(1話) 最後の晩餐
私は今、訳あってNというシーカーパーティに所属している。
正直気は乗らなかったのだけど、可愛い子供達の為ならやむを得なかった。
パーティには犯罪者予備軍みたいな男と尻の軽そうな女、そして自己評価高め系の大男、そして今回の目的である女の子みたいな男の子の計四人がいた。どうやら超急成長中のパーティらしくて、たった一週間でシーカーランクEからCにまで上げたとか。
正直言って異常。
そして前にレイナが早朝から質問しに来ようとしてきたあれ。二つとも彼が関係していることはわかっていた。だから早急に問題を解決しようと思ってたのだけど...
その少年がどうやら私に恋をしてしまっているらしい。
クラスでのあの熱い視線を見れば分かるんだけど、いや、それはホント困る。そもそも私神だから人間と結婚した所で子供なんてできないし私からしたら人の命とか朝露よりも儚いものなのですよ。それに一番大事なところは私が元々男だったということ、確かに一人称とか話す際の口調、仕草、見た目、心とかは完全に女性だけど、男性として生きてきた記憶を持ってる身からすると少し...というより、かなり無理。正直女神と結婚したい。結婚して神の力で相手の相手を生やして子供産みたい。そのレベルで男と結ばれるの嫌。
だから正直その少年とできる限り関わりたくない。でも彼なんだよなぁ...今回の目的の一つである、妖精ちゃんを召喚して契約したの...
だから今回いつもの二人を巻き込むことにした。表向きは『来るべき日に備えて自分たちだけで生活できるように。そして自身のパワーアップをする』というものだが、実際には『女の子三人固まってアイツを私に近寄り難くしてやろう。』というものだ。シアにだけ本当の理由を話していない。こう言っちゃあれだけどシアって、なんか口軽そうじゃん?
ってな訳でパーティの皆さんに挨拶を済ませてさっさと要件を済ませるべく、洞窟へと向かうのであった。
ちなみに挨拶の時からもうリオとかいう少年の視線が熱いこと熱いこと。
『早く終わらせたいなぁ...』私はそう思いながら彼らの後ろをついて行くのであった。
-------------------------
『どうかしら?スキルが何かわかったかしら?』
『いえ、まだ全く分かりませんわ。いい加減教えてくださいまし!?』
『私が教えたら意味無いわよ。これは自分で知ることが大事なのよ。』
『ちぇ〜ですわ...』
レイナは私が授けた加護をまだ引き出せていないようであった。レイナと彼女だけは私が自ら加護を授けた特別な子である。ただ、レイナに関してはそう簡単に言える加護では無いのだ。
こんな事を念話で話しているうちに、魔獣の声が奥から響いてきた。前衛のナザールとジェイズとシアは前に出て戦闘の準備を始める。
それと同時に私は一つ目の問題を解決すべく、神気を、込めた念話で彼女を呼び出した。
『そこのあなた。主人に内緒で静かにこちらにおいで。』
私はそう呼び出すと、リオの身体から光の球が出てきて、私の方に飛んで手のひらサイズの女の子の姿になった。
『念話でお願いね。』
『はーい!王女さま〜!』
手のひらサイズの女の子は元気よく手を挙げて背中の透けた羽をパタパタと動かしている。
か、可愛い...可愛すぎる!光の妖精は『アハハハ〜ッ!』と、私の周りをキラキラと飛び回る。凄い、可愛すぎて癒される。
『私シャンっていうの!王女様初めて!綺麗!』
ズキューンと心を射抜かれた感じがした。マズイ、可愛すぎて最早凶器。
『ありがとうシャンちゃん、早速私からお願いがあるのだけど...』
私はバツの悪い顔でシャンちゃんをみると、クルクル飛び回りながら『王女様のお願い、絶対!問題ない!』って言ってくれた。
ではまず一つ目のお願い。
『私の本当のことを皆...えっと、人間に言わないで欲しいのよ。』
『ホントのこと?女神さま?王女さま?』
クイッと首を傾げる姿が最高に可愛すぎて萌死しそう。死なないけど。
『全部。私が女神ってことも、王女ってことも、私は人間ってことにして欲しいのよ。』
『わかったー!』
シャンちゃんは素直に頷いてくれた。妖精は普段精霊と共に精霊界で暮らしているので人間界に降りてくることは滅多にない。でも極稀にリオのような妖精に好かれている者の召喚に応じてしまう妖精もいるのだ。
妖精は基本妖精の親族であるエルフの召喚士とかに応えることが多いので、特に問題ないのだが、人間界に来てしまうと、何も知らない妖精達は、私のような地上におりている神様を見つけると嬉しくなって名前を呼びながら集まってきてしまうのだ。
そうすると人間たち全員に神であることがバレてしまうという事態になるので、今回このシャンちゃんには注意をしに来たという訳だ。
ちなみにエルフにはバレても特に問題ない。元々限り無く数が少ないのに人間たちと隔離された所で生活を送っているからね。
これで任務半分は完了。よし、二つ目の問題に取り掛かることにする。二つ目は正直ちょっと難しい...
