(2話) エルフの里 l
俺TUEEEE編ですが、小章として、エルフの里編を挟みます。
翌日。私はライルの所に来ていた。
「久しぶりですね、シーナ嬢。」
「あら、その後に『いや、シェイアスエルナ様と言った方がいいかな?』という質問はしないのですね。」
「どうせ待っていたのでしょう?」
「ええ、まあ。」
二人はかすかに笑みを浮かべる。やはりこういう少しからかい合える会話は楽しいのだ。
「最近どうかしら?」
私はあえて最も面倒な質問をする。そしてそれにライルはドヤ顔でペラペラと質問で答える。
「どう、とはリーナとの事ですか?それとも体のことですか?領地経営の事ですか?はたまたエルフの里の事ですか?質問されるような出来事の心当たりが多すぎましてね。って、わかって言っているのでしょう?」
ライルは苦笑しながら肩の力を抜いた。
「ええ。少しからかってみたくて。」
リーナの魅了から解き放たれたライルは話が通じるどころか、人の心まで読むようになっていた。魔法も使わずに相手の心を読むとはとても優秀ですこと。
「で、僕に用があるのだろう?」
「ええ。」
そこでライルの目付きが変わった。公私の区別がしっかりとついているのはいい事だ。
「単刀直入に言うわ、リーナに変身魔法をかけてここから学院まで再び通わせないかしら。」
私の提案にライルは大きく目を見開いた。だが直ぐに表情を落ち着かせる。
「...詳しく。」
「彼女はとてもいい子だわ。私の使っているような神術を使った変身魔法と、ここと私の寮を行き来できる陣を置いておけばここに来る時には自動的に元の姿に戻って、あっちに来る時は自動で変身できるようになるわ。私たちもいるし、いい提案だと思うのだけど。」
私は言葉の尻の方でスーッとライルに視線を合わせた。するとライルは「はぁ」とため息をついた。
「君の提案を僕達が断る理由もなければ断る権利もないとわかってて言ってるね?」
「さぁ、どうかしらね。」
「でもまあ、理由は聞いておきたいかな。」
「勿論よ。」
まあそりゃ自分の大切な妻をほぼ敵しかいない学院に送るのは不安だろう。正当な理由がないと学院連れ込むなんて無理な話だ。
「彼女が転生者ということは知ってるわよね?」
「あぁ。そしてレイナ嬢もだ。」
「えぇ。それで彼女は今人ではなくてエルフで───」
私は今回の事件を神界で起きたこと以外話した。人間より強い者が欲しいこと、本来ライルも来て欲しかったけど領地経営で忙しいから断念したこと、リーナについても、領地発展のためにもっと学んでもらおうということ。
あと、これは言わなかったが、私は学院を卒業したら、レイナと共にこのスパシア領を拠点に置こうと思っていたのだ。首都よりも人が圧倒的に少なくどこの国とも国境に面しておらず、森があって妖精に精霊、エルフが沢山いるのでとても過ごしやすいのだ。
だから多少人口が増えてもいいからスパシア領には少しでも発展してもらいたい。
「なるほどねぇ、わかってる。もちろん許可する。でも少しお願いしたいことがあるんだ。」
「何かしら?」
ライルが交換条件を出してくるなんて珍しいと思いながら私はライルの話を聞いた。
「エルフの村の者が、『我々の同胞を解放しろ!』と、ハイエルフである私たちを同胞扱いをして襲う名目を立て、領民を襲っては食料を奪っていくんです。」
ライルは深くため息をついて頭を抱えた。
「それで何とか説得して欲しいと。」
「ええ。」
そっか〜、領主がハイエルフなら解決できると思ったんだけどなぁ...正直神の使徒であり血縁者を名乗るエルフにそんな野蛮な事をされては私達の名前に傷がつくのでこの件について手伝わない事は絶対にない。
それに私は将来ここに住むんだから少しでも環境を整えたい。この街は神々の休息地になるんだから。
