綺麗な物、汚い物全てに価値「は」ある。
物の価値は、それに沿った審美眼を持った場合でないと測ることはできない。
価値が疑う余地なく明らかになってしまったら、どうなってしまうのだろう……
僕はそう思った。
「佐藤。立ちなさい。」
その声でハッとして顔を上げ、立ち上がるとそれはいつものように教鞭を取り、ぼんやりとした生徒を吊るし上げている現代文講師の鈴木先生がいた。
どうやら、あまりの退屈さに物思いにふけってしまっていたみたいだ。そりゃそうだ。現代文なんて科目勉強して何になる?僕はもう日本語は充分過ぎるほど読んでる。
「どこを向いている。私の話なんて、聞かなくてもわかるようならこれからは林くんに教壇に立ってもらうよ。」
……。マズイ。正直言って僕の成績はあまり良くない。良くて中の中、悪い日には下の上だ。日本語を読んでいるとはいっても、登場人物の気持ちなんて分からない。超能力者じゃないんだから。
「すみません……。」
こう言って謝るしかない。
「ふん。座りなさい。」
なんだか勝ち誇ったような鈴木先生の態度に僕はちょっとムッとしたけど、まぁ悪いのは僕だと思い、すごすごと席に座った。
なんでもない一日だった。当然のように朝ごはんを食べて、友達と話して、お昼ご飯の後にうとうとして叱られる。
そんな半ルーティーン化した日々を、誰か、僕には想像もつかないような途方もなく偉い神様が変えたいと思ったのかもしれない。
どこかでページを捲るような、そんな音がした。