二つ目の任務、それは...
『シーナちゃん!ごめんなさいね、少し用事を頼んでもいいかしら?妖精と契約したリオっていうシーカーをやっている子がいるんだけど、その子を彼が今入っているパーティから脱退させて欲しいのよ。そしてパーティメンバーをそのまま直ぐに引退させて欲しいのよ。じゃあよろしく頼むわね!』
『ちょっ!?母様!?』
『あっ!今回ばかりはちょっくら痛い目に合わせてもプチッてやっちゃってもいいわよ!じゃあよろしく頼むわね〜!』
ということがあったのだ。
プチッとやっちゃっていい。まあつまり間違えて殺しちゃってもいいって言うことだ。最低でも現役を引退させるほどに治らない傷を負わせる事が任務というわけだ。
この世界は四肢が分断されたりしない限りお金を積めば治癒魔法でいくらでも治ってしまう世界。病気は治らないが今回母様にはすぐ済ませるよう言われている。つまりそれは彼らが今後シャンちゃんにとって害をなす存在になるという事を指すわけで...
母神セルレイトラルは融和を望む。
妖精は一人が怒ると周りもつられて同じ相手に敵対感情を向けて自然災害を引き起こすことが稀にある。それが大都市プリューム近郊で引き起こされなどしたらそれは大変な事だ。
パーティの人達が妖精に愛されるリオなる者を蔑ろにすることで、妖精が怒りを抱く可能性が大いにある。それだけは聖地であるプリュームで起こされては困るのだ。
そして、なんで神が妖精のことを気にかけているかと言うと...
神は、神の核を元に、神気によって存在しており、その下に天使という存在があって、それは人間の魂を核に、神から授かった神気で存在しているもの、その下にいるのが妖精で、天使から貰った神気を核に、魔素を使って存在をしているもの、そして精霊が妖精から授かった魔素の核で、地上の物を使って実体を得たもののことなのだ。
つまり何かと妖精とは繋がっている部分がある。まあ、神の眷属の眷属と言えばわかりやすいだろうか。だからセーレル教は妖精も信仰の対象となっているのだ。
まあ女神の私からしたら大切で可愛い妖精ちゃんを脅かすゴミの処理なんて簡単なのだけど、これはおそらく平和な世界から来た人間出身の女神としての母様からの試練でもあるのだろうと察した。
何気に私はこの世界に来てから誰一人殺してなければ怪我もさせ...いや、リーナに羽を刺したわね...とは言ってもそれくらいだ。母様は恐らく私が人を殺せないと思ってるわ。
でも一つだけ言わせて欲しい。無駄な殺生はしないって言うルールじゃありませんでしたっけ?それを私は忠実に従っていただけで...
言い訳ですね。
私は苦しい痛みを続けて与える行為は好きじゃない。なぜ?それは叫ばれるとうるさいから。別に同情することなんてないし?
