても完璧に近いということ。
私は鏡をじーっと見つめて満足したところで鍵を外して装甲を解除した。
今思ったけど解除されたあとの装甲や装甲を纏う時ってどうやってるんだろ、私たちの時代なら質量保存の法則的に考えておかしすぎるんだけど...考えるだけ無駄か。
「次の試合からは是非その機体で戦ってみてほしい。楽しみにしてるぞ、戦女神よ。」
「いつの間にそんな呼び名を...恥ずかしいです。」
私は女神ではあるが戦女神では無い。戦女神は戦女神で別にいる。というか、戦女神の幼馴染もいる。元気にしてるかな?もしかして私が戦いの場にいるって知って見ているかな?
「まあ満足してもらったようで何より。それじゃあ本題に入ろう。」
椎名校長は緩めていた表情をキッと引き締めた。私はまず何から話してどう話を繋げようか考えた。そして私は最初に、ある人の名前を出すことに決めた。
「校長先生、先生は─────...」
「っ!?その名前をどこで!?」
校長は私から出た名前を聞いてそれはそれはすごい驚きを見せた。
「実は...」
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「失礼しました。」
私は部屋を出て案内人さんに泣いてる校長先生について聞かれたが、私が先生の亡き親戚の子であると説明すると素直に頷いてくれた。まあ、苗字も校長と同じ椎名だから説得力が増すってものだよ。
廊下を歩いて再び職員室の横を通る。私の制服の内ポケットには新しい個人機の鍵が入っている。『帰ったらもう一回着てみようっかな〜』私はウキウキとしながら教室に向かうが、「もし、」と後ろから声をかけられた。
そこには黒くて真っ直ぐな黒髪ロングのお姉さん。目付きがキリッとしてていかにもな強者感が漂っている。その後ろには天パのヘコヘコしてる男子生徒。何用かな?
「なんですか?」
私はしっかりボクっ娘設定を忘れない。
「君が椎名希望君だな。」
「あ、はい。」
彼女はフッと笑みを浮かべた。
「私と決闘をしてみないか?」
「...はい?」
職員室から見てた先生はそれを聞いて大慌だった。