(3話) 物語の主人公
私達は今、自分たちのクラスの廊下に並んでいる。ホームルームはもう始まっている時間なので廊下には誰もいないし、私達の姿はまだ見られていない。
さてさて、超絶美少女が同時に三人も入ったら皆どんな顔をするのかな!?
「皆さん。突然ですが転入生を三人、紹介します!」
ドアの向こうから優しいお姉さん系の先生がハイテンションでクラスの生徒に転校生の話をする。
「男子諸君喜びなさい!!三人共超超超超ちょーーー美少女よ!!しかも皆ボッキュッボンよぉお!!!!!」
ォォォオオオ!!!!!
クラスの男子達が歓喜の声を上げる。
「ちょっと先生大袈裟すぎるのですわ!?」
「レイナさん、喋り方気をつけてください!」
「はいで...はい。」
リーナとレイナこしょこしょと話をしている。私は先生がドアに近づくのを感じて二人に「もう来るわ。」と注意しておく。すると途端に緊張したのか、二人の顔が固まった。
「三人共!おいで!」
すんごい綺麗な笑顔で私達は呼ばれた。一番最初にリーナが入る。オーー!!という歓声が聞こえる。そしてレイナも続いて入り、同じようにオーー!!と男子達の声が漏れる。最後に私顔が見えぬよう俯きながら教室に入って、俯きながらドアを閉め、生徒の正面にたった時にスっと顔を上げる。
...
『私の時は何も無いんかい!!』って、突っ込もうとも思ったけど、男子は呆然とし、女子は顔を赤く染めた。
私は教室を見渡すが、主人公格の人は見当たらない。まあそれもそのはず。こういう学園バトル系主人公は見た目に限っては案外目立たないキャラの事が多い。つまり発見する方法は目立つヒロインに囲まれている奴。もしくは銀髪ショートカットの無口で無表情で言葉足らずな幼馴染ヒロインを持っている奴だ。
見渡せば幼馴染ヒロインが確かにいる。絶対この子って分かるくらい特徴がある。そして大体ファーストヒロインは自己評価が高くて、でもお姉ちゃんがいて姉ちゃんには逆らえない的なやつ。
なんとなく金髪ロングのそれっぽい奴がいるけど、その子がファーストヒロインなのかな?まだ判断はつかない。
「さーて!自己紹介をお願いします!」
先生の一声でみんなの視線がスっと私から逸れた。ふへへ、もっと見蕩れても良いんだぜ?
最初はリーナから。リーナは歯をカチカチさせながら挨拶を始めた。
「はっははは初めまして!諏訪梨衣奈と申します!!よ、よ、よろしくお願いします!!」
ビシッと腰を90度に折って頭を下げる。クラス内で大きな拍手がおきる。リーナは一気に顔を上げて、一安心したのか、ホッと胸を撫で下ろす動作をした。
ちなみにリーナが顔を上げた時に正面にいた男の子が、恐らくリーナの髪の毛がブワッと動いたせいでコンディショナーの香りが舞ったのだろうか、鼻息を荒くしながら顔を軽く赤く染めていた。
なるほど、匂いフェチ...
隣に座る女の子は少し引いている。
次にレイナ。さて、あっちの世界では別におかしくは無い、"ですわ"口調を治せるかな?
実はレイナはこっちの世界でこの口調だと明らかな変人なので、ずっと治すよう意識させていた。あと勿論リーナの耳も人間のものにしている。
「勇陽玲奈ですw...よろしくお願いし.ます...。」
ゆっくりと頭を下げてゆっくりと頭をあげる。名前を言った時は、"ですわ"の、"わ"のwくらいまで出てたけど、よく頑張ったと思う。二回目はその"ですわ"口調定型文みたいな所に入る前に一回止まったので間違わずに言えたみたい。そのうち慣れていこうね。
レイナの後も大きな拍手がクラス中に鳴り響く。そして私の番。皆の視線が私に集まる。
さっきみたいな静けさだけは勘弁して欲しい。ん〜...馴染みやすいキャラを演じてみようかな...
ってか、この世界では私は男だったんだから、この世界の私ってことで男口調、と言うより前世の口調でどうだろうか!!
