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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【ギャラクシードール戦役】 消えゆく希望
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第84話 「三機のGD」

『うふっ! 雑魚(ざこ)いわねぇ。こんなのに苦戦していたとかお笑い(ぐさ)ね』


『リーザ。そんな事言っている暇があったら一隻でも多く堕とせ。そろそろ時間だ』


『煩いわねクソ兄貴! 言われなくてもやるってばぁ。ばーかっ』


 古代の戦士の如き甲冑を纏った巨人。

 頭頂部に斧の片刃を模したツノがあしらわれ、左アーム部にドーム状の丸い盾を備え、背には大きな両刃の斧が固定されているのが見て取れる。 

 ショッキングピンクで各所を彩った巨大な機体が、統率を失い混乱状態に陥っている艦隊へと飛び込み、その後をオレンジに彩られた機体が続いた。


「まあ、及第点ってところかな……」


 近接武器の斧を振るい、次々と艦艇を引き裂いていくピンクとオレンジの機体。その動きを見守っていたダークグリーンの機体にブーストの炎が灯り、二機を猛追する。

 受けに回っている艦隊が猛スピードで突き進む三機に集中砲火を浴びせるが、巨人は激しい攻撃をいとも容易く躱し、攻撃範囲に入った艦艇を容赦なく火球へと変えて行く。

 彼らの機体と比べると半分ほどのサイズしかない黒色とグレーのGWが、艦艇を守るべく周囲を囲い近接戦闘を挑んでいるが、全く歯が立たず、こちらも無為に火球の数を増やすだけであった。


 巨人から繰り出される艦砲射撃級の強烈な粒子レーザーによる攻撃を防ぐ為に、艦隊の周囲には粒子レーザー拡散チャフが高濃度で散布されている。

 本来であれば、この間にGW隊により敵機の接近を防ぎつつ隊列を整え反撃に備えるか、もしくは後方へと艦隊を撤退させる時間を作るのだが、この艦隊には撤退する後方は存在しない。

