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新生女神様の人類お忍び物語ツアー  作者: 上野 たびじ。
第一章 悲劇の悪役令嬢救済編
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(1話) セーレル教と転生者




私はレイナに手を引っ張られながら雨上がりの街を駆け抜けて10分。立派な噴水のある石畳の広い広場の目の前にある、いかにもな教会っぽい所に到着した。


まるでサン・ピエトロ大聖堂のような風貌を持つ一帯に私は思わず息を飲む。


「やっぱりリングイングの観光名所と言ったらここですわ!プリューム中央教会!なんと言ってもあのセーレル教の聖地ですの!」


せーレル教は世界最大の宗教。そしてこの教会こそ、そのセーレル教総本山。確かにそりゃ観光地になりますよね。


「ほら!ぼーっとしてないで入りますわよ!!」


レイナは両手を広げながら大きな扉を開けて「一緒にお祈りしましょう!」と、私を呼ぶ。私は静かに頷いてレイナの後をついていく。ドアを開けるとそこにはサント・シャペル教会のような、そんな色鮮やかな光源景色が広がっていた。


壁から天井まで、広く高くステンドガラスで覆われており、ちょうど夕焼けの時間ということもあって、柔らかい光が広々とした教会内部を色鮮やかに照らし出していた。


教壇の奥には、こういう教会によくある十字架でなく、代わりに大きな二重の輪が掲げられている。


レイナに聞くと、あの輪の呼び名は神輪と言って、凡そ3000年前、この地に降り立った女神が頭上の輪を空に掲げたことにより、歴史史上最悪の魔獣災害が一瞬にして鎮圧したというセーレル教の象徴。


故に頭上の輪が神聖なるものの、起源として人々の記憶として、形となっているのだとか。


いかにもなスケールのでかい神話だな〜と感心したが、教会の隅に置かれている見覚えのあるような無いような、神話の場面を象られた神の像の手に掲げられた輪は一つだけ。


あれ?天に掲げた輪は一つなのに何故飾られている輪は二重なんでしょうか。


そもそも神が持つ輪は一つだけなので、誰かもう一人神話に残るような神がいたか、なにか違った表現をしているのかもしれない。


「レイナさん、何故神像の輪は一つなのにあそこに掲げられた輪は二重なのですか?」


その質問にレイナは「あ〜。」と行った後に掲げられた二重輪に近づいて、「シーナさん、ちょっとこちらへ、」と手招きされる。私は輪に近づくとあることに気がついた。


「あ、気が付きました?」


「ええ。」


よく見ると、外側の輪の表面は軽くくすんでおり経年劣化が見られるが、内側の輪の表面は綺麗な艶が出ていた。


「実は女神様が13年前にシェイアスエルナ様っていう女神様をお産みになったとかで───」


「グフッ!?...」


「シーナさん?」


「いえ、すいません、ただ咳き込んでしまっただけです。」


「そうですか...で、話を続けますと───」


シーナは気付いてしまった。あの内側の新しい輪の所有者を...




私だーーーーっ!!





実の所シーナというのは家族や神界で仲のいい子などが呼んでくれる愛称であり、私の本名はシェイアスエルナ=ホープスなのです。つまり私を産んだリングイングの英雄神は、母様である。


「───っていうような感じでシェイアスエルナ様がここに新たな信仰の対象となって二つ目の神輪が掲げられたのですわ。」


レイナさんは長い長い解説を終えた。私はそれを見計らって、ほぼ確実ではあるが、一応その女神の名を聞いておこうと思った


「...レイナさん...」


「はい?」


「このセーレル教の神様の名前を教えて貰っても良いですか?」


「ええ。まず先程お話したシェイアスエルナ様と、」


「と?」


「英雄神セルレイトラル様ですわね。」


ん〜...もはや分かりきってましたけど、やはり母様でした。私の母様の名前はセルレイトラル。となるとあの神像も母様ということになる。はぁ、この話は後でじっくり聞かせてもらうとしよう。でもなんというか、それよりも、家族なのに父様だけ同じ所に祭壇が無いのがまた可哀想というかなんというか。


そもそも祀られているのかすらも怪しくなってきた…


とりあえず二人で片膝をつき、両手を合わせて指を絡ませるようにして目を閉じて祈る。


『母様、何やってるんですか、本当に...』


と、ボヤくと、頭に返信が返ってきた。


『いや別にお父様に生態系が狂ってしまうから人間を助けてこいって言われたからやっだだけよ!』


『一瞬にして壊滅は助けとは言いません。』


言ってしまえば神の輪を掲げて魔物撃退なんてもはや自分が神であることを公言してるようなものだ。規約違反もいい所である。私がしたがっていた空中浮遊なんて霞みすぎるくらい立派な違反だ。


