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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 訪れる変化の時
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第80話 「偽装デート」

「あらら、囲まれちゃったわね」


「みたいですね。どうします」


「どうしましょうね」


「俺が切り崩しますから、セシリアさんはその間に大通りへと逃れて下さい。『Crash & Boots』の会場で待ち合わせという事で」


「ちょっと……リオンちゃん。私を守ってくれるなんて格好良すぎよ。嬉しくてこの場にへたり込んでしまいそうよ。うふふ」


 実はエルテリアの拠点を出た辺りから追跡者に追われている事に気付き、二人で素早く路地裏を抜け()こうとしたが、行く手を次々と阻まれてしまい、行き止まりの路地裏で数人に囲まれる事態に陥ってしまったのだ……。


 ────


「セシリアさん! いつまで水着でウロウロしているんですか」


「そうねぇ、そろそろ良いかしら。リオンちゃんがそう言うのなら、そうしましょうね」


「ちょ、ちょっとセシリアさん。何を……」


 透明のシャワーキャップを被り、ビキニ姿でホテルの部屋をウロウロしていたセシリアさんが、急にビキニを脱いで裸になってしまったのだ。

 慌てて背を向けたけれど、窓に映る姿を思わず目が追ってしまう。


「あら、リオンちゃんが『いつまで水着を着ているの?』って言ったのよ」


「ち、違いますよ……そういう意味じゃないです。本当にそろそろ拠点に行かないと、日が暮れちゃいますって」


「うふふ、分かっているわよ。だからこうしているんじゃない」


 セシリアさんはそう言いながら、シャワールームへと消えて行った。

 しばらくシャワーの音が聞こえて。それが止むと鼻歌混じりのドライヤーの音がし始める。

 バスルームから何も身に付けないまま出て来るかも知れないので、背を向けたままソファーに腰掛け、窓からの景色を眺めていた。懐かしいアウグドの景色だ。

 遊びに来たわけではないけれど、楽し気な街の雰囲気に、懐かしさとワクワクする気持ちが沸いてしまう。とても占領されたとは思えない、明るい雰囲気のままなのだ。

 不思議な感覚に襲われながら街の様子を眺めていたら、背後にセシリアさんの気配がした。


「リオンちゃん、お待たせー。どうかしら?」


 促されて振り向くと。そこにはいつもの赤毛のセシリアさんではなく、見慣れない女性が立っていた。

 濃い茶色の髪をポニーテールにまとめ、大きな花があしらわれたリゾート風のワンピースを着ている。

 やや大きめの丸メガネを掛け、その奥に見える瞳の色は髪と同じ濃茶だった。


「えっ……」


「どう?」


 声はいつものセシリアさんだ。急に赤い髪を染めたりして、どうしたのだろう。


「あ、はい、綺麗です……。いつも綺麗だけど、今の雰囲気も好きです」


「そういう事じゃなくて、ちゃんと変装出来ているか……って、ちょっと待って! 今リオンちゃん何て言ったの! もう一度聞かせて頂戴」


「あ、いや、あの……。す、素晴らしい変装ですね。一瞬誰だか分かりませんでしたよ。ははは」


「うーん?」


 首を左右に傾げながら顔を寄せ、探る様に覗き込む視線に動揺が隠し切れない。


「ははは……景色が綺麗ですねー」


 外の景色に視線を遣り、何とか誤魔化した。


「もうっ! リオンちゃんも早く着替えて」


 手渡された紙袋の中には、白のハーフパンツと紺色のシャツが入っていた。いつの間に買ったのだろうか。

 着慣れない格好に戸惑っていると、セシリアさんにテキパキと着替えさせられてしまった。


「あのね。尾行されている可能性があるから、先ずはこのホテルを抜け出す為の変装をするの」


「あっ……なるほど」


「うん! リゾートを楽しむカップルっぽくなったわね。リオンちゃん素敵よ。鏡の前に立ってみて」


 鏡の前にサングラスを掛けた見知らぬ男と可愛らしい女性が居る。

 アウグドの街中でよく見かけるリゾートファッションだけれど、自分がその格好をするとは思ってもいなかった。


「さあ、出発よ。ちゃんと手を繋いでね!」


「はい……」


 部屋を出てホテルに併設してある商業施設へと移動。

 ショッピングを楽しむカップルを演じながら、渡り廊下や地下街を利用し、隣接する施設の建物へと次々に移動していく。

 しばらく歩き、ホテルから随分と離れた場所で地上に出た。


「ねえ、チュロス食べたい」


「あ、はい」


「ねえ、ジェラート」


「はい」


「レモンスカッシュ!」


「……」


 セシリアさんに連れられるまま、手を繋ぎながら街を歩いて回った。