 彼らの背後で巨大な円筒形の姿を宙域へと浮かび上がらせているのは、ドロシア共和コロニー群の首都コロニーだからだ。


「防衛ラインを死守せよ。いかなる状況になろうとも、敵をこの宙域で押し留めるのだ」


 ドロシア軍の旗艦『スカイスタバルティヤ』。

 艦体には国旗が描かれ、ドロシア軍人はもちろんのこと、国の象徴として国民に愛されている大型艦艇だ。

 その艦橋の最上段に座り全軍の指揮を執っているのは、ドロシア軍最高齢の名誉元帥だが、彼の的確な判断によりドロシア軍は圧倒的に不利な戦局をなんとか持ちこたえていた。


「皆あともう少し頑張ってくれ。ドロシアの未来のために今しばらくの時間が必要なのだ」


 ドロシアの首都コロニーを守る艦隊の最終防衛ラインは、決死の状況に追い込まれていた。

 圧倒的な戦力差により、成すすべもなく打ち減らされて行く艦隊。既に勝敗の趨勢(すうせい)は明らかなのだが、彼らは諦める事なく抗戦を続けている。


「元帥閣下。閣下と再びご一緒出来た事、光栄に存じます」


「勝てる見込みのない戦いに巻き込んでしまい済まんな」


「何をおっしゃいます。われわれジジイが若者の未来を繋がずに如何致しますや」


 実はドロシアの首都コロニーを守る防衛部隊では、出撃前に大幅な人事異動が行われた。

 現宙域で戦っているのは退役軍人を中心とした年輩の者達ばかり。彼らの言う所の「ひよっこ」は乗艦していない。

 そのひよっこ達は重要な任務を遂行すべく別の宙域へと向かっている。彼らは圧倒的な脅威を前に、決死の覚悟でひよっこ達に後事を託したのだった。


「……結局、国王陛下は残られたのですか」


「ああ。説得したが、頑として聞き入れて下さらんかった。この戦争の責任を一身に背負われるおつもりなのだ」


「なんと……王族の方々には既に象徴としてのお立場しかございませんのに。責任などと」


「儂もそう伝えたが、自分に統帥権とうすいけんが有ったのならば、この戦争を五年以上前に始めていた。政府を焚きつけたのは自分だと笑っておられたよ」


「その様な……」


「自らを犠牲にされて、他の者への戦争責任の追及を防ぐおつもりなのだ。なれば我々もドロシアの未来の為に死力を尽くさねばなるまい」


「ルカ王子の創られる新たなドロシアを、軍神となって見守りましょう」


「ああ、儂らよりも一〇歳も若いくせに先に逝ったムルガン中将……いや元帥にじょされた彼に先輩面されるのもしゃくじゃがな」


「まさか左翼方面隊があれ程短期間で壊滅しようとは思ってもいませんでしたな」


「ああ、現宙域での敵の戦力を見れば納得じゃが……おおっ」


 その時、艦体が大きく揺れ、艦橋に居た者達が一斉に体勢を崩した。


「何事だ」


「敵大型GWによる攻撃です」


「もうここまで抜けて来たというのか。防衛ラインを突破されぬよう全力で死守せよ!」


 スカイスタバルティヤに接近している三機のGDに向けて速射砲が火を噴き、追尾型ミサイルが一斉に放たれた。旗艦の防衛位置に素早く移動した随行艦からも同様の攻撃が始まる。

 GWよりも大きく当てやすい的に見えるGD。その機体へ向けて幾重もの攻撃が殺到し、被弾は確実だと思われた。しかし、三機はスルスルと滑らかに攻撃を躱し、艦隊の後方へと抜ける動きを見せる。

 その動きに対し、最終防衛ラインを構築していた艦艇が前方スラスターを一斉に焚き、周辺に展開していたGW隊と供にラインを押し下げ更に砲火を集中させる。

 三色のカラーリングが施されたGDは、十字砲火を浴び確実に撃墜されるかに見えた。だが、壁に当たり跳ね返るかのような機敏な動きで攻撃を掻い潜って行く。とても巨大な機体とは思えない動きだ。

 遂にはドロシア軍艦艇のひしめく宙域を潜り抜け、首都コロニーの浮かぶ後方宙域へと侵入を果たした。


「何のつもりだ?」


 スカイスタバルティヤの艦橋だけではなく、三機の行動を確認した全ての艦艇で同じ言葉が交わされていた。

 首都である巨大コロニーは分厚い硬質の壁に包まれ、宇宙港などの侵入口も隔壁で幾重にも守られている。攻城戦ではないが、掘削工事をするかの様な攻撃を続けなければ、コロニー内部へは侵入できない。

 いくら強力とは言え、数機の大型GWによる攻撃では殆ど影響はない。かすり傷を負わせる程度でしかないはずなのだ。

 ましてや首都コロニーは一般市民が数千万人という規模で住んでいる場所であり、軍事用コロニーでない限り攻撃の対象にはなり得ないのだ。

 コロニー占領戦は、守備艦隊を壊滅させた後、艦隊で包囲し降伏させるというのが定石になる。

 ところが、防衛ラインを潜り抜けたGD三機は、その首都コロニーへ向けて迷わず駒を進めたのだった。

 想定外の行動だが、スカイスタバルティヤと艦隊の後衛部隊はGW部隊と共に転進して、三機の後を追う。


 三機のGDは追い付かれる事なく、コロニー表面へと取り付いた。

 コロニーに配備されているGW部隊や防衛兵器が防戦を始めるや否や、ピンクの機体が素早く対応する。

 数的に圧倒的に有利なはずの防衛部隊だが、その驚異的な動きに対抗できる者はおらず、次々と破壊され、まるで導火線で繋がれているかの様に宙域に火球が連なって行く。

 そしてオレンジの機体がコロニー外郭部へと何かを設置すると、大型ミサイルが着弾したかのような火柱が上がった。薄皮の一枚に過ぎないが、コロニー外郭の一部が破壊されたのだ。


「コロニーに本気で穴を空けるつもりなのか。有り得ないが万が一の事もある。全力で排除せよ」


 旗艦からの指示に、転進して来たGW隊が一斉にコロニー表面へと取り付き、自軍の攻撃がコロニー外壁へ被害を出さないように、水平方向から三機のGDへと攻撃を加え始めた。

 だが、ピンクとディープグリーンの二機が素早く迎撃体勢を取り、コロニーへの破壊活動を続けるオレンジの機体には近づく事すら出来ない。

 艦隊も自国のコロニーに向けて砲撃を行う訳にはいかず、一定距離を保ちながら戦況を見守る事しか出来なかった。




 ドロシア側のGWやコロニーの防衛兵器が、無為に火球に変えられる状況が続くなか、オレンジのGDがコロニー外郭表面へと強力な粒子レーザーを撃ち込み始めた。それにより状況が一変する。

