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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 訪れる変化の時
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第78話 「宣戦布告」

 セントラルコロニー軍へと停戦と撤退の通達を行い、相手の反応を待つ。

 わざわざ相手にこちらの存在を知らせ、戦術的には不利な状況を作る行為になるのだが、オーディンは現在セントラルコロニー政府と戦争状態ではない。

 あくまでも『オーディンは中立を保つ』という原則の中で行動を起こさなければならない。ましてや、オーディンが不意打ちを仕掛けるなど、あってはならない事なのだ。

 ただ実際のところ、この状況下での停戦と撤退の通達は、相手に先制攻撃をさせる為の策でしかない。不意討ちではないけれど、積極的な戦争行為と言われても仕方がないライン。

 平和を望みながらも、今は踏み越えて行かねばならない一線なのだ。


『リオン。来ます』


 アルテミスの声と同時に、セントラルコロニー軍の艦艇から艦砲射撃の光が発せられた。

 高出力粒子レーザー砲の光がエウバリースへと迫って来る。

 シャルーアであれば素早く躱さなければならない程の出力だが、エウバリースはその宙域から動く事なく、オーディンの紋章が入った盾で受けた。

 エウバリースの機体と同じ特殊希少金属で出来た盾が、粒子レーザーを霧散させる。

 直後にアルテミスの竪琴ハープの様な美しい声が宙域に響いた。


『セントラルコロニー軍に今一度問う。我はオーディンを統べる者。天位の騎士リオン・フォン・オーディン。次なる攻撃は我がオーディンへの宣戦布告と見做す。如何か!』


 一瞬の静寂に続き、エウバリースに伸びる一筋の粒子レーザーの光。

 たかだか一部隊の指揮官に、他国との宣戦布告を判断する権限などないはずだ。

 だが、彼らは迷うことなく攻撃を仕掛けて来た。やはりセントラルコロニーは、既にオーディンに対し戦争状態にあるとの認識で間違いない。

 その後も立て続けにエウバリースに艦砲射撃の光が殺到して来た。


「アルテミス……」


『はい』


 アルテミスはいつも以上に凛とした声を発している。いよいよだ。


『本攻撃にて我が申し入れに対する返答として判断する。本日この時を持ち、リオン・フォン・オーディンの名に於いて、オーディンはセントラルコロニー政府とそれに加担する勢力からの宣戦布告を受領したものとする』


 アルテミスの宣言終了と同時に、両アームに握られた粒子レーザーの光が敵艦に向けてほとばしった。

 艦砲射撃級の高出力粒子レーザーが艦艇のメインブースターを貫き、その先の艦艇を火球に変え消し去って行く。

 瞬時の三射で六隻が航行不能となり、その倍の艦艇を撃沈。撃沈されたのは警告時に攻撃を仕掛けて来た艦艇だ。

 自分としては出来る限り艦艇の撃沈は避けたいと思っている。

 後から情報収集をするという理由もあるけれど、不必要に大勢の命を奪いたくはない。敵を戦闘不能にしてしまえば良いだけなのだ。


 エウバリースの粒子レーザーによる強力な射撃に対して、艦隊から粒子レーザー拡散チャフが一斉に宙域に撒かれた。

 こちらの粒子レーザー兵器による攻撃が防がれた形になるが、それは敵艦艇も同じ事。

 艦砲射撃の至近距離からの直撃であれば、流石にエウバリースの筐体といえども損傷を免れないが、その最大の攻撃力である艦砲射撃を自ら封じたとも言えるのだ。


「行くよ。アルテミス」


『はい』


 フットペダルを強く踏み込むと、瞬時にコクピットシートに体が強く押さえつけられる。

 シャルーアよりも数倍早い加速だが、対Gコクピット機構のお陰で体への負荷は最小限に抑えられている。

 弾ける様な加速で、全球モニターのHUDにピックアップされている敵艦が、飛ぶような勢いで近づいて来た。

 刀身が青く光る長剣を握り、エウバリースを敵艦の懐へと飛び込ませ、メインブースターや機関部へと剣を振るうと、高硬度のはずの外壁が抵抗を感じる事もなく切り裂かれていく。

 一方、艦艇の横を凄まじい速度で通過しながら、アルテミスの操る二本のウィップソードがきらめき、艦艇の砲塔やミサイル発射口などを破壊している。

 白い航跡を残像の様に輝かせながら、混乱するセントラル軍艦艇を次々と攻撃し、戦闘不能の状態へと追い込んで行った。

 敵艦艇の半数以上を戦闘不能の状態へと陥らせた所で、艦隊がひしめく宙域を後に。

 自ら撒いた粒子レーザー拡散チャフの影響で艦砲射撃もままならず。損傷した他艦艇の救護の為に右往左往しているセントラルコロニー艦隊の脅威は著しく低下している。

 そして、これから対峙するのは、母艦を襲われ一斉に退却して来た敵機の部隊。そう、セントラルコロニー軍の量産型GD部隊だ。

 

