(オープニング話) 雑用スキル
私は今日も朝早くから教会に足を運んだ。掲げられた二重神輪の上の窓から朝の白く優しい光が差し込んでくる。朝の光はシーナのよう、夕の光りはセルレイトラル様のよう。私はこれを見る度にそんな事を思い浮かべる。
白く清く現実を見せる朝の光と暖かく橙に柔らかく包む母性のような夕の光。
そんな二神がこの世界を見てくれているのだと思うととても感慨深い。
私は朝のお祈りを終えて協会の扉に手をかけた。扉を開ければ、白い光が石畳の地面を照らしていて、昼や夕方とはまた違う世界に見える。
私は教会の扉を閉じ切ると、「そこの君〜!教会の扉を開けてくれ〜!!」という男性の叫び声が聞こえた。何かと思ってT字路の左側を見ると、聖騎士と呼ばれる教会の騎士達が一人の少年(?)を腕に抱えたまま物凄い勢いで走ってきた。
少年と思わしき子は口を縛られ「]*$¥$$+?[/$/+;!!」と言った感じで何を言ってるのか聞き取れない。でも今までの15年間でこんなことは無かったので、ただならぬ急ぎの事態ということだけはわかった。
まあ聖騎士団に教会に連れていかれる事態なんてセーレル教の禁忌を破ったくらいしか想像はつきませんけどね。シーナに聞いたら何か分かるでしょうか、
私は気になってしょうがないので走って寮に戻って、直ぐにシーナに聞きに行きました。
コンコンコン
「シーナ!私ですわ!」
早朝5時、私はシーナの部屋の扉を鳴らしてシーナを呼ぶと、
『なんて時間に起こすんですか!もう少し寝かせてください!』
と、頭の中に声がかかってきた。
シーナはお休み中のようです。っていうか、神様も寝るんですね。
あ、後日談ですけど、神様も人の姿になっている時は身体も人に近い為寝るらしいです。
あと関係ないけど、正直私は神様の姿のシーナよりも人間の姿のシーナの方が好きです。だって神様のシーナは肌が真っ白で、なんか身体中に光の模様浮かんでますし色々と出てて、浮いてて、初めての親友が遠い存在に感じてしまうからです。人間の姿なら色々出てませんし、肌も人間の色なのでなんか近寄りやすいというか、
まあいろいろあるのです。
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僕の名前はリオ=アーラ=ダンサラー、男です!ここ重要。男です!僕のコンプレックスは誰もが一目見た時に「女の子?」と言われる見た目です。
ダンサラー家は召喚士の一家で、父上は国王を護る聖獣フェンリルを使役しています。父上はとてもかっこいいです。男らしくて伝説の聖獣フェンリルまで召喚して使役して...
父上は召喚士の憧れです。召喚士は落ちこぼれスキルとよく言われます。普通の人じゃ聖獣どころか、闘える魔獣すら契約できません。なので探索者のパーティを組めば、どの召喚士も雑用しかさせて貰えません。雑用スキルなんて言われてしまうくらいです...
実は僕も既にパーティに入ってシーカーとしての活動をしているのですけど...
「オイ雑用!もっと速く歩け!これじゃあ進める所まで行けねーんだよ。お・ま・えのせいでな!」
ドスッ...
「うっ...」
「なにこれ本当に貴族なの?こんな見た目じゃアソコも期待できなさそうね、ほんと、夜の伽もまともに出来ない坊ちゃんのくせによくシーカーになろうなんて思ったわね。」
「相手をするな。弱い者は認めん。強くなる見込みの無い者に興味は無い。」
こんな感じでパーティメンバーに殴られては罵倒され、分配金は五分にも満たない。そんな毎日です。
唯一の楽しみと言えば学院に通って魔法や神話、学門を学ぶ事です。先週洗礼の儀があって予想通り召喚士を受け賜り、そのまま召喚の儀に移ったわけですが、ちょっとそこで問題が発生してしまいまして、僕が召喚したのが聖獣でも魔獣でもなく、精霊だったのです。そして何も知らずにそのまま精霊さんと仲良くなって契約してしまったのが良くなかったんです。
『え!?リオ私との契約嫌!?』
おっと、心の声に反応して出てきてしまった。この子が僕の契約精霊のシャンちゃん。
ふわっと光の球が出てきて、小さな女の子の姿に変わって僕の顔の周りをクルクル飛び回る。
「いいや、むしろ嬉しいよ。ありがとうシャンちゃん!」
『私リオ大好きー!』
そう。妖精。妖精を召喚した人は今までいなかったらしく、天使、妖精、精霊を神の眷属として信仰の対象にもしている教会は、人間が妖精と契約する事を禁忌と判断し、召喚の儀の際シャンと契約して直ぐに聖騎士団の人達に担がれて連行されてしまった。
