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新生女神様の人類お忍び物語ツアー  作者: 上野 たびじ。
第一章 悲劇の悪役令嬢救済編
3/60

(2話) 神託、そして攻略対象とヒロインの登場




『人の子よ。私の標す道に従えば自ずと願いは叶う。』


私はレイナの頭の中に声色を変えて...というより女神の姿の時の声に戻して話しかけた。レイナは目を瞑ったまま顔と意識だけを上に向けて心の声で問いかける。


『女神様...ですか?』


『私はシェイアスエルナ、人の子私の標す道に従うべし。』


『シェ...シェイアスエルナ様が...私に...はい。分かりました!』


『以後数多なる苦痛の日々を過ごすことならむ。それは人の子の友人も例外に在らず。』


『え?』


『復讐はすべからず。例え水に濡れ、学書を捨てられ、力に屈されようとも。』


『...はい...』


『如何なることされても大人しく受け入れるべし。報復すべからず。友がされても等しく。』


『...はい...』


レイナは目を瞑ったまま下唇を噛んだ。友達、恐らく私の事だろう。私がなにかされても仕返しをしてはいけないということがたまらなく嫌なのでしょう。


『人の子とその友救われむ唯一の道なり。この言伝忘れるべからず。』


『...はい...ありがとうございます...シェイアスエルナ様...』


あまりに下手くそな、文法間違えまくりの古典っぽい話口調になってしまったけど、それはそれでなんか神託っぽくで私は満足。いつも通りの感じで話して勘ぐられてもそれはそれで困るのでやりすぎなくらいがちょうどいいはずです。


レイナはそっと目を開けた。


「レイナさんは何を祈ったのですか?」


私は目を開けたレイナに問いかける。


「学院と、これからの平和な日々...かしら?」


「そうですか。」


「...シーナさん!」


レイナは思い切った声をあげた。


「何でしょう?」


レイナは少し顔を赤くしてシーナに言った。


「私の事は、レイナとお呼びくださいな!」


「わかったわ。なら私もシーナと呼んでちょうだい。」


「はい!シーナ!」


「じゃあレイナ、もどりましょうか、日も沈んできました。」


「はいですわ!」


レイナは元気よく返事して長いブロンドの縦ロールを揺らしながら、私の手を取って出口へとかけていく。


『うひょ〜、自然に可愛い女の子と手を繋げるなんて...やっぱり女子のスキンシップは最高ですねぇ〜ンフフフフフフフ』


気がつけばステンドガラスから差し込む日も落ちきって完全に辺りは暗くなっていたのであった。


『いやー、さすが私!女神っぽかった!この調子この調子!』


シーナはご機嫌であった。



帰りの帰宅ラッシュで道を埋め尽くす人混みでも私達は手を離すことなくゆっくりと寮へと帰り、「「ただいまです。」」と玄関を開ければ、そこにはアウラさんが「お帰りなさいませ。」と出迎えてくれるのであった。


-------------------------




気がつけばもう入学式でした。


まだヒロインさんとは一度も会っていない。


私はレイナと、新しく友達になった隣国の王女様と一緒に学院の制服を身に纏い女子寮を出る。


「行ってらっしゃいませ。」


アウラさんが見送りをしてくれている。


王女様の名はセルシア=アーラ=ソルニック。前に説明した隣の大国の王女様なのだ。この国では珍しい真っ直ぐ伸びた黒髪と黒目で、その顔立ちから日本にいた頃を思い出させてくれる。そして、王女なのだからお淑やかなのかと言えばそうでは無いのです。


「ねーねーシーナ!首席入学なのになんで入学生代表挨拶をあいつに譲ったの!?」


「前にも言ってたじゃないシア。目立ちたくないから。ですわね?シーナ?」


「ええ。人前に立つのは苦手なの。」


「そっかー...シーナならみんなの前に立った瞬間に男女関わらず全員を虜に出来るほどかわいいんやけどなー...」


「それじゃあ婚約してる人達に失礼よ。」


「それもそっかー。」


という感じでそのおしとやかで優美な見た目とは正反対のまるで前世の中高生のような口調と態度で懐かしさすら感じさせてくれる。


私たちはそんな学生らしい話をしながら学院に入る。


今の今まで学園の敷地内で生活をしていたものの、何気に私達が学園に入るのは初めてなので、どんな所なのかワクワクしてたが、それが想像以上に立派であった。入口はグランド○リンスホテル○都見たくアーチ状の柱に支えられた屋根が続く広々した空間、エントランスは東京帝〇ホテルのように広く高く重厚かつ高級感で溢れており、そこにいる人達もこの場に見劣りしない程の佇まいをした紳士淑女の方々。


『これが異世界の学院...』と、思わず息を飲んでしまうほどであった。というか、私見劣りしてないよね?