まあ今回母様は私を女神として強くなるための試練を用意してくれたというわけです。母様からすれば、『女神なるもの一捻りくらいして見せなさい』と私に言いたい所なのだろう。もちろん、無下にする気は一欠片もありませんけど。
ちなみに監視しやすいように、入隊する条件としてリオをパーティに残せって言ったけど、正直その必要なかったかなって今では後悔している。
パーティに招待してきたのはあの男だったのだ。どうせ性交目的だろう。見てすぐにわかるよそんなの。でも残念。私は都合のいい光のせいでまだ一人でいじった事も見た事も無いの。だから真の私の姿を最初に見るのは私って決まってるの。まあそもそも男はお断りだけどね。
-------------------------
特に何も無く帰ってきた。
何故かリオが最初の時みたいな威勢のいい雰囲気が消えて落ち込んでいるけど。
「よっしゃー!今日は沢山稼げたし!新メンバー加入を祝して飲みまくるぜー!!」
おー、ナザールって案外人の為にお金使うのね。意外すぎて特に何も無い。少々見直したと思った。しかし、
「おい雑用、居酒屋準備してこい、六人分の席を用意しておけよ。もちろん支払いはお前もだけどな!ハッハッハッ!」
「えっ...あ...はい...」
前言撤回、こいつゴミだわ。こういうのマジで見てられない。いじめを見るのが辛くて見てられないんじゃなくて、ゴミによるゴミな行動を見続けたくない。何故かって?それは私の目が腐るから。
「大丈夫ですよリオさん。私が準備してきますね。パーティの先輩方にそんなことさせれませんし、今日私は何もできませんでしたから食事会の準備くらいさせて欲しいです。」
目をウルウルさせて下から目線でナザールを見る。リーナの得意技だが少し真似させてもらう。それを見たレイナとシアがクスッと笑った。
「おぉぉぉおおお!!なんていい子なんだ!チェッ、先輩なんて雑用なんかには勿体ない言葉だぜ。シーナちゃんはこんな雑用を庇ってないで俺と楽しいことし───」
「やっぱり雑用とは志が違うわね!私を先輩とはわかっているじゃない!これからも私を敬っ───」
「フンッ、お前みたいな雑用と違って強者はこういう気遣いもあたりまえのようにするのだよ。おまえと違っ───」
こいつらここぞとばかりに調子に乗ってくるわね。人を人と比較するなっての。もう比較っていう概念そのものを消してやろうかしら。と思っていたが、明らかにイラついている私の正面にレイナが慌てるようにして割って入った。
「さ、さて、私も手伝わせていただきますわ!」
お〜、ナイスフォローレイナ!怒りが溜まっている私を察したのか、レイナがパーティメンバー共のどうでもいい言葉を遮ってくれた。
これ以上聞いてたら私の綺麗な綺麗な耳が腐り落ちてしまうところだった。本当によくもまあそんなテンプレなゴミ発言をできますよね。ってかそんな三方向から同時に話さないでください。全部聞き取れちゃう私の身にもなって欲しいものです。
-----
そういえば耳というワードで思い出したどうでもいい話だけど、神様って幼体から脱すると耳がエルフみたいに長くなるらしい。実際母様や父様、周りの皆がそうだったから私だけ違かったのかな〜なんて思ったけど、そんな理由だったのかなんて思ったりした。
ちなみに幼体脱出の瞬間はあの都合のいい光が消えた時なんだとか。
-----
「おー!じゃあ!私も手伝うよ!」
絶対に状況を理解していないシアもレイナの作った流れに乗ってくれた。
「じゃあ今日は新人ちゃん達にお願いしちゃおっかなぁーはははぁ〜ん。」
と、なかなか平民街ではお目にかかれない絶世の美人たちと食事が…いや、話して尊敬されていることに興奮を抑えきれないのだろうか。顔を赤くしてはぁはぁしながらナザールが私たちに向かってお願いした。
うひょーっ、背筋が凍るっす...マジやめて欲しいっす。最早敬語でお願いしたいレベルっす。
私は今ここで好きでもない男に言い寄られる気持ち悪さというものを体験し実感した。
私はシアとレイナを呼んで、この気持ち悪さの憂さ晴らしに、とある作戦を立てることにしたのだった。ちなみにレイナもアイツらのこと嫌いっぽかったので大賛成してくれた。
今から私達がするのはちょっとした意地悪。その名も"最後の晩餐"計画である。
それはどういう計画かと言うと...
バーーーーン!!
と、効果音を流したくなるくらい立派なコース料理がテーブルクロスの敷かれたテーブルの上に並ぶ。貴族学校に通っている子達をナメたらあかんよ。料理なんてテーブルマナーが必要なコース料理しか知らないんだから。
へっへっへっ、どうだ、ちょっと嫌だろう!!
ナザール達の方を見てみると、リオ以外はみんな目の前に広がる光景にポカーンと口と目を大きく開けて言葉を失っていた。
私とレイナとシアは表面上では淑女らしく見せつつも、机の下で静かにハイタッチをするのであった。