(15話) ちゃんと話してくれるよね? エピローグ
Thanks! 10000pv 15000pv!
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。
私の作品を読んでくださっている皆様がこういう報告をしてくださる事で、改めて作品を読んでいただける喜びというものを感じております。
それと同時にもっと見直しをしっかりしなければと思います。
ご報告感謝いたします。これからも本作品をよろしくお願いします。
では本編に入ります。
「どういう訳かな?ちゃんと話してくれるよね〜。」
「ひっ!?」
ニコニコして、そして何か物凄い圧のようなものを私にぶつけながらシアは私に一歩一歩近づいてくる。
「んっふふ〜ん。シーナちゃ〜ん」
「え、あ!...えっとぉ...そのぉ...そうですね〜...」
シア、近い近い...
正直こんなのは知らぬ存ぜぬでなんとかなるのだけど、いつも一緒にいたシアに黙っておくのも悪い気がしたのだ。だから私はあえてシアの圧に押されておく。
そもそもこうなったのは私の詰めが甘かったせいでして...
私はクライマックスの物語に完全に熱中していたせいでシアの存在を忘れていた。
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「ォォオオオオオ!!!!!」
ヒュッ...ヒュヒュヒュッ...ヒュッ...
私は日本刀のような剣で斬りかかってきたトールの剣筋を見切り、そのまま全部避けていた。空を切るトールの刀のヒュッという音が戦っている私たちを中心に響く。
「もう少し工夫しないのかしら?」
ドスッ
「グアッ...」
私は刀を上に振り上げたトールの腹を優しく押してあげる。そもそも刀を上に振り上げたら、大して剣すら習ってない人の剣なのだから次の動きが読めちゃうのは当たり前でしょ。日本刀って最初は鞘に入れたまま戦いに入って切る一瞬だけ抜いてそのまましまうっていうイメージなのだけど、そこは流派によって違うのかな?
「ウォォォオオオ!!」
今度は魔法を使ってきた。前回と違って少しは学習したようで、レーザーを上手く私の動きにくいような位置に固定している。少しでも動いたら多分切れる。
とりあえず、「なっ!?」と、言っておく。
トールは「トドメだーーー!!!!!」と左手で右手を支えながら、右手に強い光を溜める。彼の右腕の周りにイナズマのような者がパリリバリリッと渦巻いているので前に見せてくれたレールガンでも打ってくるのだろう。
でもまだ早いんだよな〜...
と、思ったら私にも悪役ムーブチャンスが巡ってきた。トールが守った人間達の子供が隠れた場所から出てきて「頑張れ!!!!!お兄ちゃんー!!」と応援し始めたのだ。
私はニヤッとした笑みを浮かべて体を固定されながらも魔法を遠隔操作し、子供達の方に向ける。
「正義の味方は楽しいかしら?」
「!?」
それに気がついたトールは「マズイっ!?」と叫んだ後、子供たちを私の攻撃から守るために子供たちの元へと駆け出した。しかし魔法は既に完成されて放たれている。正直トールでは間に合わないだろう。
「子供達!!逃げるんだー!!」
お約束の台詞。勿論その台詞がアニメで流れたら基本間に合わない。
ただ間に合わないのは声をかけた本人だけ。その後は、そのまま倒されて怒り狂った本人が覚醒するか...
ドガーンッ...
「あぁ...そんな...」
膝から崩れ落ちるトール。
「ふふっ...」
思わずストーリー通りに行きすぎて笑みをこぼす私。
爆発による粉煙が舞う。そして粉煙が薄れていき...
「!?」
トールはその光景に言葉も出ず、ただただ目を疑った。なんせ煙が消え、本来子供達が居たところには...
「(一体...自らが悪役になるなんて...)どういうつもりですか、殿下。」
「魔族の...お兄ちゃん?」「どうして助けてくれたの?」「ありがとう...?」
「それはね、僕達が人間と共に生きていけるようにする為さ。」
子供達に障壁を張り、その前に自分が立って二枚目の障壁を張って立っているカルラルトランテの姿があった。勿論魔族の姿で。
「くっ...(後で面倒なお説教が始まりそうだぜ...)」
私は思わず終わった後にあるであろうラルの説教に顔を顰めた。でもカルラルトランテは私の演技を手伝ってくれるらしく、トールに一言。
「おい、そこ人間。お前なら殺れる。さあ。」
「...おう!!!!!」
全く、ラルは自分より身分が低い者相手になった瞬間に口が悪くなるんだから...