レイナも言葉で苦労してるみたいだし、私も何かペナルティあった方がいいかも...よし!男女共に仲良くなれる系のキャラクターになりきろう。
私はすぅーっと大きく息を吸った。
「やぁ、僕は椎名希望。気軽に下の名前で希望って呼んでくれると嬉しいなぁ。皆これからよろしく!」
私は眩しい笑顔を作って片手を顔の横に上げて「あははっ」っと、軽く手を振った。
「ブハッ..!?」
「グフッ..!?」
「!?」
私の挨拶にリーナとレイナは思いっきり吹いた。先生は『さっきまでと全然違うじゃない!?』と言った顔をして驚いてる。
女子は顔を真っ赤にして、男子は鼻息を荒くしながら拍手をしてくれた。すぐに落ち着きを取り戻した先生は、
「じゃあ三人とも席についてね〜!あとクラスの皆はくれぐれも夜のおかずにしないように!!」
なんてこと言うねん先生!!あ、そっか、性的規制がかなり緩んだんだっけ。じゃあ許され...る訳が無いわーっ!!
私は苦笑いしながら一番後ろの窓際の席についたのでした。
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「希望君ってもう個人機作ってもらってるって本当!?」
「オールラウンダーなんて凄いんだね!!」
「希望君!一緒に写真撮って!!」
「あははっ...」
私は静かにクラスの女子生徒の玩具にされた。このことを考えてなかった...あと、元男だったんだから別に僕っ子ってなんのペナルティにもならないよね。
少し離れた男子達の話を聞いてみると、
『ボクっ娘爆乳...最高かよ!俺もう死ねるわ!!』
『おい!まだ死ぬな!!顔なんかヤベーぞあれ!人間離れしてるって!!』
『ヤバい、本当に俺夜耐えきれないかも...』
『無理な話だよな。学ラン着てあの膨らみだもんな...見るだけでもう一人の俺が元気になっちまうよ。』
いかにも男子って感じの話だなぁ〜。私は高校の時あまり女生徒に興味がなかった...というより三次元に興味がなかったのであんな会話はしなかったけど、言われる側になると中々キモイな。
そんな卑猥な話をする男子達の奥。教卓の目の前には席に着いた黒髪の男子一人と、その机の前に立つ、幼馴染ヒロインとファーストヒロインさんが私やレイナ、リーナの方をチラチラ見ながらコソコソと話をしていた。
よくあるよね〜こういうシーン。怪しい転入生と、秘密を探ろうと私達に近づく作戦を立てるヒロイン達。あとやっぱり主人公君は目立たない系男子だったね。さて、彼はどんなタイプの主人公なのかな?
私はニヤニヤとした笑みを一瞬浮かべたあと、再び女子達のおもちゃにされたのであった。
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「ねぇ大輝、あの三人、怪しいと思わない?」
「まぁ確かに三人同時に個人機所有予定者が来るのは怪しいけど、この学校は結構な頻度で転入生が来るんだからべつに変では無いんじゃない?」
「そうなんだけど!そうじゃなくて!」
「じゃあどういう事?」
「鏡花はあの可愛い三人に大輝が取られたくないだけ。それを心配してるだけ。」
「ちょっ!?舞冬!?そん───」
鏡花と言う金髪ロングの少女は顔を真っ赤にしながら真冬と呼ばれる少女の言葉を必死に否定する。
「べつに新しい人が入ったからって俺は訓練グループから二人を追い出したりしないって!」
「...大輝もわかってない。」
「え?どゆこと?」
大輝はどうやら学園バトル系定番の鈍感君らしい。鏡花の恋に全く気づいてないのは見た瞬間にわかる。
「とにかく怪しいわ!私と舞冬が監視するから、あなたはあなたの個人機の手がかりを探しなさい!!」
「鏡花の言う通り。大輝は大人しく落し物を探すべし。」
「ありがとう二人とも。いい仲間ができて俺は本当に幸せ者だな!!」
「「っ!?」」
大輝の眩しい笑顔に鏡花だけでなく舞冬まで顔を真っ赤にして大輝から視線を外す。そして二人はボソッとつぶやく。
「これだから大輝は...」
「大輝のバカ...」
「え?なんて?」
「「なんでも無い」わよ!」
あまりにも鈍感な大輝に二人は叫んで顔を赤くしながら大輝の元を去った。大輝は未だに「...何だったんだ?」と何も理解してない。
それをこっそり見てたシーナは、『...鈍感主人公とヒロインズのやり取りを外から見るとこんなに楽しいとは...くくくっ...いや〜、ヒロインズも大変ですな〜。あんな鈍感男を好きになってしまうなんて。いつヒロインズのアタックがヒートアップしてくるのか楽しみですな〜。』と机に突っ伏しながら一人でニヤニヤと笑みをこぼすのであった。