表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【ギャラクシードール戦役】 消えゆく希望
90/123

第89話 「家族」

 惑星オーディンの遥か上空に浮かぶ巨大な衛星。

 オーディンの中枢といえる機能が集約され、惑星よりもむしろこちらがオーディン本体と言えるのかもしれない。

 オーディンを作った一五人の優秀な科学者と技師たちは、今は独立したAIとなり『十五オーディン』として、異なった思考パターンによる演算の結果で合議し、オーディンの方針を決めている。

 集めた情報を全て渡し、現在の情勢から考え得るセントラルコロニーへの対策を協議して貰っていたのだ。


「これがオーディンの導き出した答えという事なのかい」


『天位の騎士よ。我々の演算では、この対処が最善と導き出されました』


「でも、本当にこれが……。いや、俺の力が無さ過ぎるからなのかな」


『貴方の偉大な力でも、ひとりで越えることは困難な事態もございます。もちろん、この戦略はあくまで我々からの提案。最終決定の権限は貴方に移譲されておりますので、我々は天位の騎士殿の決断に従い、必要とされれば別の対策を考えます』


「いや、異議が有る訳じゃないんだ。ただ、これだと余りにも……」


 十五オーディン達が導き出した対セントラルコロニーへの戦略。

 そこには過酷な現実が付き付けられていて、その対策として不安な戦略が示されていたのだ。

 けれども、あれこれと迷っている時間はなく、オーディンからの各国への提案を携え、ヤーパンとエルテリアへと向かわなけらばならなかった。


 ヤーパン国王との面談を待つ間、十五オーディンとの会話を思い出しながら、果たして受け入れて貰えるのか、不安な気持ちに苛まれていた。

 正しいとは信じている。でも、余りにも厳しい選択を迫っているのは間違いない。

 もし、ヤーパンが徹底抗戦を選んだとしたら、自分はどう立ち回れば良いのだろうか……。

 色々と考えを巡らせていると、入室を知らせる声が聞こえて来て、ヤーパン国王とイツラ姫が面談室に姿を現した。

 柔らかい所作で礼を執ると、二人は笑みを浮かべながら席についた。


「リオン殿。オーディンからの提案、確かに受け取った。正確な分析に大胆な戦略。オーディンから示された好意に感謝する」


「いえ、ヤーパンにとっては過酷な内容だと思います。容易な決断ではないはずですので、可否については閣議で決定するまで、ここでお待ちします」


「いや、無用の事じゃ。事前に連絡を貰い、既に閣議を終えて結論は出ておる。ヤーパンはオーディンからの提案を受け入れ、その方針に従うとな」


「本当に宜しいのですか……」


「ああ、皆でしっかりと話し合った結論じゃ。全てを貴殿に託すぞ」


「国王陛下……信頼を寄せて下さり感謝致します」


「構わぬ。我らとオーディンは一心同体。リオン殿、イツラを頼むぞ。娘が慣れ親しんだ乗艦と共に、選りすぐりの艦艇及び乗員を貴公らと共にさせる。残された国の事は儂らが何とかするゆえ心配なされるな」


「はい……」


 十五オーディン達が導き出した戦略は過酷なものだった。

 このままセントラルコロニーと全面戦争を行うと、勝率は数パーセント以下。セントラルコロニー国内で不測の事態でも起きない限り、こちらに勝機は無いという結果だったのだ。 

 もしこの戦いに勝とうと思うのならば、長い時間を掛けた周到な準備が必要で、その為に導き出された戦略は、ヤーパンとエルテリアにとって受け入れ難い条件のはずなのだ。

 大半の艦艇戦力を失う上に、その為に本国防衛を捨てる状態に陥ることになる。それでも、オーディンからの提案に、ヤーパンは先の見えない未来へと、国の運命を賭ける事を了承してくれたのだ。


