(閑話) ll ・ 洗礼の儀サプライズ
【どうか我々に、貴方様の加護を...】
学院の生徒+学院に通わなかった他国の帰属子息といった面子でプリューム中央教会は埋まり、不気味なほど揃ったおよそ100人の声は女神(自動加護付与機)の元に届いた...?
正直私は何も感じなかった。まあ気づくのなら毎年気がつくものね。皆の声が私自身に届かない事は薄々気づいていた。
一番最初に声を揃えて祈りをすると、急に一人一人別々に「お願いします!」「私に加護を!」「ああ、女神さま!」と、正座して何度も何度も頭を下げていた。
するとポツポツと首元か光り始める生徒や貴族子息達が現れる。実際光っているのは鎖骨上窩に出現した神輪の聖紋で、神輪の聖紋が発現した者から前に向かって歩き、鑑定の加護を持つ神官に、自分が何の加護を貰ったのか教えて貰うのだ。それが終わったら洗礼の儀は終わり。終わった人から教会を出ていく。
「あー、めがみさまー、かごくださーい、わー」私も適当にみんなに合わせて棒読みで自分への祈りを捧げる。こんな悲しいこと、ない。
ちなみにレイナは私の隣で必死になって祈っている。というよりなんというか、他の人たちに比べて祈りのレベルが違う。
「あぁ、親愛なる女神シェイアスエルナ様、セルレイトラル様、以前も助けていただいたのに不躾なお願いにはございますがどうかこの何も持たぬ私に貴方様方の愛を分け与えて欲しく存じます。あぁ、どうか、どうかお願いします、」
そんな事しなくても、元々レイナにとっていいスキルを渡す予定だったけどね。というかレイナ、私が隣にいるってわかってやっているよね?さっきから目を瞑ってる風を装って稀にチラチラこっちを見て来るのやめてくれない?
実は今日、レイナにはサプライズがあるのだ。以前約束を守った礼に、洗礼の儀は楽しみにしててと言ってしまったのだが、正直何も思いつかなくて結局サプライズにしては豪勢な物(?)を用意する事になった。
じゃ、始めますか。
私は誰にも気づかれないようにレイナと一緒に転移した。
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シュッ
よし、ついたついた。
目の前はものすごく天井が高く、エンタシスの巨大な柱が並び、空間全てが白地に銀模様で統一された空間が広がっている。私たちがいる部屋は王座の間のような作りだが、まあその王座の間なのだが...
「シイイィィィーナァァァアアー!!」
「...へ?」
私が姿を元に戻すと娘探知のプロフェッショナル、父様がいち早く低空飛行で駆けつけて両手を開いて抱きつこうとして来る。うへぇ...めんどい、レイナがいるんだからやめてくんないかなぁ...スっと転移で避ければ父様は勢い余って後ろにある大きなドアにぶつかってそのまま倒れる。
「シーナちゃん...反抗期なのかい?パパ悲しいよぉ...」
「なんですかパパって、可愛さで好感度上げようとしても逆効果ですよ。落ち着いてくださいな、父様。」
フンッと振り返って、ワナワナと震えているレイナの後ろに回って両肩をポンッと持つ。
「母様。彼女が私の親友レイナです。」
私は誰も座っていない王座にそう声をかけると、羽が舞って光が降り注ぎ、母様が両手と背中の翼を大きく広げたまま空からふわふわと降りてきた。
...何この演出、初めて見た。
「し、ししししシーナ...さん?」
これにはレイナも色々な感情を顔に飽き足らず、体に出さずにはいられないようだ。身体をガクガクと震わせながら私を見ている。
「シーナちゃーん!」
空から降ってきたそれはもうバインバインなダイナマイトなお身体をされてる齢10000年を超える美女は私の母、セルレイトラル=ホープスだ。
「会ーいたかったーわー!」
と言いながら大きすぎる胸を揺らして私の顔にそれを押し付ける。
「うぐぅ...」
まあ、元男の私としてはこの状況、嬉しい限りなんですけどねぇ...ふへへへへ。おっと、顔が緩んでる、いかんいかん。
「あ、ああ、あ、、あ、」
レイナはもう気絶寸前といった感じだ。
「母様、普段あんな豪華な演出して王座に座ることないじゃないですか、『え〜だるい〜、シーナちゃんと離れたくない〜』なんて言って。」
「シーナちゃんは別なのよ!」
そういうと母様は私から離れて後ろでジタバタしてる父様を引きずって「よいしょ、」と、王座に座った。
「紹介します母様、彼女が私の親友、レイナ=アーラ=サンダバルドですよ。」
私の声でハッとしたのか、レイナはガチガチになりながら祈りの姿勢を取り、
「ご紹介に預かりました、れ、れれれれレイナ=あ、アーラra=サンザdバルドドデスッわ!!し、シーナsaッ様にっは、大変お!お世話ににniナナナってまっしゅ...」
と、歯をガチガチ震わせながら噛みまくりの挨拶を披露した。
「は〜いよく出来ました〜!私はシーナの母セルレイトラル=ホープスよ!いつもシーナと一緒にいてくれてありがとう。」
いや、『は〜いよく出来ました〜!』って、それもはや挨拶失敗の嫌味にしか聞こえないでしょ。でも母様は嫌味のつもりで言ってるつもりは更々ないと思う。
あと神は表情の変化が目で見たら分からないからレイナはなお表情と声のギャップに怖がっていると思う。
「い、いえ、そ、そんな...シーナさんだけでなくセルレイトラル様にもお会い出来るとは...私...ここで人生の運が尽きてしまったりしないでしょうか...」
どうやらサプライズは大成功のよう。レイナは顔を真っ赤にして、恥ずかしがってるのか嬉しいのかびっくりしたのか分からない。でも本来殺されるはずの洗礼の儀で殺されなかっただけでなく神直々に神界にご案内頂くなど何千年に一回という幸福。そりゃ複雑な気持ちにもなるよね。
「レイナさん」
「はい!」
「これからもずっとシーナの親友でいてあげてくださいね!」
「はい!」
う〜ん...この"ずっと"の意味、私は永遠と取った。これはレイナも人外コース確定かな...