『結果問題なかったんだからいいじゃない!』


『それは結果論です。3000年前とはいえ反省してください。』


『はーい...』


実の子に説教されてシュンと落ち込んだような母様の返事が聞こえた所で私は意識を戻してレイナさんの祈りを待った。


これでもこの世界を見守ってきた神々の一柱なんです……


私は最初からこんな事で大丈夫なのかと正直不安を覚え始めたところ。


変な事まで知って疲れたのでそろそろ部屋に戻るべく祈っているレイナさんの方に目をやった。


すると突如頭の中にレイナさんの声が響いてきた。


『...ま...ように...』


ん?よく聞き取れない。なんと言っているのだろうか。


今度は集中して頭に響く声に意識を向ける。


『この後学院でヒロインに断罪されませんように!!』


『!?』


祈りは神に届いた。が、この祈りに私は心の中で大きく困惑する。


今、ヒロインって言った!?あとなんですか、断罪って...これから起こることを予測してるとでも言うんですか?そもそもヒロインという概念がこの世界にあるの?


私はレイナさんの未来に対する確信のような祈りの言葉に違和感を覚え、失礼ながら彼女の記憶を探らせてもらった。



彼女の長い人生が彼女の感情と共に一瞬にして私の頭の中に舞い込んでくる。人だったらその情報量と密度から、ニューロンが耐えきれなくて気が狂うか、人格が破壊されるか、そのままサヨナラして私たちの所に召されるかである。


深く深く彼女の記憶という記憶の深くまでダイブする感覚。それは魂を読むという神業。



「...」



彼女の今までを見た私はつい無言になってしまう。



驚きました。このレイナって子...










転生者です。







-------------------------






私は目が覚めると見知らぬ天井がまず視界に入った。天井だけの景色から横を向けば不意に右からものすごく綺麗な西洋の女性が顔を出してきた。左からはものすごくイケメンな西洋紳士のような男性。『なんだろうここ、天国かな?』なんて思ったのも束の間であった。私は左に映る西洋紳士の発言に驚くことになった。


「この子は"レイナ"だ!"レイナ=アーラ=サンバルド"だ!」


『え?』


「レイナ〜!私の可愛いレイナー!」

「パパでちゅよー!」


なんて両親は言ってくれてるが私はなんとも言えない気持ちになった。


欧風紳士が「ムチュー」なんて唇を尖らせてキスをしてきたことに引いているほどの余裕は私にはなかった。


なんせ、レイナ=アーラ=サンバルドとは私が好んで遊んでいた乙女ゲーム、〈真実の女神〉の中に登場する、ヒロインをいじめることがメインとして登場する悪役令嬢であり、どのルートに行っても最終的には女神の名の元に断罪され、処刑されるという救いようの無いキャラクターだからであった。


まあ高飛車な性格ゆえヒロインにして来た仕打ちだけならまだしも、彼女の行う虚偽の収支報告や裏帳簿はどの道文句のつけ所のない極刑モノなので自業自得にはなってしまうけど...


私もゲームで毎回いい所に出てきて邪魔する彼女は嫌いであった。毎回毎回あと少しと言うところで嵌められる。


なんでその悪役になってしまうかなぁ……


とにかく私は15歳に教会で開かれる洗礼の儀で、全てを暴かれて必ず女神から直接罰が下される。実際に悪巧みばかりしてきたレイナは、神にごまかしなど効くはずもなく、いかなる時も何かと神罰を食らってこの世を去っている。


けどまだ諦めるのは早い!


まだ私は産まれたばかり、この世界がゲームを軸に動いていて、ゲームの強制力が働かなければ私が断罪されることは無い...と、思う。そう思って私は幼いうちから学ぶことは学んで、淑女教育もしっかり受けて、使用人だろうが下の爵位の子だろうが仲良く接してきた。身内にいる不安分子も徹底的に排除し、悪行もしていない。そんな私は悪役令嬢ではなく、模範令嬢とも言われるくらいにまでなった。王家からの申し出による婚約のため、王太子との婚約は回避できなかったが、それはどうすることも出来ない…


気がつけば13歳、断罪まで2年に迫ってきた。そしてゲームの舞台であり断罪の場である学院に入学した。リングイング王国の貴族は必ず重要人材育成並びに学力強化宣言の下、このプリューム国際アカデミーに入学しなければならない。なので、死にたくないから入学を辞退します!とは行かないのである。


私は少しでも仲のいい人、味方を作るべく女子寮の入寮初日に引っ越した。この女子寮には同級生が10人程入る予定である。その内の一人がヒロインであった。ちなみに残りの8人は、ゲーム内において以後私の取り巻きになる。皆魔力の低いとされる平民や下級貴族の子女なので、ゲーム内の私は確か...