トールはラルの言葉に促されて私の正面に向き、立ち上がる。トールの身なりは既にボロボロだ。とても雰囲気がある。
「お前は...どうしても...無理なのか?」
「何がかしら?」
来ました。最後の主人公の『俺と共に来ないか?』というお誘いシーン。成功した所なんて見た事ないけど。
「人間と...魔族の共存...最高じゃないか...」
「それはあなた達にとっての話。私には関係ないわ。」
「そうか...なら...」
トールは地面に突き刺さった日本刀を持ち、引っこ抜く。そして私を力強い目で見つめる。いいね〜、完全に役になりきってるね。役者の才能あるかもよ?...ん?何?いいムードぶち壊してんじゃねー?すいませんね、こちとら女神なもんで。
トールは私に向かって走り出した。日本刀に雷の魔法をかけている。彼の日本刀が白くバリバリと光っていた。そしてトールは私に大量の水を浴びさせ地面に落とした。
「ウォォォオオオ!!!!!これでぇえ!!終わりだー!!!!!」
「くっ!?」
ザシュッ...バチンッ
彼の刀が私の心臓を貫き、そのまま雨に濡れた私は彼の雷によって感電した。
パタリ...
「見.事..です...」
シューッ...
トドメを刺された私は倒れたまま、塵のように空気中に舞って消えていく。魔族や人間達が協力して戦っていた私の分身体もすっと消える。そしてそのまま彼らは膝から地面に崩れ落ちた。
...
一瞬町中に沈黙が流れた。
そしてスーッと息を大きく吸う音が聞こえてトールが右手を空に突き出した。
「俺たちは...勝ったぞぉぉおおおお!!!!!」
ウォォォオオオ!!!!!
村全体が湧いた。魔族人間関係なく抱きしめ合い、涙を流しあった。これで私のミッションは成功。喜び合う村をよそ目に一度報告のために神界に向かって白い10枚の翼をはためかせた。
その日、その村には数え切れないほどの光の羽が舞ったという。この日の出来事が後に何千年も神の祝福祭として、そして世界唯一の魔族人間共存区域として国家が独立し、発展を遂げていくのだそうだ。将来国として独立するこの村の英雄譚の主人公の名はトール=ミカヅキといったそうだ。
「良かったですね、物語通りに進んで。」
「本当に助かったわ。感謝します、カルラルトランテ。」
私達は遠い空から喜び溢れた村の様子を眺めていた。
「にしても久しぶりに羽を使ったからたくさん抜けたわね。」
「僕もです。でもその羽が奴らは勝手に祝福とか思ってくれるんでいいんじゃないですか?」
「言葉を選びなさい...」
「申し訳ありません殿下。」
「じゃあ行きましょうか。」
「はい。」
私達は空高く高くへと舞い上がったのであった。
ちなみにこの後神界で「王女たるものそんな事して周りの神々が心配して降りてきてでもしたらどうするおつもりですか!?全く!あなたはだいたい───」と、ラルから長〜いお説教をくらったことは秘密である。
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そして今に至る。
「えーっと...あの後魂だけ神様に拾われたのですよ。そして元の姿に戻してあげますと言ってく───」
「へ〜。」
「...」
シアは私の話を完全に信じていないようだ。私の必死の弁明を何一つ聞いてくれない。何か違うって言う確信でもあるのかな?
「私、あなたが女神様なんじゃないのかなって疑っているんだ〜」
ギクッ...
何もしっぽは残してないはずなのだけど...なぜバレた?
