爽やかな風があたしたちの新しい運命を祝福しているかのようだった。
ーー、独裁。
それはたった1人の人間が1個の国の全てを支配すること。
そこには自由も尊厳も認められない。
支配者が右といえば右を向き、左といえば左を向く。
逆らえば命はない。
奴が白といえば白だし、黒といえば白でも黒く見えなければならない。
拒めば殺される。
あたしが生まれたのはそんな国だった。
こんな国で長いこと育ってきてしまった。
そして、あたしの運命も例外ではなく独裁によって定められた。
ーー、強引な婚約。
あたしの見てくれか何か良くわからないが、あたしのことをひどく気に入った独裁者はある日、あたしを王宮に招いた。
"招いた"というのは厳密にいえば正しくない。
独裁者はあたしを王宮へと"誘拐"した。
まともに迫れば拒絶されるとわかっていたのだろう。
普通ならそれで諦めるだろうが、独裁者は違う。
権力を総動員して自分の願いを叶えようとするのだ。
まあ、そんなわけで私は独裁国家の秘密警察に誘拐された。
そして、独裁者との婚約話を一方的に進められたのだ。
独裁国家に慣れ親しんだあたしとはいえ、ここまで権力の被害者になると、自分の運命が無秩序に決められていくのが耐えられなかった。許せなかった。
だから、あたしは逃げ出すことにした。
失敗して殺されたって良い。
独裁者の良いなりの妻になるよりはマシだ。
せめてもの抵抗。抗いだった。
そして、この抗いによって、権力に踏み潰されたあたしの運命が潤いを伴って動き出した。
ーー、騎士団長との出会い。
あたし同様に独裁者に不満を持っていた騎士団長とあたしは意気投合し、共に国を抜け出した。
命からがらの脱走だった。
辿り着いたのは自然豊かで穏やかな大地。
爽やかな風があたしたちの新しい運命を祝福しているかのようだった。