「勿論手伝うわ。エルフは0.1%未満ながら、私達神の血を引いている。そんな神の使徒、血縁者と名乗る者共の野蛮な行動を見過ごすことなど有り得ませんわ。神の名を使い神の名を貶した事を神の手によって後悔させましょう。」
「ひえ〜、怖いなぁ。」
「あなたも悪い事をしなければ何も問題はありませんよ。」
私自ら制裁を下しに行くという言葉にデジャブを感じたのか、ライルが冷や汗をかいているのがわかった。
「では早速行きましょうか。」
「はい。よろしく頼みますよ。」
「ええ。私を誰だと思ってるのかしら?」
「女神シェイアスエルナ様ですね。」
私は人の姿のままライルの肩に触れてエルフの里へと転移するのであった。
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「これがエルフの里なのね。なんというか思った通りの大きな木と、思った通りじゃなかった街並みが...」
エルフの里、それは大樹の中の家や、木だけを使った家などではなく意外にも石畳の舗装された道にレンガや石、そして木を使った道沿いに並ぶ家。
『もしかしてドワーフでもいるのかな?』
私は様々な憶測を立てながら街の中心に向かう。私達が転移した道に、エルフはびっくりするほどいなかった。そこを歩き、出入りするものは0名。
私とライルはそこに物怖じしないで真っ直ぐ、道端に立てられた300m先 中央広場、400m先 役所、と書かれた案内標識を見て真っ直ぐ歩く。すると元から見えていたが大きな大きな、本当にユグドラシルと表現してもいいくらいな立派な木が生えていた。
中から何か声が聞こえてくる。少し神力使って見てみると、五十名程のエルフがなにかに向かって頭を下げては「あぁ、女神様!!女神様!!我らの祖なる女神様!!どうか今日も我々の質素な慎ましい生活を支えてくださいませ...あぁ、女神様!!───」
エルフ達は思ったよりというより、想像の何百倍も信仰心が厚いようだ。でも人のものを奪って食らって生きているのが質素で慎ましい生活とは思えんがね。
五分ほどするとエルフ達がワラワラと出てきた。そしてライルと私を見る度皆驚き、私には蔑むような視線を送る。今見下したヤツら、覚えとけよ?
少しすると歳をとったおばあさんエルフが私達の元に歩いてきた。
ハイエルフは細く尖った耳をしているが、普通のエルフはそこまで細長くは無い。人間の耳の延長線上と言えるくらいのものだ。
「おや、スパシア領のハイエルフ様、話は聞いております。さて、一体私達の里に何の用でしょう。」
婆エルフはそう言いながら私を睨んだ。さっきから睨まれてばっかりだな。そんなに人間が嫌いなのか。白い目を向けられてゾクゾクするようなドMな人間なら喜んで住み始めそうな所だな。
「いやなに、私の領の人間達の努力を、かも当たり前のようにひったくる盗賊と変わらない野蛮な行為はエルフに有るまじき行為なのではとな。」
「ほほう。貴方様は下劣な人間共を庇うというのですな。生憎と我々は人間を知恵ある生物とは思ってない故、ただ生えていた野菜を採取し、そこら辺に放ってある野生動物たちの命を有難く頂いているだけですな。」
どうやらエルフ達はそれをやめる気も詫びる気も更々無いようである。しょうが無いなぁ〜。じゃあ私も同じことしちゃおっかなぁ〜。
「ライル。」
「何かな?」
「私少しの間、お腹が減ったし自由にこの里を散歩しているわ。少しそこの老害とお話をしてみてはどうかしら。」
私はあくまでもエルフは見下ろす立場であるとここで主張する。
「小娘が!!誰が老害じゃと言った!!」
「あなたです。では私はこれで。」
そう言って私は自分のすべきことをしに行った。後ろから「全く...相変わらず怖い方だ...」というライルの独り言を聞きながら私はエルフの里の商店街に向かうのであった。