狩りの後始末でもしますかね、いや、その前にメシだっ!
爺ちゃんの世話を終えた後は、俺の食事だ。
冷めたモツ鍋を温め直し、パンを軽く炙る。
さて、支度できたゆえ、食しますかね。
うむ、様々な部位のモツが入ったモツ鍋は、食感も味も口に入る具により異なる。
根菜類が旨味を吸い、柔らかく煮立てられてホロホロと。
葉野菜は別途追加で入れた分がシャキシャキってな。
炙ったパンが、鍋に合う。
口の中でモツ鍋のスープを吸ったパンが…
思わず一気に食べ尽くしてしまった。
しまったのだが…正直、少々もの足らん。
ゆえに、もう1つパンを炙ることに。
そして冷晶庫からモスカの晶果実より作ったジャムを取り出し、炙ったパンへ塗る。
爺ちゃんはパンへジャムを塗るのが嫌いなので塗らなかったのだが、俺は、これが好きでな。
モスカの季節になると晶果実を収穫して、大量に作って保存しているんだ。
パンへタップリとジャムを塗って食せば、口福な甘味が広がる訳で…
旨しっ!
町では砂糖なる物が、甘味の代表格として持て囃されているのだとか。
なので、町へ赴いた時に購入したことがある。
黒っぽい粉状のそれは、雑味が多く美味いとはな。
森林奥へ生える晶樹より得られる晶果実の糖度は高いが、雑味は少なくスッキリした甘さだ。
その旨味、いや、甘味を知っている俺からしたら、大枚叩いて砂糖を買う輩の気が知れんな。
とは言え、モスカの晶果実が得られるのは、晶樹が生える森の奥だ。
晶獣などの猛獣が徘徊し、さらに樹間を縫うように進むため視界が効かず迷い易い地でな、そのような場所へ行ける者は限られる訳で…
売れば砂糖以上の高値となるだろうが、俺が食うのが先決なので売らんよ。
ってもな、糖度が高い樹液を出す樹木から樹液を採取して、村へ卸していたりはする。
これが村の特産物あつかいになっているらしく、村長からの催促が煩わしくてな。
まぁ、通り道にて採取器を設置して帰りに回収する方法で採っているから、片手間ではあるのだが…
森奥への通り道に生える樹木よりも、森奥の晶樹から採る樹液の方が美味い。
だが、森の生き物に横取りされるため見張らないとならないんだよ。
だから、こちらは滅多に採取しない。
俺は狩人であり、樹液採取人ではない。
副業を本業にする気はないんでな。
さて、食事も終えたでな、獲物と採取物の処理でもしますかね。
内臓を抜いた鳥からは羽を抜く訳だが、これも商材になるから丁寧に、お湯に浸けつつ毟る。
後で更に洗浄を行うので、取り敢えずはここまでで良いだろう。
羽を毟った後は肉と骨に分ける。
骨は出汁を引く用に保存だな。
肉は熟成用の保冷晶庫へと。
次は兎の処理か…
皮を剥ぎ、肉と骨へと切り分けていく。
肉は熟成用保冷晶庫へ、骨は鳥骨と共に冷晶庫へと。
兎皮から余分な肉と獣脂をこそげ落とし、晶樹液から作った鞣し液へと浸ける。
普通の樹木から樹皮を剥ぎ作る鞣し液に比べ、ある晶樹より得る樹液を加工して作る鞣し液は効果が高い。
鞣す時間も数日で済むし、滑らかで靭やかなのに耐火対冷に優れ、防刃性や対衝撃性も増す代物だ。
無論、どの晶樹液を、どのように加工するのかは我が家の秘伝だがな。
さてっと…本日の狩り仕事は、これにて終了で良かろうかね。
深夜となっているし…寝ますかね。
しかし…光晶具が普及した今は遅くまで作業が可能だが、親父の時代には光源が限られていたため、夜遅くまでは作業ができなかったらしい。
なので、狩りを行った次の日は狩り後の処理に追われたそうだ。
晶具が普及した時代に生まれて良かったぜ。