帰村したが…さて
日が落ちる前に村へ辿り着いた俺は自宅へと。
戸口を開け入ると…
「リューヴかぇ?」っと問い掛けが。
「ああ、今帰った。
今日は鳥数羽に兎が2羽だ。
万華晶果実も採ってきたからな、後で持ってく。
今晩は鳥モツと兎モツの鍋にするでな、軽く後片付けした後で作るから、待っとってくれや」
そう爺ちゃんへと告げ、狩猟道具や採取物を片付けることに。
薬草は食後に処理することにして、篭から出して軽く仕分ける。
鳥と兎の解体も食後だな。
取り敢えずは保冷用の晶庫へ鳥と兎は収めておく。
荷を下ろした俺は、台所へと。
ひと昔前は薪で火を熾し調理していたそうだ。
水も井戸から汲み上げ水瓶へ貯めたりしたのを使ったりな。
今は晶具があるから、ひと昔前のような苦労はない。
先史文明の遺跡から出土した晶具コピー版が出回り、世に普及したのは親父世代らしい。
ただ、ここみたいな田舎へ広まったのは、俺が子供の頃だな。
幼い頃に薪ストーブで調理していたことを朧気ながらに覚えている。
冷晶庫からストックしていたスープと根菜と葉野菜を取り出す。
スープは焼き骨をベースに野菜くずと共に煮出して作った物だ。
暇を見付けて作り、冷晶庫へキープしているんだ。
なにせ、これをベースにするのと、しないのでは、味が全く違うのでな。
さて、調理なのだが…
まずはシンクにて冷晶庫から出した野菜類の処理からだ。
水晶器より水を出し汚れを落とていく。
その後で切り分けたるなどの下拵えをな。
野菜類は近隣の農家から肉と交換にて得ているものだ。
我が家の畑もあるのだが、爺ちゃんが体を壊してからは放置状態だな。
我が家は代々狩人の家系だからな、爺ちゃんが狩人を引退した後に趣味で耕していた程度なんだ。
森の小川にて下拵えしておいた、内臓系の可食部位を皮袋から取り出す。
氷晶石を起動して放り込んでおいたため、軽く凍っているが構わんだろう。
晶石を扱える者は晶術師と呼ばれ重用されるそうだが、俺は狩人なんでな、そんな者になるつもりはない。
だいたい部屋に閉じ籠り、晶種から晶石を精製したり、晶具を造ったりするなど、性に合わなんのでな。
内臓を切り分け、森で得た香辛料や香草に薬草をブレンドした、オリジナル調味料を塩と共に塗す。
それを暫し寝かせている間に、スープと根菜類を鍋へ。
鍋を煮ている間に、ニンニクと唐辛子の微塵切りをフライパンで炒め、そこへ下拵えしたモツを投入し炒める。
軽く炒めたそれを鍋へと投入し、灰汁を取りつつ暫く煮込んだ後で葉野菜を。
鍋が煮えたら椀へと盛り付け、パンと共に盆へ乗せる。
後は爺ちゃんの所へ持ってくだけだ。
おっと、万華晶果実も持っていかんとな。
アレは俺の好物ではあるのだが、爺ちゃんの好物でもある。
っか、アノ場所を教えてくれたのは爺ちゃんだかんなぁ~
出さんと機嫌を損ねるだろう。
爺ちゃんが体調を崩してから半月か…
「寝とけば、その内に治るわい」って、薬も飲まない。
薬師の婆さんも困り顔で、調薬を諦めたんだわ。
寝床から自力で起きられぬ爺ちゃんを、介添えしつつ起こす。
そして持って来たモツ鍋とパンを食べさせた。
「うむ、美味いのぅ。
リューヴは良い嫁になれるじゃろうて」
「いや、ボケたか、爺ちゃん?
俺は男だが?」
「うむうむ、確かに男の娘じゃったわぇ」
分かれば良いが…なんか引っ掛かるなぁ?
「しかし、儂の母や姉に瓜二つじゃて」
会ったこともない2人に似ていると言われてもなぁ…
「曾祖母さんって、傾国の美女とか言われてたんだったか?」
「覚えとったか?」
「結構な頻度で聞かされたからな」
爺ちゃんが酒を飲む度に聞かされたらな、そら覚えるわい。
「お袋…おまえの曾祖母さんを得ようと騒ぐ輩が煩わしくてな、ここへ引き籠もった訳じゃ。
逆に姉は「田舎は嫌っ!」っと、村を飛び出してからは、音沙汰なしじゃてのぅ。
はて、何処で何をしとるのやら…」
村を訪れる行商人と交渉して、村を離れたんだったか?
女の身空で、良くやったものだ。
そんな話をしつつ、爺さんはモツ鍋とパンを平らげ、万華晶果実も堪能したようだ。
満腹で果実が入らぬと、悔しがっていたが、これだけ食べれれば快癒までまもなくだろう。
俺は、そう思い安堵するのだった。