こういう場所はいくら美人でも似合う美人似合わない美人が存在する。特に大人な風貌をとこういったところは似合わず、こういう場に似合わなければ恥ずかしい思いをするものです。


...大丈夫ですよね?


元々完璧淑女のレイナは元より、言葉は悪いのに何故かこの空間に馴染んでいる社交的なシアをみて私は内心かなり焦りながら、講堂へと肩身が狭い思いをしながら向かったのであった。




-------------------------




「皆さんはじめまして。新入生代表、リングイング王国第一王子、ライル=アーラ=リングイングです。僕たちはこの良き日に───」


王子様の登場で辺りの女子生徒たちがザワザワし始める。


(ライル様だ!)

(キャー!相変わらず素敵!)

(こっち見た!こっち見たわ!)


とまあ、あのサラサラのプラチナブロンドの髪に透き通る碧眼と甘い声、凛とした顔を持ってればそりゃモテるよね。


私は、なんか前世で高校の頃に他校の女子とコロコロ彼女を入れ替えていたクラスのイケメンを思い出して少しイラッとする。彼に罪は無いのですけどね。でもまあ、そんな爽やかイケメン王子様はこれから罪を作る可能性もあるわけだけど、それはヒロイン次第と言った所。


ちなみにレイナは既にライルと婚約されており、「チッ...強制力まじ〇ねよ。」とかたまに愚痴っている。現に今も、ものすごい表情でライルを睨んでいる。尚、原作ではレイナはライルに一目惚れの模様。親の強い権力を使ってライルとのゴリ押し結婚をしていた模様。


まあ二年後に自分を貶める奴を好きになれって方が難しいですよね〜。


ちなみにシアは「うわ、いかにも『僕王子様!国民全員を守り抜くんだ!』みたいなキラキラしたオーラぶちまけててまじ腹いてぇ、クックックッ...」と、静かに腹を抱えながら爆笑してた。


私はそれを見て苦笑いをすると、王子だけが話している静かな講堂に、ガチャッ...ギィィというドアが開く音が響いた。そこに現れたのは...


「すいません...道に迷ってしまって...」


ドアの隙間からひょこっと顔を出し、うるうるとした目を見せつける。すると後ろからもう一人…


「ごめん、僕が案内しようとしたら僕が迷っちゃって...彼女は悪くないんだ!」


あざといポージングを決めるヒロインの登場だぁ!!ドアを見た男子諸君はもう一瞬でズキューンッ!と心を矢で射抜かれたことだろう!王子も彼女を見て赤面して挨拶が一瞬止まっている。魅了という魔法がかかっているとはいえレイナという超美人婚約者がいながらなんて失礼なやつなんだぁ!レイナは王子を睨んだ時よりもっと凄い顔でヒロインを睨んだ。


そして彼女は悪くない!と言って現れた少年は一つ上の先輩で天然攻略キャラのカルナ先輩だ!既に彼女の魅了の虜のようだぁ!!


心の中でつい、実況したくなるほどのお約束シーンである。ヒロインはもう入学式の学院で迷子になるイベントは達成済みというわけだ!


本当ならここでレイナがドーン!!とヒロインの前に登場して遅刻なんてありえない!平民がどーのこーの!!的なことを言って追い返そうとして、王子がそれを止める的な演出があるらしいけど、レイナはそれを必死に堪えてる。必死に堪えるその顔はもはや変顔です。人って本気でキレると本当にコメカミに血管が浮くんですね...


その後静かに自分の席に案内されるヒロインは『あれ?』という表情をする。恐らくレイナがここで出しゃばってくるはずだと思っていたのだろう。


まぁ、これでヒロインも転生者であることがほぼ確定したかな。つまりこの物語は罰せられたくない悪役令嬢と、王子と繋がるために悪役令嬢をどん底に落としに行くヒロイン系の白熱腹黒対決ストーリーなわけですね。


...と言ったものの、ヒロインはその後になにかアクションを起こすことも無く、そのまま何も起こらずに入学式は終わった。思ったよりも平和だったことに拍子抜けしまったが両隣を見ればレイナとシアは息切れしていた。どれだけ怒ってたんでしょうか、そしてどれだけ笑ったのでしょうか。


