転機…って言われても…
何時ものように目が覚める。
日の出前の暁闇時だが、辺りは見渡せるな。
先ずは爺ちゃんの様子を見に行くか。
昨夜の食い振りから鑑みるに、体調は安定してるだろうが、歳が歳だしな。
自室を出て爺ちゃんの寝室へと。
「爺ちゃん、おはよ。
起きてっか?」
まぁ、年寄りの朝は早いから起きてるだろうがな。
その分、寝る時間が早いのだが…
んっ?おかしい…返事がない。
爺ちゃんが寝過ごしたか?
まぁ、たまには、そんなこともあるか…
寝かせておいても良いのだが、様子だけは確認しておくべきだろう。
「爺ちゃん、入るぞ」
そう断りを入れ、板戸を右へスライドさせ中へ。
爺ちゃんは仰向けで寝ており、俺が部屋へ入っても反応しない。
(たまには、こんなことも…な)
などと思いつつ、爺ちゃんの様子をな。
「爺ちゃん?」
ここまで近付いて反応しない?
身動ぎ1つしないんだが…
っか…胸が上下して無くないか?
違和感を感じた俺は、訝しく思いつつ爺ちゃんの口元へ手のひらを。
息して無くね?
慌てて手首を。
脈が…
「い、いや…冗談やろ…
嘘やん…昨日、あんなに飯を食っとったやん。
あんな、爺ちゃんさぁ、その冗談、おもろない。
おもろないかんなっ!
ええかげん、目ぇ開けぇやぁっ!」
無論、反応しない訳で…
しばらく茫然としていたら、隣に住む伯母が爺ちゃんの世話をしにな。
母方の姉である伯母は、産後の肥立ちが悪く亡くなった母の代わりに俺を育てくれた、育ての親的な存在だ。
親父が狩猟団遠征に随行した後からは、まさに親代わりでな。
結婚を契機に狩猟団を引退した親父が、複数の狩猟団でも難儀する巨獣討伐の助っ人として呼ばれたのは、俺が子供の頃でな。
そして…帰って来なかった…ん、だ…
若い衆を庇ったとか、巨獣討伐に多大な貢献をしたとか…残された俺達からしたら、賛美や勲章なんざぁ、要りゃしねぇ。
親父を返しやがれっ!ってな。
その頃から、さらに伯母には世話になっててな、頭が上がらない存在さね。
そんな伯母が部屋へと。
「声を掛けても反応しないから、どうしたのかと思ってたんだけど…
あんた、何してんだい?」
そう尋ねて来たんだが…
「ラナ伯母さん…」
茫然とした侭で、振り返る俺に異変を感じたのだろう。
「なんか…あったのかい?
まさか…」
「爺ちゃんが…爺ちゃんが…」
「父さんが、どう…はっ!まさか…」
反射的に頷くと…
「そう…頑張ったねぇ…
良く持ったほうさね」
涙声で爺ちゃんの頭を撫でるラナ伯母さん。
「どう言う意味?」
意味が分からず、尋ねるとだ。
生き物として寿命であり、快復する見込みはなかったのだとか。
薬師の婆さんが手を引いたのは、それが分かったかららしい。
「あんたが1人になるからって、なんとか生きるってさ。
薬師の婆さんがね。
「良く持ってるもんだ。
普通なら既にねぇ」
って言ってたからさ。
父さん、よっぽど、あんたを1人にしたくなかったんだねぇ」
そんなことがあったんだ…
爺ちゃん…頑張ってたんだ…
「知らなかった…言ってくれたら…」
「そら無理さね。
父さん、あんたに知られることだけは、避けていたからねぇ」
それからは爺さんの葬儀に追われることになった訳だが…
爺ちゃんって、こんなに慕われてたんだなぁ。
村中から爺ちゃんを悼んで集まってくれたよ。
まぁ、中には通夜の宴に便乗して飲んでた輩もな。
っても、年寄り衆が爺ちゃんを偲んで飲んでは、昔話に花を咲かせる感じだったがな。
そして爺ちゃんの墓は、母さんの隣に。
親父の墓も在るんだが…中は空だ。
巨獣と相討ちに近かったらしいが、身は無事ではなくてな。
体が戻って来ることはなかったかんな。
まぁ形見が代わりに埋まってるんだが、あの世で母さんに会えてれば良いだけどさ。
さて、1人になってしまったし…これから、どうするかねぇ。