シャンが「やだ!リオ離さないとお姉様方に言いつけるもん!」と怒り始めてしまったので、僕も一応釈放された。確かに信仰の対象に断りを入れられたらどうしようもないよね。
そんなシャンの使える能力は光魔法全部!万能でも聖騎士さん達に『妖精様を酷使させてみろぉ…俺は貴様をムッコ○ス!』っていう視線を向けられたので、『魔法ならなんでも無限に同時に出せるよー!』というシャンと言えど、疲れはあるだろうからあまり能力は使わせていないんだ。
強いて言うならパーティにかける広範囲身体強化と広範囲自動治癒の二つ。光魔法が得意とする身体系の魔法ですね。
シーカーになってまだ一週間程しか経っていませんが、僕の所属するパーティ"N"は順調にランクを上げてEランクからCまでたどり着きました。
僕の扱いは日に日に酷くなって、正直探索になんて行きたくありません。でも僕の苦しみは学校に行けば吹っ飛びます。実は僕、好きな人がいるんです。
なんというか、とても高嶺の花なんです。姓はあるけど、アーラの文字を介して無いのでおそらく上級平民の子だと思うのですが、平民とは思えないくらい綺麗なんです。本当に人間かどうか疑うくらいに。
彼女はあまり笑いませんし、極一部の人以外話している所を見たことがありません。それは高等部に入学してからも同じで男性と話しているところはリーナさんの取り巻きの男性に難癖つけられて言い返している時くらいでした。
まあ、そのなんというか、彼女の周りだけ並々ならぬ雰囲気というか、花園というか、男子禁制みたいな雰囲気が漂っているので僕自身話したことは無いんですけどね...
でも彼女の姿を見れさえすれば毎日の心労なんて一瞬で吹き飛んでしまいますよ!
っと、こんな感じでずっと彼女のことを考えながら僕は憂鬱の間に向かって行きました。そうしていれば辛いことも忘れていられるから。
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「...え?」
「あ〜?ったく、オメーに会わせるつもりなんてなかったんだけどな、まあしょうがねえ、おい、挨拶しろよ。」
「え...あっ...リオ=アーラ=ダンサラーです!よ、よろしくお願いします!!」
「ええ。よろしくお願いするわね、ダンサラー様。シーナよ。」
「私はレイナですわ。リオさんでしたわね。よろしくお願いしますわ。」
「セルシアでーっす。よろしくリオ〜。」
なんと花園三人がこのパーティNに入隊したのだ!挨拶とはいえはじめて話せた事に感動を通り越して興奮してしまう。
「キャッハッハッハ!何こいつ童貞みたいな挨拶してんの?恥ずかしくないの?マジキモすぎんだけど。あとこんな奴に様なんて付けなくていいよ!」
「強いやつを得るための対価だ。お前になど興味無い。」
相変わらず酷い扱いを受けちゃってるけど、実際僕は皆の役にたてていないからしょうがない...
挨拶が終わると早速探索を開始する事になった。このグループのリーダー、口が悪いけど剣の腕は確かなナズールさんと、クラスメイトであり、大国ソルニック王国王女のセルシア様が前衛。
セルシア様は先週の洗礼の儀で催眠の加護を授かったらしい。どんな生き物であろうと相手を洗脳できるので、セルシア様が魔獣を足止めさせてナズールさんがとどめを刺すというシンプルな戦法だ。
援護がリーダー同じく口が悪い女性魔法使いのシールズさんと、同じリングイング王国貴族のレイナ嬢。前衛よりもっと前で盾役となっているのが気難しい性格のジェイズさん。そしてヒーラーであり、僕が思いを寄せているシーナさんだ。
シャンはシーナさんの事を気に入ったのか、よくシーナさんの方に飛んで行っては楽しそうに話している。
なにか共通の話題でもあるのかな?今度シャンに聞いてみよう。
とりあえずシーナさん達三人は探索が初めてということで初心者がよく入る洞窟に入ることにした。初心者といっても少し深い所になれば、C級のシーカーでも苦戦するレベルの洞窟だ。僕に人を守れるほどの力があるとは思えないけど、こればっかりはシャンの力を借りてでもシーナさん達を守りたい!そう思った...
...んだけど
「オラァオラァオラァオラァア!!」
ドスッ!グサッ!ズザザザザッ!!ザシュッ!
「...」
「...」
「...」
後衛組、ものすごく暇です。
前衛組がセルシア様の催眠魔法とナザールさんの剣のコンビネーションで敵が一匹も回ってこない。そもそも魔獣がセルシア様の催眠魔法で動かないから怪我する人もいないし、やっぱり僕って必要ないのかな...
好きな人の前でも格好がつかず、男としては恥ずかしい、なんとも虚しい探索になってしまったのであった。