(3話) エルフの里 ll
僕はイングドレラジールと呼ばれる大樹の中に案内された。なんというか、以前に、リーナから前世の話を聞いた時、「私達ハイエルフになったんですよね。私のいた世界ではそもそも不老不死では無かったんですよ。それにエルフはユグドラシルとか、イグドラシルとか呼ばれる大樹の中で生活してる弓使いの生物なんです。森と共存するエルフ達は皆それはそれは美男美女で〜ああライルの方が全然素敵ですよ!それで金髪碧眼で男女問わず長いサラサラの髪の毛は───」
まずい、説明の後に続く余計な説明まで思い出してしまった。とりあえずそのイグドラシルとかいう名前に似ているなとは思った。やはりこれは世界樹なのだろうか...
僕はエルフの婆さんに連れられてイングドレラジールの最上階に案内された。
「我々は代々ハイエルフ様とお話する時はこの木の最上階、"女神の間"と決まっておるんです。その昔、女神様が世界樹を世界に数箇所お作りになられた時、必ず女神様の足元から、女神様を持ち上げるように急成長をして言ったと言われてまする。」
「はぁ、そうですか。」
女神とこの木の関係を聞きたいところではあるが、今は早急に話を終わらせて帰りたい。
「早く話を済ませたいと言ったところじゃな。」
「ええ。あまり穏やかではありませんから。」
つまりこんな野蛮な種族のところに長居なんてできませんということ。
「お主も見た目以上に言いよりますな。ただなんと言おうと我々は人間を知恵ある生物と認めぬ。そしてそれを詫びる気もありゃせん。」
「それはハイエルフである私に言われてもなのですね。」
「ええ。いくらハイエルフ様といえど里の伝統だけは譲れませぬ。」
うん...とても硬い...頑固な婆さんだ。この手は使いたくないけど、一応、念の為、名前を借させて頂きます..
そう心に決めると『どうぞご自由に〜』という声が頭に響いた。そうだった。忘れてはいけない。僕達だけは忘れてはいけないのだ。彼女はいつも見ているということを。
「それが例え女神、シェイアスエルナ様の名であったとしてもですか?」
僕が女神様の名を出すと、エルフの婆さんはムッという表情をした。
「女神様の血を引き、女神様の使者である我々が女神様のご命令を聞かないはずが無かろうて。お主こそいくらハイエルフ様といえ女神様の名前を出すとは無礼ではなかろうか?」
「いえ、ただあなた方が意見を変える余地はあるということが知りたかっただけだ。」
その言葉を聞いた婆エルフはニヤっと笑って、
「なーに、我々が従うのは神様と天使様のみじゃ、妖精様やハイエルフ様、精霊様は可能な限りは聞くがの。無理なものは無理じゃ。そしてその女神様と天使様はもう3000年はこの国に降り立っておらぬ。残念じゃったな。」
「そうですか。」
『はぁ...』僕は心のかなでそっとため息を吐いた。まあ、女神様が現れても変えないなんて言われたら正直心は折れていたであろう。でも変えられる余地があるならそれでいい。
僕はこのあとも意味の無い対談を続けるのであった。彼女は恐らく何かをしている。僕はそれを待つだけだ。時間稼ぎをする。それが今の僕の役目である。
僕は彼女の言葉を思い出した。「お腹が減ったし自由にこの里を散歩しているわ。」
『お腹が減った...ねぇ...』
僕は彼女が今何をしているのか想像をしながら頑固エルフ婆と話を続けた。すると、イングドレラジールの最上階、つまりは僕達が退団している部屋に一名のエルフが顔を真っ青にして入ってきた。
『...彼女は何をやったんだ...』
僕は心の中でため息を吐くが、同時に心がウキウキしているのを感じたのであった。
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さて、私は今エルフの街を歩いています。
まずスパシア領の被害をもう一度確認しましょうか。
一つ目、ハイエルフを解放しろという名目で領民たちを武力で脅した。
二つ目、脅した領民の家から食料をかっさらって行った。
三つ目、育てた作物や家畜を持ってかれた。
四つ目、神の名を使った。
とりあえずこんなもんでしょうか、さて、これを忠実に再現してやりたい所ですが...どうしましょうか...
私はどれがいちばん効率的に事が進むか考える。
まず家畜と野菜を全部スパシア領に転移させますか。
私は育てているであろう野菜と家畜を全て特定し、目を瞑って神術を発動。恐らく全ての家畜と作物が地面に吸い込まれるように消えた事だろう。
既に里はザワついている。『まだまだ驚くには早いですよーっと』私は大きく息を吸って、叫んだ。
「あなた達に使役される妖精や精霊達が可愛そうです!!早く解放してあげなさい!!じゃないと襲っちゃいますよ!!」
私の叫びは混乱しているエルフ達の耳にしっかり届いたのだろう。男性のエルフ達が「なんだと!」「人間風情が!」「この野蛮な下等生物が何をほざいてやがる!!」「精霊すら使役できないテメーらに何でそんなこと言われなきゃならねーんだよ!」と言いながら一人の女の子に対して大人数で襲ってくる。
「か弱い女の子一人に対して随分な歓迎ですね。有難く受け取ります。」
私はそう言って襲ってくるエルフ達を一名人差し指で服を捕まえてぐるっと回して吹っ飛ばす。さすればみんな巻き込まれて石づくりの家にぶつかって気を失っていく。
「ウォアッ!?」「がぁぁああっ!!」「ウァァアアアっ!?」
ドゴーンズドーンどかーん。
家から見ていた女性や子供のエルフ達はそれを見て「ヒィッ」と、悲鳴をあげてすぐに扉を閉めた。
ところどころ「あなた!あなた!」と駆け寄って気絶した男を揺らす心の強いエルフもいるが、私と目が合うとすぐに家に戻って泣きながら子を強く抱きしめた。
そういえばエルフって言う割には弓矢とか使わないんだね。私はてっきり直接襲ってくる男達に相手をさせて遠くから弓矢で攻撃してくるのかななんて思ってたけど...
おっと、目を瞑って探知神術を使うと女性エルフ達が食料を地下にある食料庫に隠してますね。
ダメですな〜。あなた方の夫達は女神である私を襲って倒されたんです。だから食べ物を全部頂かないと動いた割に合いませんよ。
ほらほら女神様ですよ?早く食べ物を献上しなさいな〜。なんて、すこし駄女神の様な気持ちになりきる。
私は目を瞑って歩きながら一つ一つの家に手向けて食料を転移させていく。すると直ぐに「キャァァアアア!!」「食べ物が!!食べ物が!!」
という女性陣の悲鳴が聞こえてくる。そうだよね。自給自足のエルフ達にとって今ある食べ物が全てだもんね〜。子供達を養うことすら難しくなっちゃうね〜。
さてさて、あなた達の大ピンチを解決するのはエルフの里の長、あの老害エルフ一人にかかってますよ〜。
すると一名物陰から見てたであろう男性エルフがユグドラシルっぽい木に登っていくのが見えた。きっと『下賎な人間が我々の里を荒らして食料を全て奪っていきました!!男達も全員やられました!!』なんて、あの老害エルフにでも報告しに行くのだろう。
「さて、じゃあ行きましょうか。」
私は最後の役目を果たすために、誰一人いない里の商店街の中心で転移をするのであった。
さあ、そろそろクライマックスです。