第81話 「アウグド憲兵隊」
「つまり、セントラルコロニー軍の傘下に組み込まれながら、実のところ協力を見せかけていると言う事なのね」
「ええ。そもそも憲兵隊ですので、表向き自軍内の調査が任務になっています。ですが、以前からアウグドで活動されていた各国の軍務関係者のリスト化や内偵も行っておりましたので、憲兵隊と言う立場のまま協力を求められています」
「という事は、我々の情報はセントラルコロニー軍が把握していると?」
「いえ、接収される前にデータは改ざんしてあります。とはいえ、我々の活動を監視されている可能性もありますので、貴女は『軍務関係者の疑い』という形で登録させて頂いています」
「それで、今回取り調べを行ったという事に?」
「はい。取り調べの結果『嫌疑不十分』と報告すれば、接触した事を疑われませんから」
「そうまでして我々と接触する目的は何ですの?」
「はい。反セントラルコロニー連合への協力と言えばご納得頂けますか。アウグドは自由の惑星ですから、他者への従属を好みません。アウグドを愛する各国の思惑も同じかと思いますが」
パーツ街の路地裏で追跡者に囲まれた俺達は、一戦交える覚悟で包囲を突破しようと考えていたが、その必要はなかった。
包囲から歩み出た憲兵隊を名乗る男から拘束された振りをして欲しいと言われ、それに従う事にしたのだ。
護送車でアウグド軍の施設に到着するや否や拘束は解かれ、急に客人の様な扱いになった。
アウグド憲兵隊の取調室の脇に有る隠し部屋に案内され、アウグド軍が行っている反セントラルコロニー軍への活動について説明を聞いていたのだ。
「話は分かりました。ですが、私はただの連絡係でしかありませんから、伺った話を上官に伝え判断を仰ぎます」
セシリアさんは拘束されてからもセシルと名乗り続け、俺の名前は一切呼ばない。相手の把握している情報ラインを見極め、不要な情報は与えず注意深く話をしているのだ。
「それにしても、この変装を簡単に見破られて少々ショックを受けております」
「はい。セシルさんはアウグドに滞在されていた当時から、隊では美しいと噂されておりましたので、エルテリアの情報拠点に現れた時点で、数名の隊員が気付いたのですよ」
「あらあら。かなり遠回りして尾行を撒いたりしたのは、無駄だったのかしらね」
「いえ、賢明なご判断かと思います。セントラルコロニー軍の目が何処にあるか分かりませんので」
「やはりそうですか」
「ええ」
「こちらからの依頼事項については、どれくらい待てば宜しいかしら」
「一週間ほど時間を頂けますか。情報の受け渡しは二番街にあるレストラン……」
セシリアさんは、アウグド憲兵隊にセントラルコロニー軍の侵攻状況や戦力についての情報を求めていた。
反セントラルコロニー連合と協力体制を整える事も大事だが、既にドロシア宙域へと侵攻したらしいセントラルコロニー軍の情報が一番必要なのだ。
特にGD部隊の戦力規模や運用状況を詳しく知りたかった。
アウグド憲兵隊がセントラルコロニー軍の傘下に有るという事で、逆に情報が取れる事を期待したのだ。
「では、そろそろ新人メカニックの彼に模擬戦闘の興業を見せてあげないといけないので、宜しいかしら」
「ええ、人目に付かない所で解放致します」
結局、俺は正体を明かさないままだった。俺の事を新人メカニックと呼んだセシリアさんに、何か考えが有りそうだったからだ。
「セシリアさん。協力体制を組んで行く相手に、身分を明かさなくても良かったのですか」
「ええ。私達の為でもあるけれど、アウグドの為でもあるのよ」
「アウグドの為?」
「そうよ。貴方の存在は思っている以上に大きいのよ。アウグド憲兵隊の中にセントラルコロニー側の諜報員が紛れ込んでいる可能性もあるの。だから、貴方がオーディンの騎士だと分かると……」
「分かると?」
「普通なら惑星全土を封鎖するわね。今後の侵攻の最大の障害になると思われるオーディンの騎士をひとりでも抑え込めるのならば、手段は選ばないでしょうね」
「なるほど」
「貴方は思ってもいないみたいだけれど、リオン・フォン・オーディンという騎士の名は既に知れ渡っているわよ。最愛のセシリア・ハーゲンブラウンが横にいる事も含めてね……」