「レイナすごい顔してたわよ?」


私はクスッと笑いながらレイナに言うとレイナは顔を真っ赤にした両手で顔を隠した。


「恥ずかしいところ見せたのですわ。」


「いやはや、最高の入学式だっわー、ヒィー」


「笑いすぎよ!シア!」


「あっはっはっはっ!」


口を大きく開けて笑う最早淑女の欠けらも無いシアに、私はついクスッと笑ってしまう。


しかしヒロインにも目立った行動が無かったためか、こんな日常的な雰囲気に私達は少々油断してしまっていた。


私たちは講堂を出て赤の絨毯で埋め尽くされた廊下を歩いていると、レイナが「痛っ!?」と言った後にこっちにぶつかって寄りかかってきた。すると「どうしたの!?」と心配の声をかける前に、効果音のようにドターンッ!という音と「キャーーッ」という声が響いた。



あ〜。こいつね。と、すぐにわかった。


悲鳴をあげながら倒れた少女はヒロインさんであった。きっとわざとらしい演技で難癖つけてくるんだろうなー。と思った矢先、後ろからカルナ先輩が「大丈夫か!?リーナ!!」と駆けつけてきた。


ちなみにぶつかってきたのはヒロインさんの方だ。なんせ、私たちの後ろからぶつかっておしりから倒れたのだから。


さぁ、修羅場の始まりダァ!


確かに私の頭の中ではゴングの音が鳴り響いていた。


「ぅうぅ...痛かったですぅ...カルナ様ぁ...」


リーナはうるうるとした瞳でカルナに上目遣いをする。リーナが様付けしてる通り、カルナという者はリーナより上の立場である。もう名前呼びを許してるのかと私は心底魅了の能力に感心する。


「そうか、そうだよな。立てるか?リーナ...」


カルナはリーナを本気で心配しながら片膝を地面につけ、リーナを支えてあげる。


「カルナ様の腕を貸してほしいですぅ...」


そしてしくしくと涙を流す振りをしてカルナを動揺させるリーナ。立場上の人にお手を煩わせるとはまたまた大胆である。


「ああ、勿論だ、」


「ありがとうございますぅ...」


「ナッ!?」


リーナは差し出されたカルナの左腕にぎゅっと両腕でしがみついて立ち上がる。それに動揺して顔を真っ赤にするカルナ。


アツアツですな〜。


何とか真顔で耐えているものの口元がヒクヒクと引き攣って怒りを隠しきれないレイナと、砂糖いっぱい甘々ラブシーンを繰り広げるリーナとカルナを見て、ついに耐えきれず、後ろを向きながらクスクスと笑いが漏れてしまったシアのおかげで場面が一転する。


馬鹿にされたと思ったカルナが顔を真っ赤にしてレイナを指さして叫んだのだ。


「僕は見たぞ!君がリーナにわざとぶつかって転ばせている所を!」


「カルナ様ぁ...違うんです。私が悪いんです。走って彼女を抜かそうとしたから...」



きました!好感度アップのための謙虚発言!倒れてるのは自分なのに自分は悪くないんです!ということで、君は謙虚なんだな。と思われ、かつ!相手の印象を下げる、乙女ゲー悪ヒロインの奥義である!


正直、前世の記憶がありながらよくこんなあざとい演技を恥ずかしむことなくできるなーと感心してしまうほどだ。


現にそれを理解しているレイナはこめかみがヒクヒクと動いている。このままだと怒りが抑えきれない。私は少し力を使ってレイナの頭の中で『復讐すべからず』という言葉を思い出させる。


神様の力は万能なのです!


するとレイナはふぅー...と大きく息を吐いて落ち着いた様子を見せた。


「リーナ、君は謙虚なんだね...なんていい子なんだ...」と、カルナは優しくリーナを見たあとにギロッとレイナを睨み、「それに比べて君は、謝ることもしないのか!王国貴族として恥ずかしくないのか!!」とレイナを強く非難した。


レイナの手は震えている。カルナに怯えているのと同時に、こちらに非はないのに謝らなければならないことに対しての不満が、唇をかみ締めている様子からよく分かる。


でもシェイアスエルナの言葉を思い出したレイナなら大丈夫。そういう思いを込めて、私は震えるレイナの手にそっと自分の手を添えた。


「シーナ...」


レイナは私をそっと見て、私は微笑んだまま軽く頷く。そしてレイナは二人に向かって頭を下げて。「申し訳ありませんリーナさん、以後気を付けますわ。では失礼。」と言って三人でこの場を去った。


後ろからはリーナの戸惑うような「えっ...?」という声が響いたのであった。



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