 オープンカフェの席に向かい合わせで座り、行きたい場所や街行く人のファッションの話で盛り上がる。偽装と言いながら、完全にデートだ。

 セシリアさんからは、いつもとは違う雰囲気で見つめられてドキドキしてしまう。


「行きたい服屋さんがあるの。ちょっと街外れになるけれど、良い古着屋さんが有るのよ。連れて行ってくれる?」


「ああ、良いよ。可愛い君の望む事なら何でも」


 似合いもしない台詞を吐いてみる。

 ホテルの部屋を出る前から「もっと胸を張って!」とか「良い女をエスコートする自信満々の男の雰囲気で!」などと言われ続けていた。

 アルテミスもだが、世の中の女性は皆こんな感じなのだろうか……。


「うーん『君の望む事なら何でも』だって。キュンキュンしちゃう」


 セシリアさんから艶っぽく見つめられて、思わず赤面してしまう。

 いつまで演技を続ければ良いのか分からないけれど、とにかく頑張るしかない。


「じゃあ、行きましょうか」


 カフェをあとにして、タクシーへと乗り込む。

 向かう先は、拠点のあるパーツ街に近い場所。そこでもう一度着替えるらしい。

 一緒に歩いた街もそうだけれど、窓の外を流れて行く街並みや、そこで楽しんでいる人達を見る限りアウグドは以前のままだ。

 セントラルコロニー軍の占領下にある様には見えない。外で行われている戦争が嘘みたいに平和な雰囲気だ。

 午前中から買い物を楽しみホテルのプールで優雅に過ごし。変装をしてホテルを抜け出すといったカモフラージュは必要だったのだろうか……。


「これ、そのまま頂くわ。彼のも一緒にお願いします」


 古着屋の試着室で作業服風の服に着替えて、合わせて買ったナップザックにそれまで着ていた服を詰めて店を出た。

 セシリアさんは安っぽい髪留めで後ろ髪を纏めただけの感じになり、作業服と相まって如何にもメカニックのお姉さんといった雰囲気だ。

 自分も溶接用のゴーグルを首に巻き、こちらもメカニック風に。

 向かう先にあるパーツ街は、お洒落なカップルが行く様な場所ではない。模擬戦闘に参加しているメカニックやパイロットが行く場所なのだ。


「あら、流石にヤスツナ軍曹に鍛えられているだけあるわね。メカニックの格好は違和感なく馴染んでいるわ」


「……お洒落な格好は違和感ばかりで済みませんね」


 ちょっとねた感じで返事をすると、セシリアさんが何故だが嬉しそうにしていた。


「リオンちゃんはそれで良いのよ。エドワードみたいになられたら、私の苦労が増えるだけだから……」


「えっ、何ですか?」


「良いの良いの、気にしないで」




 道々、パーツショップやジャンク屋を覗きながら、目的地の五番街に辿り着いた。

 店の周囲に注意を払いながら入店し、しばらく店内の様子を探る。特に問題は無さそうだ。


「古い電装部品が欲しい」


 エドワードさんに聞いた合言葉を伝えると、ジャンクパーツに埋もれているから自分達で探してくれと言われ。店の裏手にある倉庫へと行かされた。

 雑然とした倉庫の奥に古い大型冷凍庫が置いてあり。しばらくすると、その扉から男が顔を覗かせた。冷蔵庫の扉が隠し部屋の入口になっていたのだ。

 スキンヘッドで厳つい雰囲気。いかにもジャンク屋の荒くれと言った感じだけれど、もう一度合言葉を伝えると、人の良さそうな笑顔になり、中に入るよう促された。

 もう一度周囲を警戒してから、半開きの扉を潜る。


 アウグドで活動を続けているエルテリア軍の情報機関からは、それほど有用な情報は得られなかった。

 平和そうに見えて占領後に入って来たセントラルコロニー軍の諜報活動が激しく、あまり表立って動けていないらしい。

 それでも、セントラルコロニーの占領政策の一端や、他国の諜報員の逮捕などの有用な情報は幾つか得る事が出来た。

 そして、店を出て街へ向けて歩いている時だった。追跡されている気配を感じたのだ。

 セシリアさんと目が合うと、彼女も察していたみたいで、険しい目つきをしながら頷いていた。

 素早く道を逸れ、路地裏に入り追跡者を撒くように動いたけれど、周囲の道は相手の方が詳しく、いつの間にか行き止まりの路地に追い込まれていたのだ。


「俺が切り崩しますから。セシリアさんはその間に……」


「リオンちゃんが格好良すぎて、この場にへたり込んでしまいそうよ」


「……セシリアさん、余裕ですね」


「うーん。何となく危害を加えられる感じじゃないのよ。本気だったら軍用ドローンのテーザー銃とかで撃たれて、もう捕まっているわよ」


「どういう事ですか?」


「ふふ、相手の出方で見極めましょう」


 何か起きた時に瞬時に動ける様に構えていると、包囲している連中からひとりの男が歩み出て来た。


「ヤーパンのセシルさんで間違いありませんね。私はアウグド憲兵隊の……」

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