「その反応は当たってるっぽいですね。女神様?」
「わ、私が女神だと言う証拠...は?」
私は冷や汗をかきながら引きつった笑顔でシアに問いかけた。
「まずリーナが断罪された時おかしいと思ったのよ。あの場においていきなり父から全ての罪をまとめて断罪なんてありえない。彼らの罪を全て知っていたなら王は予め忠告するはずよ。なのに王位を継ぐとほぼ王本人に確約されていたライル様が全てを知っている王の注意ひとつ無く断罪されるというのがおかしい。それが一つね。そしてあなたは断罪が始まる直前からパーティの終わりまで姿が無かった。そしてその時間の間からパーティ会場に血で染まった羽や触ったら消える光の羽が所々に落ちていた。それが二つ目。そして最後、魔族になったあなたを遠くから見てたけど、死んだ直後、貴女が消えた場所からまるで目で追ってくださいと言わんばかりに空に向かって羽が舞ってたわ。まあもう一箇所からも羽が舞ってたけどそっちは見てなかったわ。」
「う...」
「ともかくリーナの件は何か大きな力が関わっているとみた。パーティの羽の件と今回の羽の件、そして消えた時間帯の完全一致。ついでにあなたの人間離れした美貌と成績の圧倒的な優秀さも加えましょうか...」
確実な証拠は無いとはいえ、確かに変と思えるところは全て私が関わっているとシアは見抜いていた。正直穴だらけの仮説ではあったけど、それなりに的を得てるし、私もシアに隠すつもりは特に無い...と言ったら嘘になるけど、シアになら話してもいいと思ったので素直に認めることにした。
「はぁ...まさかバレるとは思って無かったわ。シア、私はシェイアスエルナよ。確かに女神ですけど、歳はあなた達と変わらない。今まで通り接して欲しいわ。ちなみにリーナ、セレナ、ライル、レイナ、リオ、セルリルは私の正体を知ってるわ。」
それを聞いてシアは「なんだ〜私が初めてじゃないんか〜。」と肩を落とした。
「私が女神だと見抜いたのは貴女が初めてよ、シア。」
「お〜!!なら嬉しいかな。ちなみにお父様に伝え───」
「私の許可無しに話そうとしたら話す前に自動的に首が飛ぶわ。」
「...なんでもありません...」
シアは身震いをして苦笑いで私を見た。
「女の子の秘密ってレベルじゃないね...」
「そうね。」
シアの部屋の窓から夕陽が刺さり、私の飲む紅茶のカップに赤く反射する。これ以上特に話すこともなかったので、話題つなぎに入学してからの起こった本当の話をすることにした。
シアは私の話す内容一つ一つに大きなリアクションを取って、話すのが楽しかった。セレナがリーナであったと知った時はそれはそれは面白い顔をしていた。
これで私の秘密を共有できる人がもう一人増えた。恐らくあと十数人は私の秘密を知る人が現れることだろう。でも心置き無く話ができる人が増えるのはいいなと、私はシアと話をしながらそう思えたのであった。
ま、増えすぎるのは良くないんだけどね。
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同時刻、後にミカヅキ公国となる村で、お祭り騒ぎの中一名の魔族が村の端の路地裏で膝を抱えて落ち込んでいた。
「...まさか...姫様が...あぁ...魔王様...」
元トールのファーストヒロインことセイルである。彼女はシーナの裏切りで魔王様の復活を大きく喜んだ。しかし彼女の野望は叶わなかった。後一歩というところで絶望の縁に落とされたその悲しみは計り知れないものであった。
そんな彼女の元に足音が響く。
「何者ッ!?」
セイルはずっと立ち上がって足音のする方向から一歩身を引いた。
「うぐっ!?ーー!ーーーーー!?ーーー!」
すると知らないうちに後ろから抱え込まれた。口を抑えられて声にならない。すると最初の足音のした方からもうひとつの足音が聞こえ、その足音の正体が私の前に姿を現す。
黒いロングコートに黒のフードを被った男が私の顔を凝視する。なぜか顔は陰に隠れて見えない。仮面でも被っているのだろうか。その男はセイルに話しかけた。
「きーーーみぃぃいはぁあ!!!!!?」
『ヒィッ!?』
突然の奇声にセイルは肩をビクッと震わせる、
「まおおおおおおおう!!を、復活させたいぃんだぁあよねぇぇえええ!?」
セイルは一瞬その男が何を言っているのか分からなかったが、魔王、復活、というような感じの事を聞かれた気がしたのでコクコクと頷いた。
「そぉぉおおおだよねぇぇええぇ!でぇもぉ、君じゃあまだちからがたたたたたたた足りなァァいぃ!!だかかかっからぁ、bbbbbbbbb僕が!力ぁを!あげるよぉおおお!!」
男はそういうと黒いブクブクとしたものをセイルの頭からかけた。そして謎の黒い液体は段々とセイルを包んでいく。
「ーーー!?ーーー!!!!!ーーー!!!!!」
言葉にならない悲鳴が聞こえたあと、たまたまその路地裏を通りかかった人間が気になって声のする道を見てみるが、そこには誰もいなかったのであった。
第三章 俺TUEEEE系主人公編 fin