「えっ?」
「ううん、何でもないわよ」
────
「遅かったな。心配したぞ」
待ち合わせ場所である『Crash & Boots』の会場に着くと、他のメンバーは既に到着していた。
エドワードさんの横にピンク色の髪で派手な格好をした女性が居て、誰かと思ったらノーラさんだった。
怪し気なエリアでも違和感がない様にという気配りらしいが、逆に目立つ気がする。まあ、無事だから問題なしと言う事で……。
「エドワード。エルテリアの情報拠点はアウグド軍に把握されていたわよ」
「おっと、大丈夫だったのか?」
「待ち合わせには遅れる事になったけれど、結果的には大事には至らなかったわ。むしろ良い方向に行ったのかも知れないわね」
周囲に気を配りながら、皆にアウグド憲兵隊からの話を伝えた。
他のメンバーと情報交換を行った結果、セントラルコロニー軍の駐留部隊は今の所それ程の規模ではない事、各国の外交官や軍務関係者と思われる者達は軟禁状態でアウグドから出て行く事は許されていない事、ユーロンコロニー軍は完全に武装解除され反撃能力は残されていない事などが分かった。
入手できた情報の中で一番気になったのは、占領政策を支える駐留部隊の規模が小さいと言う事だった。
支配領域を広げる事が目的であれば、占領した領域に対し大規模な部隊を駐留させ支配体制を確立するはずだ。
だが、主力とみられる部隊の影は見えず、後から入って来た小規模の部隊が徐々に影響力を増している感じらしい。
という事は量産型GD部隊を擁する攻撃部隊は、既にユーロンコロニー領域からドロシアコロニー領域へと向かっている可能性が高い。
直ぐにでも行動を起こしたいのだが、攻撃部隊の戦力規模を把握できなければ対策の打ちようが無いのも確かだ。
その辺の詳細については、アウグドでの情報収集を続けると共に、アウグド憲兵隊からもたらされる情報を待つしかないという結論に達した。
「おおー! 今の攻撃は凄いな。まあ、俺なら躱せたがな」
「そうかしら。アジュなら避けられたかも知れないけれど、あの機体で躱せる?」
「おっとセシリア、それは聞き捨てならないな。俺はエルテリアの試作機でも模擬戦闘には勝っていたんだぜ。リオンには負けたがね」
「相手が弱かったんじゃないの?」
「おいおい。出場できる機体があれば証明して見せるがな」
「あら、上手い言い訳を思い付いたわね」
「なんだか今日は手厳しいな」
「エルテリアの諜報能力に呆れているだけよ。場合によってはリオンちゃんが拘束されていたかも知れないのよ。思い出して段々とイライラしているの」
「まあ、エルテリアは諜報活動には力を入れていなかったからな。模擬戦闘でのデータ収集が主な目的だったから」
「だったら先に言っておいてよ。リオンを危険に晒さないようにしたのに」
「確かに。それは悪かったな」
「二人とも俺は大丈夫ですよ。対人戦は騎士訓練で鍛えられましたから」
「さっきも言ったでしょう。オーディンの騎士という事がバレるのが……」
セシリアさんの声が歓声にかき消された。模擬戦闘の次の試合が始まるのだ。
「堪らないなぁこの雰囲気。機体さえあれば出場するのにな」
「本当、残念ね。私は出場した事は無いけれど、試してみたいわね」
「そうだろう!」
二人の会話を聞いていて、有る事に気が付いた。
「機体はありますよ」
「えっ?」
「ディーグルはオーディンの機体ではないので、生体認証はついていません。誰でも乗れるはずです」
「おおっ、本当か! 乗って良いのか!」
「CAIカードのアルテミスがダメだと言わなければ大丈夫だと思います」
『リオン。貴方が良いと言えば絶対ですよ。私は構いません』
バックに入っているCAIカードのアルテミスから了承の返事が返ってきた。
二人とはシミュレーションで幾度もアクセスした事があるから、連携面でも問題はないだろう。
「アルテミスはOKだそうです」
「よしっ! そうと決まれば帰りに出場登録を済ませてしまおう。勝負だセシリア!」
「望むところよ!」
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磨糠 羽丹王