切り替えて行こうか、生きるためにゃ…なぁ。
爺ちゃんが逝った訳だが…俺の暮らしが変わる訳ではない。
ただ自由にできる時間が増えたので、大物を狙い始めたりしたがな。
っても、鹿や猪に熊などだが。
森奥の洞窟から得られる鉱石から精製できるインゴット。
このインゴットから造られる荷台がある。
この荷台は頑丈だが軽くてな、車輪を付けて荷車として活用されている代物なんだわ。
けどな…実は、この荷台っと言うか、インゴットには秘密がさ。
晶石を扱うように、荷台へ力を注ぐと浮くんだわ。
森奥から得られる鉱石だけが有する能力なんだが、晶術師がこの金属製品に接する機会がないため、意外と知られてなかったりするんだ。
ただ、昔に空島だったと言われる森…そんな森奥だからこそ手に入るとのことでな。
この村近くの森も、実は空島の残骸なのだとか。
空島…それは、その名の通り、空に浮かぶ島だ。
村上空にも、時々空島が流れて来ることがな。
まぁ、黙視できるほど低い位置を浮かぶ空島は、地へ到る間近らしいのだが…
若い空島や、劣化してない空島は、視認可能な高度を浮かんでないそうな。
高山近くへ接近する空島へ、山から飛び乗ったと言う冒険譚を記した本を読んだことも。
小さい頃は、何時か空島へ行くのが夢だったんだわ。
まぁ、今は行く気はないがな。
そんな空島残骸から得られる金属から造られた荷台。
この荷台があるからこそ、大物が狙える訳だ。
何せ宙に浮かぶため、荷車を持ち込むには不向きな場所でも持ち込める。
そう、森奥へもな。
しかも晶石制御するのと同じく、正しく制御すれば重さを感じることもなく荷運びが可能なんだ。
そんな感じで浮かせた荷台へロープを引っ掛け、ロープを牽き牽き森奥へ。
爺ちゃんが逝ってから1ヶ月は過ぎた訳だが、葬儀から1週間後に村の鍛冶屋へ行くとな、店の親方が倒れていて大騒ぎに。
狩りの再開に向け、狩猟道具を整備して貰うために行ったんだがな。
まさか親方が倒れてるとは、思ってもみなかったよ。
どうも急ぎの仕事が入り、根を詰めたのが原因らしいな。
ちょうど息子夫婦が産まれた孫を連れて、嫁さんの実家へと。
女将さんと弟子である息子嫁の弟も同行したため、親方1人に。
そこへ急ぎの仕事がさ。
いや、無理やろ、それ。
ってもなぁ、隣領に巨獣が現れたため、急ぎ装備の整備をしたいとなれば…
領都の鍛冶屋が代替わりし、技量低下にて使い物にならなかったため、こんな僻地へも依頼がさ。
領都鍛冶屋が繁盛するのは結構なことなのだが、領都近郊の町や村の鍛冶屋が立ち行かないレベルてぇのはなぁ。
親方も領都鍛冶屋に客を取られ、この地へ流れて来た口なんだわ。
そんな親方を頼って来たとなれば…そら、断れんか…
親方は爺ちゃんとも仲が良かったんだが、通夜にも葬儀にも顔を出さなかったんでな、不信に思ってはいたんだが…まさか倒れてるとは…
忙し過ぎて爺ちゃんが身罷ったことも知らなかったってよ。
息子夫婦と弟子を呼び戻してからじゃ間に合わないてぇんでな、俺が手伝うことに。
まぁ、手が空いた時には、何度も手伝いに来たこともあるんでな、多少は役立ったようさね。
ただなぁ…整備した装備と、追加で作製した装備を運ぶ手段がな。
ここへ装備を運び込むのに無理をさせた荷車が破損してんだわ。
造った方が良いとなったんだが、材料が木材だと、ちと搬送には厳しい。
なので、森奥から件の鉱石を採って来て欲しいってことにな。
そんな訳で、森奥へと分け入ってる訳だが…
「ちっ、またか…」
こう言う時に限って獲物がな。
だが、この度は狩りに来た訳ではない。
なので、突っ掛かって来なければ、こちらから相手をしないんだが…
「なんで、今日に限って絡んで来やがるぅっ!」
この度、現れたのは鹿の晶獣だった訳だが…晶獣ばかりが現れ襲って来る。
この程度の晶獣に後れを取ることはないが、荷が増えるのはなぁ。
この度は大型の浮遊荷台を親方から借り受けてるとはいえ、勘弁して貰いたいものだ、ふぅ。