(4話) 役たたず。
「え、え、ぇえっと...」
リオは自分の周りと飛び回る妖精たちに困惑している。リオは無意識に妖精を複数体召喚したのだ。
『リオだー!』
『シャンが自慢するから!』
『人間初めてー!』
『契約してー!契約してー!』
『私も私もー!』
『私が先ー!!』
驚いた。こんなにも妖精が懐く人がいるとは思わなかった。それだけリオの魂は妖精を引きつけるものなのだろう。多分優しすぎる性格が故って感じがするけど、でもこれは凄い事だ。話に聞く召喚士の希望、聖獣フェンリルと契約しているリオの父よりも全然すごいことだ。
「え、えっと、君達は?」
リオはオドオドとした様子で妖精達に語りかける。
『私メラ!!火の妖精!!』
『ピチャだよ!水使える!!』
『ヒュウ!私ヒュウ!風操れる!!』
『私はサラ!!地面任せて!!』
『ヨドでーす!暗いの大好き!』
『ランっていうの。植物使えます!』
「えっと...契約して、その、いいの?」
『『『『『『『勿論だよ!!』』』』』』』
「え、じゃあ...順番に...」
うん。妖精さんたちは皆元気いっぱいだね。リオの周りでワイワイはしゃいでる。ちなみにブラッドウルフはシャンちゃんがエンドレス目くらまししてるからなかなか動けない。
とりあえずあの子達にも私の言葉言っておかないとなぁ...
妖精さんたちはリオとの契約が終わるとみんな私に気づいて、
『わー!王女様ー!』
『きれーい!』
『はじめましてー!』
と、こっちに飛んでくる。透明化してるのでリオは見えないが、王女様王女様叫びながら何も無い所に集まったら、何かあるのか気になるらしい。リオも妖精につられて私の方によってくる。まあ、今実体無いから触れないけど。
『妖精さんたち?ちょっとお願いがあるのよ。』
と、私が念話で言うと皆も念話で答えてくれる。
『王女様と女王様の話絶対!!』
『任せて!』
うん。可愛い...
『私、人の姿で人間の街で暮らしているのだけど、人の姿の時は私を女王様って呼ばないでシーナって欲しいのよ。あと、人間の姿の私が女神って事も人間には言わないで欲しいの。神の姿の時はいつも通りに呼んでくれると嬉しいわ!』
私は笑顔でそうお願いすると皆元気いっぱいに『わかったー!』と返事をしてくれた。皆いい子だね〜!私は一人一人指で頭を撫でてあげて、『さあ!あの男の子を助けてあげてちょうだい!行っておいで!』と言うと『はーい!!』と言ってリオの周りをクルクル回り始める。
「どうしたの?皆?」
『王女様に挨拶してた〜!!』
『王女様キレイ!!』
「王女様?」
『うん!王女様ー!!』
「へぇ〜。」
リオは辺りを見渡すが王女らしき人物は見つからない。強いて言うなら王国の王女であるシアの事を言ってるのかと考えているようだ。
しかし状況が状況なだけにそんなことを考えている余裕などは無い。
それに元よりリオは深くは追及しないようであった。まあ精霊は神聖なものと教会のあれ程言われれば妖精を探ることが墓穴を掘る事と同じであることを理解してのことだろう。
『じゃあリオ守る!』
『攻撃する!!』
妖精達がリオを守るべく攻撃態勢に入った。シャンちゃんはリオの元に戻ってリオの肩でうつ伏せになるように乗っかり、休憩している。
ブラッドウルフ達が目眩しから復活して活動を再開する。おそらく目くらましのせいで視界が半分ほど塞がれているはずだ。太陽を直接見ると変な光の後が目に残って視界の邪魔になるあの感じを味わっているのだ。
それを火の妖精メラちゃんと風の妖精ヒュウちゃんは火魔法と風魔法で切り裂き、そして燃やす。
三体のブラッドウルフが倒されるのはあっという間のことだった。
『やったー!!』
『リオ守ったー!』
『勝ったー!』
妖精達は大喜び。リオも「皆ありがとう!」と言うとそのままパタンと倒れてしまった。
『リオー!!』
『リオ!!大丈夫!!』
『リオが倒れちゃった!!』
『王女様ー!!』
リオはピクリとも動かず静かに息をしながら倒れていた。おそらく魔力の欠乏が原因だ。寝ていれば魔素を勝手に吸収する人間の体なら直ぐに治る。こんなに妖精を召喚して契約したら、そりゃこうなりますよ。
『大丈夫よ。魔力が尽きちゃっただけ。すぐ戻るわ。だからあなた達も一旦帰りなさい。』
私はいつも通り妖精達に笑顔で言うと、妖精達は『はーい!!』『じゃあね!王女様ー!』と言って精霊界に帰っていった。
...さて...どうしたものかね〜...
このまま魔の巣窟に無防備な人間を置いていくのもあれですよね。
私は倒れたリオを見てこの後どうするか悩んだ。
結局私は気を失ったリオをお姫様抱っこしながら歩いて戻ることにした。途中で目が覚めないことを祈るばかりだ。いや、目覚めるな。女神の命令だ!
変に目が覚めて私がコイツに気があるだなんて思われたらそれこそ面倒な事になる!!
超超超超超超絶世の美少女である私が男をお姫様抱っこなんてしている所を見られたらスキャンダルどころの話では無い!!