 強力な粒子レーザーによる攻撃で、遂にコロニー表層に穴が穿うがたれたのだ。

 この攻撃を続けられると、穴は次第にコロニー内部にまで至り、貫通した時点で大惨事が引き起こされる。ドロシア軍全体に動揺が走った。

 その動揺を見透かしたように、ディープグリーンのGDがコロニー表面から離脱し、艦隊に向けて一気に加速。そのままスカイスタバルティヤに迫り急停止した。

 間を置かずオープン回線で通信が開かれる。


『ドロシア軍に告ぐ。即刻攻撃を停止し降伏せよ。拒むのならば貴国のコロニーを破壊する』


 巨大な敵機からの通告に、スカイスタバルティヤの艦橋が騒めく。あり得ない要求なのだ。


「馬鹿な。あれは民間人の居住コロニーだぞ。完全な条約違反だ!」


 怒号が飛び交う中、旗艦から同様の返信が発せられた。


『いま一度通告する……我々が攻撃しているのは、世界に戦乱をもたらした軍国主義国家の軍事コロニーだ。破壊する事に躊躇ちゅうちょはしない』


 その間も破壊箇所に取り付いているGDを排除しようと激しい攻撃が続いているが、ショッキングピンクの機体の驚異的な動きに取り付く事すら出来ていない。

 そして、オレンジの機体から艦砲射撃級の粒子レーザーが再び撃ち込まれ、破壊されたコロニーの外郭がデブリと化して宙域へと漂って行く。

 その状況をモニター越しに見つめていた名誉元帥が頭を垂れた。


「全軍攻撃停止」


 旗艦から発せられた指示が行きわたるまで多少の間があったものの、ドロシア軍の攻撃が完全に沈黙した。


『全艦白旗を掲げ武装解除せよ』


 ディープグリーンのGDより更に要求が付き付けられる。


「元帥閣下」


「死に損なったか。だが、もう良い頃合いだろう。首都に住む国民を犠牲になど出来ぬ」


「では……」


 ドロシア軍の最終防衛ラインを担っていた艦隊が白旗を掲げ、各艦の甲板に武器を捨てたGWが並び始める。

 それ程長い時間の戦いではなかったが、セントラルコロニー軍の圧倒的な戦力の前に、ドロシア艦隊は半数以下に討ち減らされ、いずれにしても敗戦は時間の問題であった。




 セントラルコロニー軍の艦艇がドロシア艦艇を取り囲み、武装解除の状況を確認する中、三機のGDは旗艦スカイスタバルティヤに取り付いていた。


『クソ兄貴。もう終わり? もうちょっと楽しませてよ』


『リーザ、本当の敵はこれからだ。それまで我慢しろ』


『オーディンの騎士ねぇ。本当は雑魚いんじゃないの?』


『分からん。対峙してからのお楽しみだ』


『はあ、面倒臭い。ねえ、この辺は粒子レーザー拡散チャフがいっぱい撒いてあるけどさぁ。これってこの距離からだと意味なくなーい?』


 旗艦の装甲に押し当てられた銃口から粒子レーザーの光が溢れ、一瞬で艦体を貫いた。

 レーザー光が艦体の反対側に抜け、拡散チャフによって舞い散って行く。

 リーザというパイロットが旗艦の構造を知っていたとは思えないが、彼女が強力な粒子レーザーを撃ち込んだのは、偶然にもこの艦の艦橋部分であった。

 その結果、ドロシア軍最高齢の提督は一瞬でその肉体を蒸発させ、国家の為に死に場所を得たいという望みを叶える事となった……。


『リーザ! 止めないか。戦後処理が面倒になる』


『はーい。ああ、ウザいぃぃ……ぁぁぁ……』


『リーザ?』


『……』


『落ちたか』


 その通信を境にショッキングピンクの機体が沈黙する。

 しばらくすると、オレンジのGDが動かなくなったピンクの機体を掴み牽引けんいんし始めた。


「タイムアップか……。まあ、あいつはこれぐらいが限界だな」


 ディープグリーンの機体を駆るパイロットが遠ざかる二機を冷ややかな眼差しで見送りながら、口の端を吊り上げていた……。

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