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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 訪れる変化の時
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第82話 「三人の模擬戦闘」

「なるほど。これがオーディンのCAIの調整能力ってやつか。まるでアジュを操縦しているみたいだ」


『ええ。エドワード准尉の操縦データはシミュレーション時に取得出来ていましたから、操縦感覚のズレの調整は容易です』


「容易か……流石だな。ちなみに、リオンと比べると操縦ロスの差はどのくらいになる」


『全体の平均で三〇%といったところです』


「さ、三〇%か……。とてつもない差だな」


『いえ、並みのパイロットであれば一〇〇%を超えると思います。エドワード准尉はもしかしたら……』


「やめてくれよ。俺はそこまで自信過剰じゃない。さて、追い縋って来る敵を倒しましょうかね。セシリア少尉に笑われる前に」


『はい。機体制御調整以外は全てお任せ致します』


「じゃあ、一気に片づけましょう」


 敵の攻撃をなし続けていたディーグルが高台から砂地へ向けて跳躍ちょうやくした。後を追いかけていた敵の機体も後に続く。

 エドワードさんは、着地寸前に脚部のホバージェットをフルブーストし、機体が見えなくなる程の砂塵を舞い上げた。


「ふふ。なるほどね」


 横に座っていたセシリアさんが席を立つ。最後まで見る必要も無いという事なのだろう。


「リオンちゃん、ご飯食べに行きましょうよ。あれなら整備も手間が掛からないでしょうから」


 客席から外へと通じるエントランスへと歩き始めた途端、客席からどよめきと歓声が上る。

 砂塵の中で急回頭したディーグルが、敵機の着地の瞬間を捉えて動力部へと短剣を突き刺していたのだ。

 成り行きを見守っていた客も、もちろん相手のパイロットも分かっていないと思う。

 いつディーグルが回頭し、どうやって相手の着地位置を正確に見極め、いつの間にひと突きで仕留めたのかを。

 エドワードさんはその辺の感覚的なセンスが凄い。いつもの動きを知らなければ、俺もセシリアさんも驚いていたと思う。


 出場チーム用のスタッフルームに行くと、エドワードさんの勝利にピンク髪のノーラさんが飛び跳ねていた。

 今日はエドワードさんで、明後日はセシリアさんが模擬戦闘に出場する予定だ。

 エドワードさんとセシリアさんが強く望んだという事もあるけれど、アウグド憲兵隊からの情報を待つ間の行動を考えた結果、『Crash & Boots』の見学や情報集の為に街をうろつくよりも、模擬戦闘に出場した方が疑われ難いという結論に至ったのだ。

 確かに現在の状況下で、諜報活動をしている者が模擬戦闘に出場するとは考え難い。カモフラージュとしては良いのかも知れない。もちろん、目立ち過ぎないように気を付けないといけないが。




 戦闘開始の号砲と火花が派手に打ち上げられた。

 でも、セシリアさんの操縦するディーグルは、相手からの攻撃を適当に躱すだけで、逃げ回っている様に見える。

 エドワードさんも、対戦時にディーグルの操縦感覚を楽しむ感じで、しばらく適当に相手を往なしていたけれど、セシリアさんはそういう風にも見えない。いったいどうしたのだろう……。


「ねえ、あなたはどのくらい本体と同じ様な会話が出来るの」


『はい。戦闘や操縦に関する事であれば殆ど可能ですが』


「感情とかの話は?」


『私には本体の感情に関する事は、殆ど返答出来ないかと思います』


「そう……。じゃあ貴方の予測で良いわ」


『はい、出来る限りの事は』


「じゃあ聞くけれど。アルテミスはリオンを愛している?」


『それは、どういう意味でしょうか』


「単純な事よ。アルテミスがリオンに対してどういう気持ちを抱いているのか知りたいの」


『それが、人類の言う所の普遍的な『愛』いう事でしたら、恐らく愛していると思います』


「と言うと?」


『ご存じかとは思いますが。私達オーディンのAAIは生物としての生殖的な機能は持ち合わせてはいません。人類の欲求に応える為にそのようなアンドロイドが生産されている事は知っていますが、私達AAIはその様な欲求や感情を持たされていません』