『リオンお見事!』


『格好良い宣告だったわよ』


「いや、言ったのはアルテミスだし……」


『いいえ。リオンの天位の騎士としての力があるからこそ、あの様な通告が出来るのですよ』


 敵GDに向かうエウバリースに、小惑星の陰から飛び出したアジュとクナイが合流する。

 褒められてうわつきそうになる気持ちを引き締めた。

 敵のGDは確認した限りでは動きが悪く感じたが、本当の実力は分かっていない。

 遂にセントラルコロニー軍が開発した量産型GDとの初接触の時が来たのだ。


 ────


「弱すぎる……」


 確かにこれまでのGWに比べると、とてつもない火力と機動性能を持っている。

 だが、オーディンでの騎士訓練で対峙した訓練用GDよりも動きが悪く、アジュとクナイとの連携で容易く撃墜されてしまうのだ。


『リオン。このまま宙域を制圧してしまおう』


「了解。敵GD殲滅せんめつ後に艦隊を制圧という段取りで」


『了解』 


 稚拙ちせつな動きしか出来ていない敵GD部隊の中で、急回頭でも滑らかに動いているのは、恐らくCAI単独による操縦の機体。

 強烈な攻撃を繰り広げてくるが、これはパターンが直ぐに解析出来て問題にならない。

 だが、本来は対応が厳しいはずの、パイロットが機乗していると思われる機体は、コクピットの対G処理が上手く行っていないのか、無駄な動きばかりで酷い有様だ。

 こうなると、出来れば鹵獲ろかくして敵GDの機体詳細を調べたい所だが、残念ながらそうする事は出来なかった。

 技術の漏洩を絶対にさせないという事だろうか。機体が戦闘不能の状態に陥った途端に、機体の焼却処理が始まるのだ。

 まだパイロットが機乗していると思われる状態でも、機体が内部から溶けて行く。

 機密の漏洩を防ぐ為とはいえ、セントラルコロニー軍の非道さに戦慄を覚えると共に、許しがたい怒りが沸き起こる。


「セントラルコロニーに住む人達が、どんな人達なのかは知らないけれど。こういう事を認める国家なのだろうね。本当に許せないよ」


『リオン、落ち着いて下さい。その強い敵意は、無為に人を殺めるかも知れません。それは貴方が望む未来では……』


「大丈夫だよ、アルテミス。抵抗出来なくなった艦艇を沈めたり、降伏や救難信号を出している人を見捨てたりしない。ただ、セントラルコロニーという国家に対して、絶対に人の未来を託してはいけないと言う気持ちが強くなっただけだよ」


『失礼しました。私が心配し過ぎました』


「ううん。怒りが湧き起こっていたのは事実だから。落ち着かせてくれてありがとう」


 ────


「なるほど。あのGDは試作機の部隊だったという事ですね」


 セントラル軍艦隊を完全に無力化し、ユーロンコロニー軍の捕虜となった者達から情報収集を行っている。

 尋問に時間はかかったが、有益と言える情報をいくつか入手する事が出来た。

 GD部隊が弱かったのは、試作機の寄せ集めの部隊であった事。完成型のGDは別動隊である本隊と共に、ユーロンコロニー群の領域を目指している事。その本隊がセントラルコロニー軍の精鋭部隊で有る事などだ。


「しかし、ドロシア軍特殊部隊の方々の尋問は凄いですね。全く口を割らなかった敵兵が、こちらが聴いていない事までペラペラと話してくれましたよ」


 ユーロン軍の士官と共に尋問の報告に来たグリーンコフ中尉が、話を聞きながら得意げな表情をしていた。


「グリーンコフ中尉。まさか非人道的な……」


「いえいえ。手荒な事は一切していませんよ。常識の範囲内に収まる程度です」


「……」


「我々は至急本国へと戻り、捕虜より聞き出した情報を伝えます。オーディンの皆様は如何されますか」


 貴重な情報をもたらしてくれたユーロンコロニー軍の士官が、姿勢を正しこれからの事を訪ねて来た時だった。


『リオンさん。ユーロン艦から入電です。繋ぎます』


 面談室にノーラさんの通信が入り、モニターにユーロン艦の指揮を執る上級士官の姿が映る。


『オーディンのリオン殿。とても大変な事態になってしまいました』


 士官の表情が険しい。何か重大な問題でも起きたのだろうか。


『本国と通信連絡が出来たのですが……。本艦隊は武装解除の上、指示されたルートにて速やかに帰還する様にとの指示でした』


「武装解除の上、帰還?」


『はい。我がユーロンコロニーは……。我がユーロンは……セントラルコロニー軍に占領され、既に降伏しているとの事です』

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