(15.5話) 学院卒業エンディング
「皆さん。卒業おめでとうございます。御学友の皆様と顔を合わせ、気概なく会話を楽しめるのは恐らく今日で最後になることでしょう。今日が終わり、明日目を覚ませば皆様はもう独立した一人の貴族、または大人になります。今日という学生最後の時を皆様と一緒に楽しみましょう。」
私は手元にあったワイングラスを持った。
「女神とこの素晴らしき最後の学院生活に祝福を!」
『女神とこの素晴らしき最後の学院生活に祝福を!』
私がグラスを上に掲げてそういうと会場にいる同級生達もグラスを上げて私の言葉に続く。
今日はプリュームインターナショナルアカデミー高等部の卒業式並びに卒業パーティである。私は生徒会長として食事前の軽い挨拶をしていつものメンバーの元に戻った。
服装は皆制服。貴族服なんて今後いくらでも着る機会があるわけで、学生として最後の時間くらいは皆制服を着て出席しようというこの学院の伝統なのだ。
「あれからもう三年ですのね。」
レイナが言う"あれ"と言えば"あれ"しかない。セレナは苦笑いをしながらワインを口にした。
「あれは、もう恥ずかしくて思い出したくもありません...レイナさんや周りの方々には迷惑をかけました...」
「もう気にしてないのですわ。だからセレナも謝る必要は無くてよ。」
レイナは相変わらずの口調だ。意識しても直らないらしい。心の声はシアみたいに雑な口調なのにね。
「そういえばシーナはどうするんだ?」
「そうなんですよね。実は決めてないのです。」
私は貴族でなければ平民でもなく、卒業後どうするかは全く決めていなかった。今思っているのは神殿で働くということ。
私は今18歳。この国に来て五年が経った。身体は母様と同じくらい立派な身体になった。まだ母様のような大人な雰囲気は纏えて無いけれど、包容力ある女神様の伝統は守られた。この国に来た頃は身体も見事にスレンダーだったのにたったの五年で随分成長したものだ。あと実はまだ私の耳は伸びていない。何が言いたいかと言うとまだ女の子の日は訪れていないのだ。母様曰く、神が大人になるまでは人間と違いかなりかかるそうだ。見た目ばかり成長しても面白くないよね。元男なのだから女の子のあんなことそんな事が気になるのだ。
あと、人間族魔族共存宣言からかなり時間が経ったけど、それと言った出来事は起きていない。もう私がいる意味がないってことなのかな?けれどもう少し居たいというのも確かだ。母様には満足したら適当に帰ってきて下界管理省文明調査委員をとっとと辞めればいいのよなんて言われているので当分残るつもりだけどね。
「もしかしてシーナは(神界に)帰るつもりですの!?」
酔っ払ったレイナは焦るようにワイングラスをテーブルに置いて私の肩を両手でガシッと掴んでグワングワン振り回す。酔うからやめて〜...
「当分は残りますよ。」
「良かったですわ〜!!うぁ〜シーナがいなくなったら私どうしよ──」
酔うと涙脆くなるタイプね。レイナは私にギュッと抱きついて号泣する。周りを見ても遠いところに住んでいる友人とかに抱きついて泣いている人がそれなりに見受けられる。
中には婚約者がいない者同士で結婚のプロポーズをしている者や、婚約の告白をしている人もチラホラと見えた。
私は予め近寄り難い雰囲気を出している。だから来る人はいない。レイナやリーナ、シアが一緒にいるものだから相当な度胸が無いとここに足を運ぼうとは思えない。
すると未婚約の女子生徒たちに囲まれたセルリルが何とか抜け出して私達のところまで早歩きで戻ってきた。
「モテる男は大変ですね。」
「冗談はおやめ下さい...大体シーナ姉様だってこの御三方がいなければ俺よりも大変な目にあっていたことでしょう?」
「否定しないわ。」
少し落ち着いたセルリルは使用人が持ってきたワイングラスを手に取って口に入れた。
「やはり人間界のお酒は美味ですね。」
「「「!?」」」
顔の表情を緩めてそういったセルリルに三人は声には出さずに驚きの表情を見せた。
「皆さんどうなさいました?」
セルリルはキョトンとした表情を浮かべる。三人はセルリルを失礼と承知しながらも指で指し、「あ...あ、あ...」と口をあんぐりと開けている。
「あら、言ってませんでしたっけ?」
「あ〜そういう事ですか。」
ハハハ...と、セルリルは納得した顔で手を頭の後ろをかく。そしてまだまだ呆気に取られた顔をしている三人に言った。
「俺、実はシーナ姉様の元に遣える天使なんです。」
「き...気が付きませんでしたわ...」
「確かにシーナさんの従兄弟という説明の時点で気がつけたはずなのに...」
「シーナ...まだ隠してたことあったの?」
なぜか三人の視線は私に集まる。
「いえ、ただ忘れていただけです。本当です。本当なんです。信じ───」
私がそう言って三人から逃げるようにして一歩一歩後ずさっていると後ろから「シーナさん」と声が聞こえて私はビクッと方をふるわせた。するとそこにはリオが顔を赤くして立っていた。
一瞬いい所で来てくれたと思ったけど、リオのこの顔は宜しくないと私の心が叫んでいる。絶対に面倒なことになるだろうと言っている。
「シーナさん!!僕と婚約してください!!」
なかなか男になったじゃん...って言いたいところだけど、この恋に私は答えることが出来ない。なんせ神ですから...ってかリオって私が神ってわかってて言ってるよね?何?馬鹿なの?
「あなたは無理って言われるとわかっているはずですが...」
「はい!分かりました!!それでは!!」
「え?ちょ...」
リオはなぜかそのまま私の元から去ってしまった。なんだったんだ?
私はその事に呆然としてると後ろから肩を組まれた。私の肩には完全に酔っ払って顔を真っ赤にしたレイナが酒臭い声で...
「シーナ〜...飲んでいるのでしてぇ!?私の酒が飲めないって言うんですの!?」
と、絡み酒。
「あちゃ〜、レイナには今後酒制限だな。」
とシアが言い、
「この酒、全然酔えませんね。ワインってこんなに弱かったですか?」
と、平然とワインをボトルで飲んでいるリーナ。
「何本か持って帰って売りましょう...よいしょ...」
と、ワインボトルを影で何本も異空間収納に隠すセルリル。
『私の学院生活は、こんな変人たちと共に歩んできたんですね...』
と、苦笑いでこのプリュームインターナショナルアカデミーを卒業するのであった。
これにてシーナの学院生活は幕を閉じます。これからは卒業後の話になります。