「そう」


『ですので、私の本体であるアルテミスがリオン殿に抱いている想いは、母が子を愛しむのと同種の愛かと思います』


「……そうなのかしらねぇ。何かちょっと違う気もするけれど」


『申し訳ありません。私ではそこまでの事は分かりません』


「ふふ。声も雰囲気も同じなのにね。まあ、良いわ」


『はい』


「最後にひとつお願いが有るの。アルテミスの本体に伝言をお願いしても良いかしら」


『はい、承ります』


「じゃあ、言うわよ……」


 ディーグルが余りに攻勢に出ない状況が続き、客席から罵声が飛び交い始めた。

 相手からの攻撃はかすりもさせないけれど、反撃は距離を取り相手を往なす程度でしかない。

 エドワードさんの様に操縦を楽しんでいるというより、ただ時間を引き延ばしているといった感じが続いている。

 ところが、ある瞬間から急に動きが変化した。さらに緩慢な動きに変わり、明らかに敵を釣り込み始めたのだ。

 そうとは気が付いていない相手は、逃げるディーグルを壁際に追い詰めていく。壁で動きを封じて仕留めるつもりみたいだ。

 敵からの攻撃を左右に躱しながら、壁へと追い詰められて行くディーグル。

 セシリアさんは、どんな仕留め方をするつもりなのだろう。

 

 壁際に追い詰められたディーグルは行動範囲を制限され、相手は背を向けているディーグルに必中の一撃を叩きこもうとしている。

 観客席の誰もが、大した攻撃もせずに逃げ回るばかりのダメな機体が貫かれる姿を予想していた。

 そしてその予想通り、敵機の近接武器の切っ先がディーグルに触れそうになった刹那、壁に向けてフルブーストしたディーグルが、壁を蹴りながらホバージェットをスライドさせ空中に舞い上がる。

 タイミング良くホバー推力を利用して壁を駆け上がり、そのまま機体を捻りながら回頭すると、再びフルブーストをかけて壁を蹴って空中へと飛び出した。

 敵パイロットが想像もしない行動で空中へと逃れたディーグルは、敵機の頭上を越えながら右アームに握られていた短刀を敵ヘッド部へと突き刺し、それを軸にさらに機体をひねり敵機の背後に着地。続けて左アーム側の短刀を動力部へと突き入れた。敵機の動きが止まる。

 一瞬の静寂が訪れ、直後に割れんばかりの歓声が会場を包み込んだ。皆、想像を超えた逆転勝利に酔いしれている。

 

「派手だなぁ」


「ええ、ホバリングをあんな風に使うなんて」


「まあ、セシリアらしいと言えばらしいが、俺が敵を仕留めた時間の一秒前に合わせるところが嫌らしいな」


「流石ですね」


「まったく、彼女には敵わないよ」


 一緒に対戦を見ていたエドワードさんが肩をすくめている。

 別に早く倒した方が勝ちと言う賭けをしていた訳ではないけれど、エドワードさんはセシリアさんの時間の仕掛けに呆れつつも、高い操縦技術に感心していた。確かに凄い動きだったと思う。

 でも、上手過ぎて変に目を付けられそうで怖い……。


「さてと、明後日は俺ですね」


「済まないな。機体が壊れない限り三戦は必ず出ないといけないからな」


「ええ、ちゃんと負けてきますから」


「リオンの負けっぷりが楽しみだな!」


「止めて下さいよ」


 ヤスツナさんと機体のセッティングについて打ち合わせをして、今日は大人しく寝ようと思っていた。でも、案の定二人の祝勝会という名目で一晩中大騒ぎ。

 もちろん、朝起きるとセシリアさんは俺の部屋のベッドで気持ち良さそうに眠っていた……。


 ────


 模擬戦闘の出場にあたり、パイロット名は偽名を使っている。

 出場順にエドワンド、ツーセリアと言う感じで付けていたので、俺はスリーオンかと思っていたら、何故かゼロリオンだった。

 ところが、登録を行ったノーラさんがゼロを数字の0と書いていたらしく、登録名はORIONになっていた。まあ、どうせ負けるわけだしどうでも良いが。

 当日の模擬戦闘は、わざと負けている事がバレると宜しくないので、相手のアームを片方破壊してじわじわと追い詰め、隙を見せる動きを悟られない様に上手く誘い込み、最後は脚部を鎗で突かせて見事敗北した。

 観客席から「オリオン死ね!」だの「オリオン金返せ!」とか罵声を浴びせられたが、狙った通りの負け方が出来たので満足だ。


「リオンお疲れ! 良い負けっぷりだったぞ」


「リオンちゃん、前より負け方が上手になったんじゃない」


 二人に変な歓迎をされながら、スタッフルームのシャワー室へと向かう。

 明日はアウグド憲兵隊との接触の日だ。いよいよ、これからの行動を決めるべき時が近づいて来ていた……。




「なあ。二人ともちょっと良いか」


「あら、ヤスツナ軍曹。どうしたの」


「ちょっと見せたいものがあってな」


「おっと、リオンが壊した機体のクレームか?」


「まあ、良いから付いて来いや」

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