「シーナ!お父さんもずっと一緒だよ!」
ぅへ〜...
私はやばい人を見る目を父様に向けた。キラッキラサラサラの金髪をサラッサラサラッサラ音を鳴らしながら私の方に近づいてくる父様は、私のその顔を見た瞬間に「ヒィッ!?」と言って母様の胸にぎゅうっと顔を押し付けてしくしくと泣き始めた。
「セール!シーナがぁぁ!シーナがぁぁ...」
「はいはい、そうねー、辛いわね〜。」
「...」
呆然とした無の顔で二神のやり取りを見届けるレイナ。どんな気持ちで見ているんだろうと、心を覗かせてもらうと...
「ぶふっ!...」
「どうしたの?シーナちゃん。」
「大丈夫か!シーナ!怪我はないか!お父さんが治し──」
「...?」
いや、放送事故レベルの事を考えてた。(表面だけ)クールの私にしてはキャラ崩壊のような吹き方をしてしまったけど、あれはマズイ。うんマズイ。
父様と母様が幼稚プレイを繰り広げてる妄想していた。
あの妄想を呆けた顔で想像できるのは多分だけどレイナくらいよ...
その後レイナは昔の勇者や聖女、魔王、邪神や大規模魔獣災害の時の話を聞いてた。それはもう目がキラッキラしてた。
教会から寮への帰り道の時、「勇者様が私と同中だったなんて〜!」とか言いながらふふふ〜んとスキップしたり回ったりしながら私の隣を歩いていた。それを隣で見ていたシアは「何の話?」って感じの顔をして、質問されたけど、答えられる話じゃないので「レイナがお祈り中眠っちゃって、その時、夢の中で楽しい夢を見れたそうですよ。」と、誤魔化した。
寮に到着して、私達はそれぞれの部屋に戻った。
ガチャ...
私は部屋の鍵を閉める。
「ふう...」
しまってたツノや翼を広げてベッドにダイブする。
ボフッ...
『あ〜生き返る〜...』
神様も疲れるのだ、心だけど。今日は朝から洗礼の儀でレイナと...
ここでシーナは大事なことを思い出した。
『あーっ!!レイナの洗礼!!』
思いっきり忘れてた。神界に案内して戻ってきた頃にはちょうど終わってみんな帰ってる感じだったからそのまま流されちゃったけど、レイナ、洗礼受けてない!
まあ、元々私が直々にあげる予定でもあったから別にいいんだけど...思ったが吉日!私はスーっと早速壁を通り抜けてれいなの部屋に入った。
「ヒィッ!?」
ガチャッ...
私のいきなりの登場に驚くレイナを見ながら部屋の鍵を閉める。駄目だぞレイナ君。女の子が部屋に鍵もかけずに無防備な姿をさらけ出すのは。前世の私のような、女に飢えた男たちが突撃部隊を結成して襲ってくる日が来るのかもしれないんだぞ!?
「シーナ!急に入ってこないで下さいまし!」
「私はレイナに洗礼をしに来ただけよ?あなた洗礼受けてないわよね?」
「あー...そういえばそうでしたわね...」
レイナは頬を人差し指で擦るような仕草をして視線を外す。
「私がレイナに聖紋を刻んであげるわ。」
「え?」
レイナが疑問の声を口にした時、既に私はレイナの喉仏の下にそっと手を添えて神気を流していた。すると他の人達よりも一回り小さな神輪が刻まれた。これは二重神輪の内側、つまり私を現す方の輪が刻まれたということになる。
この世界で私が初めて刻んだ聖紋になる。そして同時に唯一の私の聖紋でもある。
「はい。できたわ。」
「...ありがとうございます...あれ?小さい?これって...」
レイナは鏡の前まで歩いて自分の聖紋を見て違和感に気づいたようだ。
「そう、私の神輪。母様の内側にある円ね。私の初めての聖紋。」
「え!?そんな光栄なこと...他に...ない」
なんでも一番って嬉しいよねぇ。高校生の時結婚しなそうランキング一位にされた時はマジで屈辱だったけど。
「まあ加護は...おいおいわかるわ。」
「そ、そうですか、」
うん。だって簡単に『あんたの加護、こういうのだから、よろしく〜』とか言っても面白くないじゃん?それに私が与えた加護は危機の時に活躍するものだからそう簡単に使われたくもない。まあ、レイナはそんな心配ないだろうけど念の為ね。
「でも少なくともこの世界で一番幸せな加護には違いないわ」
「え?そんなのよろしいのでして?」
別になんら問題ない。革命起こしてなければ意味の無い殺生もして無いし、私自身は容姿以外全く目立っていないから。地上での掟は全く破ってない。
「だってあなた、初めての神の親友よ?そのくらいは当たり前よ〜。」
「あ、ありがとう...ございます?」
レイナは喜ぶべきなのか、自分だけこんないい思いをして良いのかとあやふやな気持ちを顔に出しながらも感謝してくれる。
「どういたしまして〜。では私は次の所に行ってくるわね〜じゃあまた明日会いましょうね!」
そう言って私はレイナの部屋の窓から街に出て、洗礼を受けれなかったあの子の元に向かうべく、地下へと潜っていくのでした。
無論レイナもこれからたくさん登場しますよ。
次回から新章に入ります。