 ────


 国王とイツラ姫との面談を終えホテルに戻ると、部屋でセシリアさんが待っていた。

 明日はヤーパンの艦隊と共に早々に発つ事になるが、どうしたのだろう。


「リオン、ちょっと付いて来て欲しい所があるのだけど」


「はあ」


「そんなに時間は取らせないから……」


 いつもは明るく笑みを絶やさないセシリアさんが、何となく沈んだ表情をしている。

 繁華街に飲みにでも連れて行かれるのかと思っていたけれど、そうではなさそうだ。


「わかりました。行きましょう」


「本当に! ありがとう」


 パッと表情が明るくなるセシリアさん。いつも心配してくれる彼女が、俺が付いて行くくらいで元気になってくれるのなら喜んでついて行こうと思う。




 車を降りて、賑やかな商店街を抜けると住宅街が見えて来た。五階建ての集合住宅が立ち並んでいる。

 今の時間は、コロニーの調光で夜になっているから、窓から色とりどりの部屋の灯りが溢れている。何だか暖かくて良い雰囲気だ。

 ここにも沢山の人の生活があって、きっと幸せに生きている。

 暖かな気持ちと共に、この暮らしを守りたいと、強い想いが胸に込み上げる。


 セシリアさんは、そのうちの一棟の階段を昇ると、三階のドアの呼び鈴を押した。

 どうやら、誰かの家を訪れるらしい。

 