「...よしっと...」
私はリオが目を覚ますこと無く皆が戦っている場所まで戻ってきた。
「ちょっとシーナ!?遅いですわ!私もうこんなにボロボロですのに...」
レイナはまだ四体のブラッドウルフを残して、満身創痍の状態で戦っていた。もう魔力も残り少ないようだ。うん。かなり惜しい。もうちょっと遅く来ればよかったかな?でもそうするとリオが目覚めそうだし...うーん...
「そうでしたか、それは残念です。」
私はニコッと笑顔で返した。だって私が授けたスキルはそういう追い込まれた場面でこそ真の力を発揮するのですから。
「残念ってなんですの!?」
ガーンと言う効果音が似合いすぎる表情をしたレイナが涙目でその場でうずくまる。いじけるレイナ可愛い過ぎかよ。
「わかったわ。怪我を治して魔力を復活させてあげるからもう少し頑張ってください。」
するとレイナは『シーナも少しくらい手伝ってくれても宜しくなくて?』と言う顔をするけど、
『女神の力をそんな簡単に借りれるとは思わない事ね。』と、念話で言いながら傷を治して魔力を与えると、
「分かりましたわ...やればよろしいのですね!」
と言って戦いに復帰した。
とりあえず先頭の邪魔にならないように寝ているリオの服の襟を掴んでリオ本体を端に引きずった。すると、
「おい!シーナ!!俺たちに早く回復魔法をかけやがれ!!」
「遅いのよ!ったく、」
「使いもんにならん。」
と、私が戻ってきてることを確認したナザール達が私を呼んで回復魔法をかけるように命令した。
いや、パーティメンバーが死の窮地にいたから助けた私をそんな雑な扱いしないで欲しい。むしろ感謝して欲しいくらいよ。あと敵が迫ってるのに後ろ見ながら叫ぶなよ。シアの催眠が解けて勿体ないじゃん...
私はシアにだけレイナと同じ治癒と魔力回復をかけて、あとの三人には軽いヒールをかけておいた。
一時間後、復活したレイナとシアのお陰でブラッドウルフを倒しきることができた。
ここまで劣勢に追い込まれて逆転勝ちしたのですからそこで本来なら喜ぶはずなんですけど...どうやらうちのゴミ三人はお怒りのようです。
戦い終わると、リオの元に一直線に向かい、ズゴッと気を失っているリオの顔面を蹴っ飛ばした。
流石にこれは危ない。下手すると首の骨や頭蓋骨に損傷が出てしまう。そうなればいくら治癒士に頼んで傷を治せても記憶を喪失させてしまう可能性がある。そうなればリオの契約した妖精達が悲しむ。そして大地が枯れたり打規模自然災害が起きたり、人間に復讐を!なんて言い始めてしまう可能性が高い。
なので私は次に踵でリオの腹を踏みつけようとしているシールズの前に立ちはだかり、
「そのまま暴力を振るい続けていると、記憶を失う可能性があります。もしかしたら即死の可能性だって───」
私はそういうと、ナザールはハッハッハッ!と笑って私の言葉を遮る。
「それならシーナちゃんが治してあげればいいじゃないか。」
やっぱりこの人達はスキルというものを、シーカーというものを、全てがわかっていない。
「死んだ人を蘇らせたり記憶を治癒できる者なんて(私みたいな)神意外存在しないのですよ。」
私のこの言葉を聞いてもナザールとシールズ、ジェイズは笑って言った。
「こんな役たたず、一度記憶をなくして俺たちに忠実な奴隷にした方がこいつの為だろうが、現に俺らはこいつのせいで危ない目にあってたんだ。それくらいの罰が妥当だろ。死んだ所で代わりなんぞそこら辺にいるさ。」
「全くナザールの言う通りよ、役たたずは大人しく従っておけばいいのよ。パーティに入れてもらってる側であるのに感謝もしない事に腹が立っていたのよね。これで今後は楽になるわ。」
「フッ、弱い物は強い物に従う。当たり前だろう。こいつは役たたずで弱い。そんな奴に価値は無い。」
それではまるで奴隷じゃないですか…相手がリオだからとか関係無く私は彼らの言っていることに失望した。
人間の体だから情が移ってしまったのか、私の中で何かがプツッと切れた気がした。
あーあ、もう私怒っちゃいました。もう我慢できません。こんなゴミに近づいてると自分にまでゴミの匂いが移る。そういえば私は女神じゃないですか。本来人間などが口答えしていい存在では無いのでした。私を誰だと存ずるのでしょう。女神シェイアスエルナ!!神界の女王セルレイトラル=ホープス女王陛下の娘!!シェイアスエルナ=ホープス第一王女です!
私は歯を食いしばり、下を向きながら両手を思いっきり握りしめていた。
そして心の中で溜まった怒りを放出させようとしたその時だった。
スパーンッ!!...
「...」
空気が一瞬にして変わった気がした。私はハッと我に返った。何が起こったのか...目の前には手を振り抜いたであろう姿勢のシアと、頬を腫らして何が起こったのかわかっていないナザールの姿がそこにあった。
そしてシールズ、ジェイズと続いてスパーンッ、スパーンッとビンタされる。そしてシアが口を開いた。
「あまり私を怒らせるな...処したくなる...」
私はシアのあまりにも真に迫った顔に驚きを隠せずにはいられなかったのであった。