「平民と同じ空気を吸って生活していくなんて以ての外ですわ!早急にこの女子寮から出ていくことが貴女の為になりますわ。」


と、ヒロインを門前払いしていた記憶がある。ちなみにその後ヒロインは大きめのトランクを両手に持ち学園のベンチでこれからどうするか悩んでいるところ、攻略対象の王子に出会って、彼の力を借り、学院内の宿直室に住み込むことになるのだ。


つまりヒロインを門前払いしなければ断罪への道が一歩遠くなるわけだ。


そういった学園生活のプランを部屋の中で練っていると、隣の部屋に人が入室してくるのがわかった。使用人取締役のアウラさんの声と透き通った女性の声が聞こえたからだ。彼女もおそらく同級生、以後、私の取り巻きになる可能性がある人でもあるので挨拶に行こうと思った。


断罪されないようにしても取り巻きというのは大事なものだ。将来の味方は増やしていく他ない。


隣の部屋の人も片付けがあるだろうし、すこし時間を置いて私は挨拶に行った。これが最初の挨拶と思うと緊張してきた。この挨拶で今後の運命が変わるかもしれないと思うと緊張して喉が乾いてしょうがない。


私は大きく深呼吸をした後にコンコンとお隣の部屋のドアを叩いた。「は〜い」という軽い声がして扉が開いた。するとそこには見たこともないような、本当に人間が疑いたくなるような美少女がいた。私は思わず見とれてしまって少しの沈黙が間をさしたがなんとか挨拶をした。


まあ、結果テンパってガチガチの挨拶になってしまったのだけど、シーナさんと名乗った美少女は優しい人で、落ち着いて挨拶を返して私を部屋に上げてくれた。


どうやら彼女は異国の子のようで、確かに国のパーティとかで見たこと無いなとは思った。話が続いて嬉しくなってしまい、私はつい熱が入ってしまってシーナさんを無理やり外に連れ出して観光案内を始めてしまった。


手を握るとすべすべ、皺がシワでは無いと言ったら良いだろうか、本当に人形のような子であった。レイナも十分と言えるほどに、いえ、絶世とも言える美少女であったが、上には上がいるものなのだなと思った。


でも彼女の手を引っ張って走りながらこんなことも思った。


『こんな子、ストーリーに出てきたっけ...』


ストーリー内において美少女と言われてるキャラクターはレイナとヒロインだけであった。それにレイナのいる寮はレイナが序列一位であり、レイナより美人な人などいるはずがなかった。私の取り巻きの中にもそんな人はいない。ゲームでモブは目が前髪の陰に隠れて見えないし、髪の毛の色も地味である。故にレイナやヒロインの可愛さが引き立つわけだが……ここまでの美少女が物語のモブなんてことはありえない。裏ルートですら見た事がない。では彼女の存在は?もしかしたら私が死んだ後に出た〈真実の女神〉の続編に出てくるキャラクターだろうか……


考えずにはいられないまま最初の目的地にある教会に到着して、いつも通り『この後学院で断罪されませんように!』と、私を断罪する予定の女神様にお祈りをしたのであった。




-------------------------




なるほど、レイナさんは転生者で悪役令嬢、つまりこのお話はよくある悪役令嬢に転生したけど生き残りたいです!系のストーリー、ノベルという訳だ。


なんでゲームじゃなくてストーリー?って思われるかもしれないけど、ゲームだったら悪役令嬢は転生者じゃ無いでしょ。


しかしまさか地上におりて少しもしないうちに物語に足を突っ込んでしまうとは...


大体こういうストーリーになると、ヒロインも転生者で思い通りに動かない悪役令嬢に腹を立ててあざとい演技で悪役令嬢を貶めるのです。で、異国の王子様が悪役令嬢に婚約を申し込んで無能なヒロインのせいで国が崩壊する的な話が多かったはずです。


悪役令嬢系は追放された後が作者さん達の物語の魅せ所ですよね〜。まあ追放される前から違う展開の面白い作品も多いですけどね。


にしてもこれは酷い乙女ゲームですね。


悪役令嬢には死の道しかないとは。固定のステータスで極刑レベルの不正をしてるとか救いようがないじゃないですか。ゲームの世界の女神様も随分と冷酷なものですね。


前世の私ならレイナ(悪役)に同情してしまいますね。


レイナさんは恐らくこれからフラストレーションの溜まったヒロインによって虐められる日々が来るでしょう。そしてレイナさんとは関係無い他の令嬢がヒロインにしたことを全てレイナさんに押し付けて、まず中等部卒業パーティで王国側が断罪、拷問そして選定の儀で女神が処刑...といった流れですかね。


実際今のところ女神の処刑は私と母様である以上レイナにすることはまあほぼ0に等しいので。何しろゲームでなら今頃既に始めていたであろう収支の虚偽報告及び税の横領などもしてませんからね。




とにかく私は王国によるレイナさん断罪を阻止します!




悪い人には罰を良い人には幸せをが神の掟です!ここまで死ぬまいと努力してきたレイナさんを幸せにしてあげたい!そう思った私の身体は止まらなかった。


『母様、良いですよね?』


『いいわよ〜。』


許可は得た。私はこれより悲劇の悪役令嬢物語をハッピーエンドにすべく、物語に干渉します!!


私は『この後学院で断罪されませんように!』と何度も何度も祈り続けるレイナさんの意識に干渉するのであった。


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