「はーい」


 足音と共に明るい女性の声が聞こえ、直ぐに鉄製の扉が開いた。

 誰だか分からないけれど、何だか既視感が有る。誰かに似ていると思ったのだ。


「あら、セシリー久しぶりね。元気にしてた?」


「姉さん久しぶり。私は元気よ。皆はどう?」


「相変わらずよ。子供達も元気だし。兄貴の子供達といつもつるんで悪さばっかりしているわよ。それより、今日はどうしたの? 突然やって来て……あらっ! 男連れ!」


 迎えてくれた女性は、どうやらお姉さんらしい。既視感の理由が分かった。


「母さんは居る?」


「ええ、部屋に居るわよ。えっ! もしかしてこの人、あんたの結……」


「ち、違うわよ。彼に変なプレッシャー与えないで頂戴! 頑張っているんだから」


「ほー。いったい何を頑張っているのかしらー」


「に、任務よ任務。一緒に仕事を頑張っているのよ! 姉さん、これ以上余計な詮索はしないで頂戴。色々と困るから」


「あら、何に困るのかしらぁ。それにしても可愛らしい坊やね。あんたって年下趣味……」


 セシリアさんのお姉さんから、艶やかな視線を投げかけられて困ってしまった。何だかセシリアさんが二人いるみたいだ。


「姉さん! 困るのは軍事機密だからよ。変なこと言わないで!」


「ふーん。で、急に何しに来たの」


「次の任務でしばらく会えなくなるから、挨拶に寄っただけよ。リ、リオンさん、母と会って来るからここで少し待って居て下さい」


「は、はい」


 セシリアさんはブーツを脱いで部屋に上がると、直ぐに家の奥へと消えて行った。

 セシリアさんのお姉さんは、興味深々といった感じで俺を上から下まで眺め、含んだ笑みを浮かべながら部屋に戻って行った。何だろう……。

 そのまま手持ち無沙汰で待っていると、バタバタと足音がして、奥の部屋から男の子がふたりと女の子が飛び出して来た。

 俺の顔を見るや否や、迷わず駆け寄って来る。


「セシリアおばさんの男!」


「男!」


「だめだよ! セシリアお姉さんって言わないと怒られるよー」


「だって、俺らのおばさんじゃん」


「おばさんじゃん!」


「ねえ、あなたはセシリアお姉さんの彼氏さんなの?」


「はっ? えっ、いや、一緒にお仕事をしているだけだよー」


 子供たちのストレートな問い掛けに面を食らってしまう。


「えー。でも、お母さんが絶対違うって言ってたよー」


「そう! 絶対セシリーの男だって言ってた!」


「言ってたー!」


 セシリアさんのお姉さん、何てことを……。

 子供たちは目をキラキラと輝かせながら俺を見つめている。何だこの状況は……。


「ねえ、もうキスした?」


「きゃー! キスー!」


「キッス! キッス!」


「ちょっ、いきなり何の話に……。い、いや、してないよ!」


「嘘つき―! 彼氏なんだからキスしてるはず!」


「嘘つき―!」


「いや、だから……」


 元気な子供たちに絡まれて困っていると、セシリアさんがやっと戻って来てくれた。


「こらこら、あんた達なにやってるの! 早く部屋に戻りなさい! リオンさんごめんね」


 子供たちはセシリアさんに追われて、部屋の奥へと去って行った。取り敢えずひと安心だ。

 すると、入れ替わりに奥から年配の女性が出て来て、目の前で頭を下げられた。

 赤毛や眼の雰囲気がセシリアさんそっくりだ。


「……ねえねえ、セシリアお姉さん……」


 さっきの女の子が奥の部屋から顔だけ出して、セシリアさんを小声で手招きしている。

 呼ばれたセシリアさんが奥に行ってしまい、セシリアさんのお母さんと二人きりになってしまった。


「娘がお世話になっております」


「い、いえ、こちらこそ」


「いつも挨拶などしない娘がわざわざ来たという事は……。それなりの覚悟が必要になったという事なのですかね」


「それは……」


「もちろん娘は軍人ですから、会うたびに覚悟はしています。ですが、今回は大きな戦争が迫っていると聞いています」


「え、ええ」


「貴方がどの様なお立場の方かは分かりませんが、貴方と娘の命が無事である事を、亡き夫と共に祈っております」


「ありがとうございます」


「そうそう。これはお守りみたいなものだから、持っていて下さいな。どうぞご武運を」


 そう言うと、お母さんは小さな袋が付いたチャームをポケットに入れてくれた。


「ありがとうございます」


「どうか、娘を宜しくお願いします」


 お母さんから深々と頭を下げられてしまった。

 もちろん、セシリアさんの命も、皆の命も守り切るつもりだ。この暖かい家族の笑顔が奪われない様に……。


「はい。全力でお守りします」


「まあ、頼もしい。セシリアは見る目が有るわね」


 返答に何か変な感じを覚えたけれど、これはどう答えたら良いのだろう。

 そんな事を考えていたら、セシリアさんが玄関に戻って来た。


「お待たせしました。リオンさん、家族と会える時間を頂きありがとうございます」


「いえ……もう良いのですか?」


「はい、大丈夫です。行きましょう」


 セシリアさんの頬に紅がさしている。何だか嬉しそうだし、良い事でもあったのだろうか。

 ブーツを履く時に手を差し出し支えていると、お別れに出て来た子供たちが騒ぎ始めた。


「ほら! やっぱりラブラブだー」


「キャー! キスしてー!」


「キッス! キッス!」


「な、何を言っているの! リオンさんが困るでしょ!」


「ウフフフ」


「だってー!」


「はいはい、もう帰るわよ!」


 見送られ玄関の外に出て振り返ると、全員が笑顔で手を振っていた。何とも暖かい家族だ。

 セシリアさんの家族の優しさに触れる事が出来て、胸が暖かくなっていた。連れて来て貰って良かったと思う。


「ねえ、リオンちゃん」


「はい」


「ちょっと失礼」


「えっ、むぐっ……」


 目を(つぶ)ったセシリアさんの顔が目の前にあり、柔らかい唇の感触と優しい香りが鼻腔に広がっていた……。

 直後に勢いよくドアを閉める音がした途端、玄関の中から歓声が沸き起こる。


「ごめんね、リオンちゃん。家族を安心させたくって」


 唇を離したセシリアさんが、いたずらっ子の様な表情で覗き込んでいた。

 何が起きたのか理解できて、急激に顔が火照りだす。胸のドキドキが止まらない。


「せ、セシリアさん。そ、それだと皆さん勘違いしてしまいますよ」


「良いの良いの、気にしないで。ほら、口紅が付いたままよ」


 セシリアさんから子供の様にハンカチで口を拭かれ、優しく頭を撫でられた。

 いったいこれはどういう扱いなのだろう。俺は彼女にとって、まだまだ子供なのだろうか……。


「さてと、実家に付き合ってくれたお礼に……ヤーパンの夜の街を案内するわね!」


「え、イーリスに戻らないんですか」


「出発は明日でしょう。二人の夜は今からよ! さあ、リオンちゃん行くわよ!」


「ええぇぇぇ」


いつも読んで頂きありがとうございます!

今話を読んで頂いて、ちょっとほっこりして頂けたなら幸いです。


皆様から頂く『☆評価』や『いいね!』&ブックマークがエネルギーになります。

そして、「楽しいよ」とか「作者はもっと頑張れー!」とか、一言でも良いのでコメントを書き込んで頂けたら本当に嬉しいです。


そして、遂に目標にしていた総合評価で『1000pt』を頂く事ができました。

嬉しいなぁ。

皆様からの反響が執筆の力になっています!

本当にありがとうございます!



これからも『アルテミスの祈り』を宜しくお願いします。


いつもありがとうございます。



磨糠まぬか 羽丹王はにお


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